スキル名を叫べない男達

 魔王領、最奥、エーベルンシュタット。


 魔王軍の最精鋭が守りを固める難攻不落の魔都。



 空には古代龍が舞い、陸は不死身のゴーレムが徘徊する。

 賑わう都の半数は、連れ去られた奴隷の叫びと、それを引き裂く魔族の饗宴きょうえんで彩られる。

 そして、都の中心には空へと届けと言わんばかりの尖塔が連なる魔王城がそびえ。その地下には地上部分をはるかに超える地下帝国と言わんばかりの構造が蔓延はびこる。


 その地下空間の最奥。星を貫かんばかりの地下深くに魔王の居室はあるという。






 その魔都の一角。

 勇者パーティは暴れに暴れ、遂に魔王軍の最精鋭である。

 魔王親衛隊を出撃させるに至った。


 数多いた軍勢は大半が何らかの被害を受けており、

 自慢の空軍部隊である───主力の古代龍は半数が撃墜、のこりは地上撃破の憂き目にあっていた。


 さらには、不死身を誇るゴーレムも核ごと打ち砕かれ、今や都を埋める砂礫されきと化していた。


 通常部隊である魔族の歩兵達は近づくこともままならぬ、火を噴く鉄筒に撃ち抜かれ負傷者の山を作るのみ、


今や命を惜しんで遠巻きに勇者パーティを包囲する───!


 でも、実際はそのていを装っているだけで、誰もがしり込みしていることは明白だった。


 その状況を作りだしたのは、間違いなく勇者パーティであったが、

 それ以上に、長年続く戦争は魔族を疲弊させており、喧伝けんでんされている以上に魔族側の練度も高くはなかったのだろう。


 しかし、


 ここからが本番───。

 文句なしの最精鋭……!


 泣く子も黙る魔王軍親衛隊イビルガーズの登場だ。


 遠巻きに包囲していた魔王軍から、歓声が上がる……。

 

「どうやらついに来たようですね……」

 聖女は元から細い目を更に細めて言う。

「へ……腕が鳴るぜ!」

 筋肉なのかオパイなのかわからないが、文句なしの美女が、その美貌を歪めて凶悪に笑う。

「常に冷静に……精霊は正しきものの味方です」

 ホワワ~と光る蝶の様な精霊を纏わせてエルフの長老は語った。

「纏めて叩き潰してくれるわ!」

 ガハハッハハと、豪快に笑うのは、鹵獲した魔族の蒸留酒を豪快にラッパ飲みしているドワーフ。


 そして、


「うーーー……! うぅーーー……!!」

 なぜかグルングルンに簀巻すまきにされているのは異世界の兵士……。



「「「「うるさいッ」」」」


 ………。


 ……。


 しゃあねぇな……と、ドワーフが拘束を解いてやると、

 涎でドロドロになった猿轡を外され、真っ赤になった口元で……恨み節を述べつつ、非難の目で全員を見やる。


「やりすぎでしょ!!」


「やかましか」

「しゃべんな」

「だまれ」

「うっさいボケ」

 

 ……。


 あっという間に一斉攻撃。


「アナタが笑うと士気が下がるうえ……気分が悪いのですよ」

「いや、だって……」

 聖女に詰問されても、モゴモゴと言い訳をする異世界の兵士。


「そもそも何が可笑しいんだよ!」

「いや、スキル名叫びながら、攻撃しているあんた等が……」


 キッツイ目の女戦士に睨まれつつもはっきり回答。


「我々を愚弄ぐろうしているとしか思えません」

「そういうわけじゃないって!」

 冷静なエルフの声に、自分の旗色が悪いとようやく気付く、


 しかし、


「次に笑ったら、脳天カチ割ってくれるわッ!」

「そりゃいくらなんでも……」

 



「「「「お前が悪いッ!」」」」



 はい……すみません。



「そもそも、スキル名を叫んでなぜ悪い?」


 異世界の兵士に詰め寄るドワーフに対して、


「そもそも、なんで叫ぶの?」


 ……………………。


「「「「雰囲気?」」」」


 ……みんな知らないようだ。

 つまり、叫ぶのが発動の条件だったりするわけではないようで───。


「だったら叫ばないでやろうぜ?」

 とは、異世界の兵士のげん───。


 理由?



 だって、笑うでしょ!?


 いい年してオッサンとか、爺さんとか、美人が、

「ギガントなんとか~!」

 って言いながら剣を振り下ろしてたらさ!


 ───でしょ?!


 へい、

 へいへい!

 そこの君!


 いまこれを見てる君!


 君だよ君!

 パソコンか、スマホで文字を追ってる君ぃ!


 そう、君だよ!!


 で、どうよ?

 おかしくない!?


 ワザワザ技名叫んで剣とか振る?

 魔法ならまだわかるんだが……。


 君らならわかるだろう?

 剣道の試合で、「秘技! 浦波ぃぃぃ!」とか言って竹刀降り回してたら……笑うでしょ!


 っていうか、ドン引きでしょ!


 少年誌の世界やん!

 どんだけですねん!



 悶々と頭を抱えて唸っている異世界の兵士に、勇者パーティは少し考えてみるが……。

「「「「なんかおかしいかな?」」」」


「おかしいわ!!!!!」

 とまぁ、でっかい声で……!



「いやさ、おかしいだろ!? 気合で、うおおおお! とかなら分かるけど、スキル名叫んで突っ込むとかジャンプするとか、エフェクト賭けつつドッカーンとかなんなん!? っていうか、アレだよ……技名自分で考えてるの? ねぇねぇねぇ! そこんとこ聞きたい! メテオクラッシャーとか自分で考えたの!? ねえねえねえ!! 普通ああいうのって中学卒業くらいで言わなくなるよ!? 黒歴史だよ!? って言うか俺も、昔は言ったことあるわ! ディープロードシャウト! とか、なんか習いたての英語使ってカッコよくスキル名とか使ってたわ! そして、真面目に考えて友達に発射してたわぁぁっぁぁ!!!」


 はぁはぁはぁはぁはぁ……。


「「「「お、おちつけ……」」」」



「これが落ち着けるか!! いいか! 俺は思うに、お前らがスキルを叫んでドッカ~ンとやることに笑っちゃうのは、純粋に面白いということもあるが、一番の原因は『失笑』なんだよ! わらう? ちゃうで、苦笑いですよ……! 昔の純粋だったころの俺とかを思い出しちゃってついつい笑っちゃうのよ! つまるところ、これは『痛い』んですよ! 君らを見てると昔の黒歴史を思い出して痛いんです!! あーーーもーーーー思い出したくない! なんだよ……なんか俺昔右手になんか封印してたよ!? なんかってなんだよ……! 実際に右手がうずくぜ……とか言ってたよ!! あーーーもーーー! なしなしなし! あれはなし!!!」


 はぁはぁはぁはぁ……!


「おちつかれよ……」



 ついには、心の内をぶちまける異世界の兵士。


「いいから、スキル名叫ぶのやめよ? ね? 頼むから!」


 それにオカシイだろやっぱり!


「聞きたいんだけど、魔族はともかく、人間同士で戦争するときとか、どうしてるのよ? 誰でもスキル使えるんでしょ?」


 顔を見合わせる4人。


「そりゃまぁ……」

「バッシュとか、スマッシュとか……」

「スローイングアローとかありますね」

「基本技のインパクト! くらいなら誰でも使えるぞ?」


 マジで……?


「え? じゃぁ……戦争───どうやってるの?」


 どうって、そりゃ───、

 ……と、ドワーフが解説するには、こんな感じ……───。







 ごぉぉおぉぉぉぉぉぉ──────……!




 並居る軍勢、

 両者会いまみえる戦場。


 既知の敵将同士が不敵に笑い合う……。


 ニヤリと口を歪めると、言う!



「「突撃!!」」


 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


 ときの声をあげて吶喊とっかんする両軍の兵士達、


 そして、激突!!!

「ライジングインパクト!」「ブレイブスマッシュ!」「クイックシュート」「フレイムアロー!」「セイントナックル!」「バッシュ!」「シャープシュート!」「ローリングキック!」「トルネートスパイク!」「トライアングルビート」「ビハインドパンチ」「ゴッドブレス!」「フォースシャウト!」「ベアーズファング!」「イーグルタロン!」「アイスチョップ!」「イビルアイ!」「ゴーストホロウ!」「サークルデス!」「ヘブンズゲート!」「ストームブリンガー!」「グレートソバット!」



 ……。




「え?」

 ───マジで?


「戦場はいつもこんな感じじゃの~?」


 なんでもないようにいうドワーフに……引き攣った顔を隠せない異世界の兵士───。


 ……マジですか?

「マジだけど、なんか文句ある?」

 口を尖らせて苛立ちを隠さない女戦士。



 も、


「も?」


 ……。


「文句しかないわーーーーーー!!!!!」


 カカカァ!


 一喝するかのごとく叫ぶ異世界の兵士は、涙ながらに思う。


 オカシイだろ……!


 命のやり取りの最中に、「ブレイブインパクト」~とかで殺されたら死んでも死に切れん、まさに「無礼ぶインパクト」……。


 異世界の兵士の脳裏にあるのは、自らの世界の歴史の事実。

 

 第2次世界大戦中の太平洋戦線。

 その激戦地のとある島で、洞窟陣地に立てこもる兵士が、敵に最後の突撃を敢行せんとす。


 そんな命を賭した最後の彼らの戦いが──異世界風に言うならこうなってしまう……!



 とある洞窟陣地にて、


「逝くか参謀長」

「師団長殿、兵はよくやってくれました、我らここで死して護国の鬼となりましょう」

「うむ、称賛されるは兵のみでよい! 階級章、飾証モール全て遺棄せよ……今宵は一兵士として逝こうぞッ」


「は! では、お先に───」


 シュランと抜きだす、軍刀が月に映える……!


「うむ、では行くとしよう」


 将軍がスっと、とりだしたのは、死した兵の持っていた銃剣付きの小銃。


 いや。いまや違う。

 それを初老の兵として扱うのは……元将軍。


「では、諸君───……我に続け!」

 ズァッァァッァア! と、視線を投げれば、暗闇の洞窟陣地の奥からズラリと並んだ兵士の一団。


 その数、200名!


「皇国の一戦、ここにあり!」



 ……!!



 と・つ・げ・き───突撃ぃぃぃぃぃぃ!




 うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!



「浪花節アタック!」「ライフルチャージ!」「護国護持矜持剣!!」「インパァァクト!」「ブレイブハート!」「刀乱舞!」「神姫繚乱!」「秋津天覧!!」「レンドライジング!」「ホワイトコーヴ!」「ライジンサン!」「竜舌山河!」「グランドレス!」




 ……。


 とか言いつつ、敵陣に突撃して~……!



 すぐに気付いた、星条旗の奥の兵が、警報を鳴らし───。


「ヒャッハ~~! 万歳アタックだ! 全員起きろ、撃って打って打ちまくれ!!」

 

 了解!!

 とばかりに、塹壕に据え付けた機関銃に取りつき───!

 

 哀れにも、身一つで突っ込んでくる将兵目がけて、


「シャープシューター」「トリプルショット」「ランダムショッツ!」「ドラムザビート!」「マシンガンフィーバー!」「エグゼクティブシュート!」「ゴッドファイヤ!」


 バババババッババババババババババッバババババババッババババババッバババ!!!!!!!!


 ぎゃああああああ……!


 ……。


 って感じで反撃されたらどう思うよ…?




 ……どう考えてもおかしいでしょ!!!


 普通に考えて、スキル名叫んで突撃とか「頭が凄い……」としか───!

 そんでもって、スキル名を叫んで阻止射撃を撃つとか、





 結論……現実世界でスキル名叫ぶとか……オカシイ!!!





「やっぱ……おかしいって───」




 魔王軍親衛隊がジリジリ迫りつつある中で、異世界の兵士はいう。



「スキル名ってさ───」








「───叫ぶ必要性ある?」






………………完結??


────あとがき────



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叫ぶ必要あるの? LA軍@多数書籍化(呪具師200万部!) @laguun

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