第五話【Saison des deux ~二人の季節~】

引っ越しを告げられた次の日、昼休みになると秋冬は屋上へと向かった。また独りに戻るのか。道端に咲いている雑草のように、誰にも気づかれない自分に。


こんな想いをするくらいなら、やっぱり最初から独りでいるべきだった。


秋冬が屋上で独り涙を流していると、あの日と同じように春夏がやって来た。引っ越しのことを知らない春夏は満面の笑みを浮かべている。


やめてくれ、君と過ごす時間が長くなればなるほど後悔が大きくなる。なのに、どうして君はそんなにも眩しくて温かいんだ。


自分のことばかり考えて出会ったことを後悔するなんて馬鹿げていた。君と過ごした日々に後悔なんて一つもなかった。全てが特別だった。


『いつだって君は僕の日常を輝かせるんだ』


秋冬は父親の引っ越しには付いていかず、一人暮らしをして今の学校を卒業したいという思いを伝えた。父親は困惑した様子だったが、秋冬の真っ直ぐな目を見て認めることに決めた。


秋冬はもう見えないバリアを張る必要がなくなったのだ。


『鳥居坂』に足を運んだ秋冬は、まだ花の咲いていない桜を見て、春夏と見た満開の日のことを思い出していた。これからも君と一緒に変わりゆく季節を過ごしていきたい。今度は僕から君を誘おう。


君はセゾン、僕もセゾン。


二人のセゾン。


第五話 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二人セゾン @smile_cheese

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る