第四話【Saison d'hiver ~冬の季節~】

文化祭以降、秋冬はクラスにも馴染めるようになり屋上で過ごす時間もなくなっていた。相変わらず昼休みになると春夏は秋冬の元へとやってきて、何気ない話をして笑っている。秋冬はこの時間がずっと続けばいいなと思った。


ある日、秋冬は瑞季に呼び出され、春夏のことをどう思っているのか問いただされる。秋冬は戸惑い答えに詰まっていると、瑞季は真剣な表情で春夏への想いを打ち明ける。何度も告白しているが、春夏にはずっと変わらずに想い続ける相手がいるのだという。


瑞季は春夏に告白する度に言われてきた言葉を秋冬に伝える。


「ヒーローを待っている」


瑞季はこのヒーローが秋冬なのではと問いかけるが、秋冬には何も身に覚えがなかった。しかし、以前、詩織からヒーロー失格だと言われたことを思い出す。


秋冬がなぜヒーローなのか。詩織に話を聞こうとするが、言い出したのは春夏だから直接本人に聞くようにと言われてしまう。その日の帰り道、春夏と偶然出くわした秋冬は意を決して、ヒーローのことについて聞くことにした。春夏は嬉しそうな表情を浮かべている。


幼い頃、バレエ教室に通っていた春夏は引っ込み思案な性格で誰とも打ち解けることが出来ずいつも一人だった。楽しそうに練習している秋冬、詩織、友香の三人の輪に自分も入りたかったが、その勇気がどうしても出せなかった。


そんな春夏に気づいた秋冬がゆっくりと近づいてきて、人差し指を立ててこう言った。


「この指とまれ」


それは誰でも一瞬で仲間になれる魔法の言葉だった。春夏が秋冬の人差し指を掴んだその日から、三人の輪は四人の輪になったのだ。


秋冬が忘れていた記憶は春夏にとって忘れられない大切な記憶だった。


「あの日から秋冬くんは私のヒーローなの。だから、屋上で再会したとき、今度は私の番だって」


秋冬は、あの日聞き取れなかった春夏が言った言葉が「この指とまれ」だったのだと気づいた。


秋冬がヒーローである理由を知り、少し照れ臭くなった二人は「また明日」とだけ言葉をかけて各々の家へと帰っていった。


気持ちが高ぶっていた秋冬だったが、厳しい現実を突きつけられる。父親から春までに引っ越しをすることを告げられたのだ。


第四話 完

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