第三話【Saison d'automne ~秋の季節~】
本格的に文化祭に向けた準備が始まった。しかし、これまで人との関わりを避けてきた秋冬はダンスのまとめ役に身が入らない。さらに、演劇の主役である春夏と瑞季の関係が気になってしまい、練習が上の空になっていた。
一向に練習に身が入らない秋冬に美愉は静かに怒りを口にする。
「やる気がないなら帰って。後は私がみんなをまとめるから」
美愉は友人の春夏を秋冬に取られたような気がしていて、秋冬のことを敵対視していたのだった。
秋冬は美愉にまとめ役を譲ると体育館の隅っこに座り込んでしまう。これでいいんだと自分に言い聞かせながら練習するクラスメイトを見ていた。すると、すぐに美愉の異変に気がついた。動きがぎこちない。美愉はダンス部ではあるがバレエは全くの素人だったのだ。
結局練習は上手くはいかず、悔しそうな美愉を尻目にクラスメイトは帰っていった。秋冬も帰ろうかと思ったが、春夏たちのことが気になり教室に向かう。そこで、バレエではなく演者を希望した詩織に何をしに来たのかと問いただされる。
事情を知った詩織は大きくため息をつくと、秋冬の手を引っ張り体育館へと向い走り出した。すると、そこには一人で必死になってバレエの練習をしている美愉の姿があった。
「あの子、バレエは初心者だけど、人一倍努力することに関しては 誰にも負けないの」
何度転んでもすぐに立ち上がって練習を続ける美愉の姿を見て、秋冬は過去に置き去りにしていた感覚を取り戻していた。秋冬は美愉に深々と頭を下げると、再びまとめ役をやらせてくれないかと懇願した。美愉は拒むつもりだったが、詩織の後押しもあり承諾する。
人が変わったように熱心に指導する秋冬の姿にクラスメイトは驚いたが、すぐにその熱が伝わる。秋冬の提案で美愉の得意とするダンスも取り入れ、完成に近づく頃には美愉との壁もなくなっていた。
文化祭は大成功に終わった。
演者たちの演技はもちろんのこと、ダンスパートのクオリティの高さに生徒たちからは拍手喝采だった。
すっかり昔の輝かしい表情に戻っている秋冬を見た詩織は舞台袖で涙を流す。
「おかえり、私たちのヒーロー」
第三話 完
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