第71話 ピンチの先にチラ見え豪華宝箱
ユイのやる気と反比例するように、ポケットの中にしまったペガちゃんの光はじわじわと弱まり続けていた。
ここは地下。辺りは真っ暗。しかも相手は黒い体のクロモヤ魔物。
ユイにとって圧倒的不利な状況だったのだが……その目の輝きは一切失われていない。
なぜなら……絶対的な自信を持っていたから!
「うおぉぉぉ! ペガちゃんのカタキぃぃぃぃ!」
正確に言えば、ペガちゃんは死んでない。
が、あたかも無二の親友を失ったかの如き怒りを胸に、ユイはピンクゴールドの剣でクロモヤ魔物に斬りかかった。
カツンッ!
火花が散り、鋭い音が地下洞窟内に響く。
ユイの剣が敵にヒット……したわけではなく、当たったのは壁。
暗闇の中で敵の声と気配だけを頼りに攻撃を仕掛けたユイだったが、暗闇の中、その闇に溶け込むクロモヤ魔物が相手では余りにも分が悪すぎる。
「クァゲクァゲ!」
声を上げて挑発するクロモヤ魔物。
その声だけを頼りに剣を振るうユイ。
だが、狭い地下洞窟内で反響する相手の声を確実に捉えることができず、カツンカツンと壁や地面を叩く音が重なるだけで、何の手応えも得られることができなかった。
「もう! 暗い場所で黒い格好してくるとかズルすぎ~!!」
思うように攻撃できない上、相手からは好き放題やられる状況に苛立ちを募らせるユイ。
その叫びが地上のロフニスに届いて助けに来てくれたら……と一瞬思ったあと、すぐに首を横に振った。
ロフニスより私のが強い。
私が勝てないんだからロフニスも勝てない。
というか地下が苦手なロフニスはむしろお荷物……などと、彼に聞かれたら肩が地下にめり込むほど落ち込みそうな理論を心の中で展開させていた。
ただ、そんなことを考える余裕すら……。
「クァゲゲゲ!!」
クロモヤ魔物の勢いが数段階上がり、ユイに対して連続攻撃を仕掛けてきた。
「うわっ!」
「クァゲゲゲゲ!!」
「いたっ!」
「クァゲゲゲゲゲ!!」
「うっ……」
地の利を活かして圧倒的優位に立つクロモヤ魔物の攻撃は全てクリーンヒット。
ついに、ユイの体から赤い数字煙が飛び出してしまった。
つまり瀕死状態。
あと、たった一撃食らっただけで終わり。
万事休す……もうダメだ……などとユイが簡単に弱音を吐くわけが無かった。
「お兄ちゃんじゃあるまいしぃぃぃ!!」
短時間で2人の男子心を傷つけながらユイは最後の気力を振り絞り、目の前の暗闇に向かってピンクゴールドの剣を振るった。
カツンッ!
当たったのはまたしても壁。
火花が散り、地下洞窟内に乾いた打撃音が響くだけ。
「クァゲクァゲ!」
クロモヤ魔物のあざ笑う声がユイの心に突き刺さる。
「ちょっ……これ本当にヤバいかも……」
ついに弱音が漏れ始める。
「だって、クロモヤってばめっちゃ余裕の顔って感じだったし……あれ?」
自分の言葉にハッとするユイ。
ピカピカに輝いてくれてたペガちゃんはもう死んじゃったし(死んでない)。
小さな光ひとつもない真っ暗闇のはずなのに。
今だって瞼を閉じても開けても同じぐらいなのに、なんであの時は……あの時!
あの時ってことは……!
何かに気付いたユイの瞳が再び輝きを取り戻す。
「クァゲクァゲ!」
何も知らないクロモヤ魔物は余裕の高笑いを続けている。
「えいやぁぁぁぁ!」
ユイは高笑いの聞こえる辺り目がけて駆け寄りながら剣で斬りかかる。
クロモヤ魔物が避ける……のは想定内。
ユイの剣は空を切り、壁にヒット……こっちが真の目的。
その衝撃により生じた火花がほんの一瞬、辺りの様子を露わにする。
「よしっ!見えた!壁!」
ユイは少しずつずらしていくように、次々と壁を斬りつけていった。
その動きを警戒して巧みにすり抜けているのか、クロモヤ魔物の姿を捉えることはできない。
が、ユイは文字通り光明を見出していた。
壁沿いに剣を叩き続けて行けば、この空洞内の形や広さが分かってくるはず。
さらに、空洞と繋がってるのはユイが通ってきた通路のみだとしたら、つまりこの空洞が行き止まりであるなら、クロモヤ魔物をその道に追い込んで狭い通路で攻撃を仕掛けつつ、縦穴まで追い込んで行けば明るくなって──。
「おっ!?」
若干都合の良い策略を張り巡らせていたユイの目に、分かりやすく“良さげなモノ”が飛び込んできた。
壁の下に置かれたソレは形からして明らかに宝箱!
しかも、火花の明かりで一瞬見えただけ分かるほど超豪華な装飾!!
「ほ、欲しい……!」
よだれを垂らしそうな勢いで宝箱に心奪われるユイ。
いや別にクロモヤ魔物とのバトルそっちのけなんてことじゃなく、むしろその宝箱の中には相手に勝つために必要なアイテムが入ってるに違いないから!
ゲームとかでよくあるパターン!
と、心の中で言い訳しつつ、ユイが宝箱が置いてある辺りの暗闇に手を伸ばしかけたその時。
「クァゲクァゲクァゲゲゲゲゲ!!!」
背後からクロモヤ魔物の悲鳴にも似た大声が鳴り響き、ユイは思わず「ひっ!」とすくみ上がった。
明らかに今までとは別次元の気迫。
……そうだ。
その宝箱に強力なアイテムが入ってるのだとしたら、それを取ろうとする私の動きをみすみす見逃すわけがない……。
でも私だって……諦めるわけにはいかない!
お宝のため……じゃなくて、ペガちゃんのカタキ!
ユイは宝箱に伸ばしてた手を戻してピンクゴールドの剣を握り直し、恐怖心を振り払うように勢いよく体を反転させた。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった ぽてゆき @hiroyu
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