第70話 クロモヤ魔物

 空から落ちてきた攻撃は、ユイが放り投げた黒石キューブに命中!

 そして……見事にガード!

 2回連続となる魔法攻撃。

 つまり、何もしなければロフニスの銅像は木っ端微塵に破壊されていた、ということ。


「ナイス、ユイ! 凄すぎる‼」


 地上に立つロフニスからの喝采を浴び、でへへと照れるユイ。

 黒石キューブは攻撃を受けた後、僅かなヒビが入った程度で、そのまま砦頂上に置かれていた青白キューブの上に上手いこと乗っかっていた。

 結果的に、魔法攻撃でも物理攻撃でも守ることのできる“二段構え”の形が完成。

 ……だが、まだまだ安心は出来ない。

 それはあくまでも偶然の産物で、下手したら上に投げたキューブがユイ自身目がけて落下して、大ダメージ……なんて可能性も十分あり得た話。

 ユイは急いで砦を駆け下り、ロフニスと作戦会議を始めた。


「ねえロフニス、次はどっちの攻撃が来ると思う?」

「うーん……分からない! まだ始まったばかりだけど、たぶん明確な規則性みたいなものは無いんじゃないかな……って」

「そっか。それじゃ……どんどん強い石を置いていくっきゃない……ってことだよね!」

「……うん! さすがユイ、とことん前向きだねぇ~」

「でへへへへ!」


 と言うわけで、会議はあっさり終了。

 物理攻撃に魔法攻撃、そしてこの先、もしかしたらそれ以外の攻撃が来るかも知れない。

 ある意味、とてもいやらしいミッションに思えるが、見方を変えれば、”とにかくガッチガチに強固な砦を作って銅像を守ればいいだけ”とも言える。

 その目的を達成するための鍵は、間違い無く自分たちの足元、地下深くにあるはず……!

 何としてもロフニス像を守る、という熱い想いを胸に、ふたりは地下エレベーターに向かって駆けだした。



 今回は役割を交代し、ロフニスが亜空間式土吸い掃除機を使って新たな石の開拓担当、ユイは石取りスキルチョーカーを装備し、黒石キューブを切り取って地上に運ぶ係を受け持つことに。

 なんだかんだいって、次の攻撃を完璧に予想することはできないものの、確率的に言うとまた同じ魔法攻撃が来る可能性が高いので、念のため黒石キューブを確保しておいたほうが良いんじゃ無いか……と。


「よっしゃ任せて! ガンガン切りまくって上に持っていきまくっとくから!」


 やる気満々のユイはペガちゃんを引き連れて、黒壁のある空洞に移動し、早速ピンクゴールドの剣で斬りかかった……が、その時。


「クァゲェェェェ!」


 突如、空洞内に甲高い悲鳴のような鳴き声が響き渡った。


「うわっ、なに⁉」


 焦るユイ。

 ペガちゃんも「ペ……ペェ……⁉」と驚いたせいか、体から放たれる光が強まった。

 すると、黒壁の手前に、微妙に濃度の違う黒いモヤモヤの姿が浮き彫りになる。

 さらに目を細めて凝視するユイ。

 それは……。


「うそっ、魔物?」


 そう。

 ユイより少し大きいぐらいのモヤモヤには、本当にうっすらとだが、目と口があることに気付いた。

 黒くてモヤモヤした魔物、略してクロモヤ魔物は、風も吹いていないのにゆらゆらと右に左に怪しく揺れている。


「えっと……ごめんね、そこにいるなんて全然気付かなかったから」


 ユイはぺこりと頭を下げた。

 たしかに、わざとでは無いにしろ、最初に斬りかかったのは自分の方。

 なので、とりあえず謝ってみたわけだが……それで済むほど異世界の地下は甘く無かった。


「クァゲッ……!」


 クロモヤ魔物はそんな声を上げながら、体をグルグル回転させ、まるで小さなつむじ風のような状態になった。

 そして、黒いつむじ風がユイ……ではなく、その後ろのペガちゃん目がけて体当たり。


「ペェペェ……!」


 ペガちゃんの体がクルクルと周りだし、力尽きて地面に落下。

 煌々と輝いていた体がの明かりが、半分以下までにまで低下。


「ペガちゃん、大丈夫⁉」


 ユイはしゃがみ込んで、大事な仲間の様子を伺う。


「ペェ……ペェ……!」


 まるで、大丈夫だよ……と言いたげに鳴くペガちゃん。

 命に別状は無さそうだが、相当キツそうなのは間違い無い。

 ユイはその体を優しく掴むと、そっとポケットの中にしまった。

 薄暗い洞窟内のバトルで、間違って踏んでしまう恐れがあったから。

 ただ、それにより、ペガちゃんの体から発していた僅かな光が遮断され、ほぼ暗闇状態となってしまった。

 

「クァゲクァゲ!」


 クロモヤ魔物は、自分の圧倒的有利を誇示するように力強い声を上げた。


「舐めないでよね‼」


 勝ち気なユイはピンクゴールドの剣を両手で強く握りしめ、えいっ、やぁっ、と四方八方に向かって振り回した。

 暗闇とは言え、この空洞内はそれほど複雑な作りではなく、魔法陣エレベーターのある場所に戻ろうと思えば戻れないことも無かった。

 ……が、ユイの中にその選択肢など無いも同然。

 なぜなら……いま対峙している相手は、ペガちゃんを傷つけたから!

 自分から攻撃してしまった形ではあるが、それが間違いだったとちゃんと謝った。

 それなのに、このクロモヤ魔物は何のためらいもなく、ペガちゃんを攻撃して傷つけたのだ。


「絶対倒す……!」


 ユイの言葉には仲間への強い思い……と、本日初めてのバトルに対するシンプルな闘志も、微妙にあったりなんかもしていた。

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