第69話 ペガちゃんの証明

 ユイとロフニスは、ペガちゃんの明かりを頼りながら地下通路を進んで行た。

 それはさっきまでユイが掘り進めたもので、突き当たりには大きな黒い壁が待ち構えていた。


「こ、これは……」


 意味深な反応を示すロフニス。


「おお! 図鑑に載ってるやつだった? もしかして、めっちゃ良い感じの石とか?」


 ユイは自分が見つけたこともあって、誇らしげな顔で興味津々に聞いてみた。


「あっ、ごめん。知ってるわけじゃなかったんだけど」


 ロフニスからのまさかの答えに、ガクッと肩を落とすユイ。


「なんだよも~。期待しちゃったじゃん!」

「ふふっ、紛らわしくてごめんね。でも、パッと見た感じ、凄く良いものだと思ったのはたしかだよ。魔法から守るための鎧とか盾とか、この壁みたいな黒っぽいやつ多いし。もしかしたら、魔法耐性があるのかも知れない」


 ロフニスはゆっくり壁に近づくと、右手で表面に触れながら、まじまじと確認している。


「だったらいいな! って、その魔法耐性ってのがあるのかどうやって確認したらいいの?」

「それはまあ、一番シンプルなのは実際に魔法を使ってみること、かな。ただ、残念ながら僕は魔法が苦手で……」

「そっか。私も剣は得意だけど、魔法なんて使える気しないもんなぁ~。うちだったら、パパが魔法の杖で火の玉出せたりするけど、仕事行ってるし。それに、レムゼの件で私しか出歩けないことになってるし……」


 と、悩ましげな表情を浮かべるユイのすぐ後ろをプカプカ飛んでいたペガちゃんが、急に翼をはためかせて前進した。


「えっ、ペガちゃんどした⁇」


 ユイが声をかけるが、ペガちゃんは「ペェペェ!」と元気よく鳴いて返す。

 そして、また「ウーンウーン……」と唸りだした。


「あっ、こ、この感じは……」


 あの時を思い出したのか何なのか、ロフニスはなぜか両手を合わせ皿のようにして、ペガちゃんのお尻の下に持っていった。


「ちょっ、またお通じ来ちゃったの⁉」

「ペェペェ‼」


 ペガちゃんは、違う違うと言いたげに、首を大きく左右に振った。

 そして一瞬、ペガちゃんの体から放たれ続けていた光が消えて、洞窟内は真っ暗闇に。


「うわっ、停電だ! エアコンとか電子レンジとかドライヤーとかいっぺんに使うとなるやつ!」


 ユイは焦って思わずそう口走った。

 ……が、もちろん停電では無い。

 そもそも、明かりは電気ではなく、ペガちゃんが灯してくれていたのだから。

 そして、次の瞬間。

 そのペガちゃんの顔、おでこ辺りが強烈に光り輝き、「ペェェェェェ!」と大声で力強く鳴くと、その勢いに乗せるかのように、おでこの光が前方に飛んでいった。

 光の行き先は……黒い壁!

 あっという間に到達し、黒い壁に衝突。

 暗くなっていたペガちゃんの体に、ゆっくりと今までどおりの明かりが戻ってきた。


「……おお! なに今の凄い‼ ペガちゃん‼」


 何が何だか分からないながらも、とにかく驚いたユイは、しれっとした顔で自分の目の前を翼でホバリングし続けているペガちゃんの背中を、人差し指でそっと優しく撫でた。


「ペ……ペェペェ……!」


 照れくさそうに鳴くペガちゃん。


「ねえロフニス、今のって魔法……だよね⁇」

「うん、紛れもなく光属性の魔法攻撃だよ! いやぁ、まさかペガちゃんにそんなことができるとは」


 ロフニスは丸くした目で、穏やかに輝くペガちゃんを見た。


「ってことは……」


 ユイはゆっくり黒壁の方へ近づいていく。

 気になるのはもちろん、ペガちゃんが攻撃したところ。

 ロフニスも遅れてやってくる。


「どう……?」

「これは……完全に守られてる。つまり、魔法耐性があるってことだと思う!」


 ロフニスは、黒壁の少し白い痕が付いてる所を指でなぞりながら、ユイの問いかけに答えた。


「やった! それじゃ、あの攻撃を防げるかもしれないよね!」

「うん、いけるはず! これで!」


 ロフニスが石取スキルチョーカーを差し出す。


「オッケー任せて! せっかくペガちゃんが体を張って証明してくれたんだから!」

 

 ユイはそれを受け取り、ピンクゴールドの剣で黒壁を斬る。

 飛び出た黒石キューブを両手に抱え、急いで地上を目指した。




 魔法陣エレベーターを使って地上に出たユイは、〈■〉スイッチを踏んで魔法陣を降ろしてから、砦目指して走った。

 続けてロフニスが上がって来た時には、もう砦の前に到着し、まだ頂上のキューブが壊れていないことを確認。


「どうしようこれ、あれと交換しといた方がいいのかな?」


 次も魔法攻撃だった場合、あれ(青白キューブ)は破壊され、ほぼ直撃同然のロフニス像もとうとう全壊となりミッション失敗……の公算大。

 だとすれば、魔法耐性が証明されたこれ(黒石キューブ)と入れ替えた方が良いのだが、もしも、次は再び物理攻撃に戻ってしまった場合、裏目にでることも十分考えられる。


「うーん、難しいところだね……」


 首を捻るロフニス。

 ユイが、どっちの答えが返ってきても良いように、とりあえずピラミッドを上っていった……その時。 

 ヒューッ──。

 例の音。


「ユイ、危ない!」


 下からロフニスの声が飛んでくる。

 ユイも重々承知だが、砦の頂上は青白キューブのまま。


「ヤバッ、もしもあれが魔法だったら……うーん、えいやっ!」

  

 底知れぬ危機感を抱いたユイは、無我夢中で黒石キューブを砦の上に向かって投げた。

 その直後。

 

 ゴゴゴゴゴ……ズドォォォォン‼


 轟音が鳴り響き……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る