第68話 新たな攻撃、新たなキューブ

 地下空洞の地面に前足を揃えてちょこんと座り、「ウーン、ウーン……」と唸り続けるペガちゃん。

 ユイとロフニスが心配そうに見守っていると、その時は突然訪れた。


「ウーン、ウーン……ウーン!」


 ポロンッ──。


 ペガちゃんが強めに力んだ瞬間、ちっちゃなお尻から”光る玉”が落ちた。

 その玉は、コロコロコロ……と乾いた音を立てながら転がり、ブーツを履いたロフニスの足に当たって止まった。


「えっ……? これって……」


 ロフニスは足元でキラキラと光り輝く玉を見下ろし、戸惑っている。


「……あー、ペガちゃんってば便秘だったのね!」


 元からオブラートというものを持って歩いていない、ユイのストレート過ぎる発言が空洞内に響き渡る。

 ロフニスは、何となく分かっちゃいたけど深く考えないようにしてたのに……といった困り顔。

 そしてペガちゃんは、「ペ……ペェ……」と、何だか恥ずかしそうに体をもじもじさせだした。

 その反応からして、恐らくユイの発言は正解だったのだろう。

 結果的に、ペガちゃんが思い悩んで唸っていたわけではなかった上に、便秘も解消(?)されて、むしろ喜ばしい状況だと言える。

 ……が。

 さすがのユイも、両手を挙げて「イエーイ!」と大はしゃぎするような空気では無いことをうっすら感じ取り、何とかフォローの言葉をひねり出す。


「あっ、でも、良かったねロフニス!」

「えっ?」

「ほら、明かり、出来たじゃん!」


 ユイは、ロフニスの足元で”本体”に負けず劣らず、煌々と輝き続ける光の玉を指さした。


「……おお、たしかにそうだね! ありがとう、ペガちゃん!」

「ペェペェ!!」


 気を取り直したロフニス。

 誇らしげに翼をはためかせて飛び上がるペガちゃん。

 それを見て、ユイも満足げにニコッと笑った。


「そんじゃ、私はペガちゃんと一緒に洞窟探検行ってくるね!」

「おう! 僕はキューブを集めてどんどん上に持っていっておくよ!」


 ユイは手を振りながら、ペガちゃんを見つけた空洞のさらにその先を目指して歩き出した。

 ……けど、少し気になってチラッと後ろを振り向く。

 すると、その場にしゃがみ込んで、人差し指と親指で恐る恐る光る玉を掴もうとするロフニスの姿を見てしまい、バレないように笑いを堪えながら、小走りでその場を後にした。




 採掘担当ロフニスにより、”青白石”のキューブが10個以上地上に運ばれていた。

 するとそこへ、大はしゃぎのユイが地下から上がって来た。


「おーい! ロフニス~、なんか良さげなの見つけたよ──」


 と、言った瞬間。

 

 ヒューッ……ゴゴゴゴゴ……ドカァァァァァァァン!


 上空からの攻撃……だが、どこか様子がおかしい。

 音の響きが今までと違うだけでなく、音量も激しかったのだ。


「なに今の!?」

「なんかヤバそう……行ってみよう!」

「うん!」


 ユイとロフニスは顔を見合わして、お互いの違和感を確認すると、すぐ砦に向かって走り出した。

 その時点でもう、ヤバさの片鱗が垣間見えていた。

 前回の攻撃では小さな傷しか付いていなかった最上部のキューブが、どこにも見当たらない。

 ロフニスの見立てでは、あと2回か3回は攻撃に耐えられるはずだったのに……。

 ユイは強い疑問を抱きながら、ピラミッド型の砦を駆け上がる。

 少し遅れて、両手に青白石のキューブを抱えたロフニスもやってきた。


「……あーっ!」


 頂上に置かれたキューブが破壊され、むき出しになった穴の中を見下ろすユイが大声を上げた。

 急いで頂上にたどり着いたロフニスは、持って来たキューブをいったんすぐそばに置き、穴の中を確認した。

 そこに見えたのは……無残に破壊されたロフニス像!

 まるで、最初の頃に攻撃された時のような半壊状態。


「ウソでしょ⁉ あのキューブが壊されただけじゃなく、銅像にまで……」


 愕然とするロフニス。


「うん、ヤバすぎっ! なんかさ、攻撃の感じが全然違ってたっぽかったんだけど……」

「それ、僕も思った。音といい、この破壊力といい、もしかして……」

「えっ? なんか分かるの?」


 ユイの問いかけに、ロフニスはコクリと頷いた。


「あくまでも予想だけど、今の攻撃は……魔法なんじゃないかな、って」

「魔法⁉ って、そう言えば、何となく雷が落ちたっぽい感じになってるような……」


 ユイは、壊れた銅像に黒っぽいあとが付いてること、そしてどことなく焦げ臭い匂いが漂っていることに気付いた。


「そうだね。もしかすると、雷属性の魔法攻撃だったのかも知れない」

「こわっ……って、でもさ、ずるくない? 今までと比べて、一気に攻撃力アップしてくるなんて!」


 ユイはほっぺたをプクーッと膨らまし、空に向かってシュッシュッとパンチを繰り出した。


「ああ、でも、攻撃力自体は急に上がったわけじゃ無いのかもしれないよ」


 ロフニスは冷静に語り出す。

 ……が、ユイは納得できない。


「でも、あと2、3回は耐えられるはずだったじゃん!」

「うん、それは物理攻撃だったら……ね」

「ブツリ……?」

「ああ、剣とか弓とか、それこそパンチとか、実体があるものによる攻撃、いわゆる普通の攻撃のことを物理攻撃と言うんだよ。ノーマルな石の場合、物理攻撃に強くても魔法攻撃には弱かったりすることが多いんだ」


 ロフニスの説明は簡潔でとても分かりやすく、ユイもざっくりとではあるものの、何となく理解することができた。


「そんじゃ、そのキューブを置いておいてもほとんど意味ないってこと?」

「うーん、どうだろう。次も魔法攻撃が来るとは限らないし、もし物理攻撃であればしっかり銅像を守ってくれるはず。だけど、もし同じ攻撃が連続してしまったら……」


 ロフニスの顔が曇る。

 銅像の状態からいって、ゲームオーバーになる可能性は限りなく高い。

 ……だが、ユイはまったく諦めてなんかいなかった。


「ねえ、それじゃ、石の中には魔法攻撃にも強いやつっていうのもあるんだよね?」

「うん、もちろん。地上にはあまり無いけど、地下なら……あっ」

「そうそう! 私、ついさっき良さげな感じの石を見つけたんだ!」

「ナイス、ユイ! って、まだ決まったわけじゃないけど、なんかいけそうな気がしてきたよ」


 沈んでいたロフニスの顔に輝きが戻ってきた。


「そんじゃ、急いで取りに行こう!」

「おう! って、一応置いてこ……」


 物理攻撃の可能性もあるってことで、ロフニスは一応持って来た青白キューブを砦の頂上にはめ込んだ。

 そしてふたりは、急いで地下を目指した。

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