第67話 ヒカリペガサスムシ
青く光る魔法陣エレベーターが、地下に掘った縦穴を上昇していく。
そこに乗っているのは、未知のキューブを両手に抱えたユイ。
そして……。
「おかえりユイ! おっ、それが新しいキューブ……って、えっ⁉」
地上で待っていたロフニスが驚いた理由はもちろん、ユイと一緒にやってきた光る生命体。
「へへへ、地下で会ったペガちゃん! 可愛いでしょ~」
ユイは自慢げに、新たな仲間を紹介した。
「ペガちゃん……ああ、ヒカリペガサスムシか! 凄いねユイ。地下に降りてすぐ、超レアな昆虫を見つけるなんて!」
「えっ? ロフニスってば、ペガちゃんのこと知ってるの?」
「うん。って言っても、図鑑で見たのを覚えてるだけだけどね~」
ロフニスは照れくさそうに答えながら、ユイのすぐ後ろでホバリングしているペガちゃんをまじまじと見つめている。
勉強熱心というか、知的好奇心旺盛というか。
普段、読むものとといったら漫画か、朝読用にと香織が買ってくれた児童文庫ぐらいのユイ。
たまには、図鑑とか事典とか、知識が得られるようなのも読んでみようかな……なんて一瞬思ったが、それを読んでもこっちの世界では役に立たないことに気付いてしまった。
ってことで、そういうのはもう少し大きくなってからにして、今はとにかくワクワクがいっぱいのこの世界で思いきり冒険を楽しもう!
と、心の中で意気込むユイの顔は、自然とニヤついていた。
「えっ? ユイ、どうした⁇」
「ううん、何でも無い! それより、砦はどーなった?」
「そうそう! あれから一度攻撃がきて、今は銅像が剥き出し状態なんだった!」
「やばっ! 急いでこれ、乗っけてくるよ!」
「うん、よろしくお願い!」
ユイは新素材のキューブを抱えたまま、ピラミッド型の砦を軽々と駆け上がり、ぽっかりあいている頂上部分にそのキューブをはめ込む。
上から中をチラッと覗いたとき、チラッと見えたロフニス像は欠けた部分が自動修復されたのか、綺麗な元の姿に戻っていた。
ユイは満足げな表情を浮かべながら、とんっ、とんっ、とんっ、と、リズミカルにピラミッドを駆け下り、ロフニスの元に戻る。
「置いてきたよん──」
と、報告しようとしたその時。
ヒューッ……ズドォォォォォンッ!
絶妙なタイミングで、上空からの攻撃が落ちてきた。
「わっ、いきなりきた!」
ユイは振り向いて、砦の頂上を見上げた。
ぱっと見……まったく壊れていない!
少なくとも、地上で取った岩と同じように銅像を守ることができて喜ぶユイ。
「ねえ、間近で見てみよう!」
いつの間にかユイの隣に駆け寄ってきていたロフニスの言葉に、「うん!」と返し、二人でピラミッドの頂上に上がってみた。
すると……。
「おお、凄い! 今の攻撃で付いた傷、これだけだよ!」
ロフニスが、キューブの中心部を指さす。
そこに小さな亀裂が入っているだけで、全体的にほぼ綺麗なまま。
ユイが地下から持って来た石は、地上のものと同じどころか、それより遙かに頑丈なことが証明された。
「やった!」
ユイは誇らしげに両手を挙げた。
ずっとついてきてるペガちゃんも「ペェペェ!」と嬉しそうに鳴いている。
「ねえロフニス、この調子なら結構もちそうだよね⁇」
「そうだね。この損傷度から言って……あと3回か4回は持つはず!」
「すごーい! じゃあ、その間に次の分も、次の次の分も取って来ちゃう?」
「おっ、ユイのわりに慎重だねぇ~」
ロフニスがニヤリと笑う。
「だって、ロフニスの像を壊されたくないんだもん……って、私のわりにってどういうこと? そんな、大胆な感じに見えてた?」
「うん」
迷わず頷き、即答するロフニス。
「くぅ~、ひどいひどい」
と、ユイはロフニスの肩をポコポコと両手で叩いた。
「ははっ、でも、そういうところが好きなんだけど」
「もう、ロフニスのバカバカバカ……って、えー⁉」
ユイは大きく目を見開き、ポコポコする手がピタッと止まった。
「えっ⁉ あっ、いや、えっと、今のにはそんなに深い意味がない……わけでもないっていうか、あのその……あっ、ヤバいヤバい! いくらこの石の耐久度が高いといっても、攻撃はどんどん強くなるって書いてあったし、油断は禁物!」
「そうだね! じゃあ……地下まで競争だ!」
そう言いながら、早くも砦を駆け下りるユイ。
「うわっ、ずるい! ちょっと待って~」
ロフニスも慌ててその後を追う。
空中を優雅に飛んで付いていくペガちゃんの顔は、どことなく「やれやれ」と言わんばかりに呆れているようでもあった……。
ふたりと1匹が地下の空洞に到着。
残念ながら石取スキルチョーカーはひとつしか無いので、ロフニスが装備してキューブを調達する係となった。
その間、ユイは亜空間式土吸い掃除機を使い、新たな素材を探すべく地下を探索することに。
「そんじゃ、ロフニス頑張って!」
「おう! ユイも!」
笑顔で手を振り、一旦別行動。
当然、ペガちゃんは翼の恩人であるユイに付いていくことになるのだが……。
「ちょっ、ちょっと待って!」
ロフニスの慌てた声が聞こえて、ユイは急いで引き返す。
「どした⁉ 敵でも現れた?」
ユイの顔がキリッと引き締まり、ピンクゴールドの剣を抜こうとした……が。
「違う違う! そのペガちゃんが居なくなった途端、僕の周りが真っ暗になっちゃって……」
「あっ、そっか。どうしよう、まさかペガちゃんを半分にするなんてこと出来ないし」
ユイは冗談めかして、チラッとペガちゃんの方に目を向けた。
ちょうど、ピンクゴールドの剣に手をかけたままだったのもあって、ペガちゃんを「ペ……ペェ……!」と慌てさせてしまった。
「へへっ、冗談だって! ペガちゃんにそんなこと──」
と、ユイが言いかけた途端。
ペガちゃんがスーッと地面に降りて、突然「ウーン、ウーン……」と小さく唸りだした。
「えっ、ちょっと大丈夫? ごめんね、冗談でも変なこと言っちゃって……」
ユイはその場にしゃがみ込み、少し苦しそうに唸り続けているペガちゃんを不安げな眼差しで見つめた。
ペガちゃんは、ユイの冗談にショックを受けた……わけではなかった。
それは、まったく別の理由で……。
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