第66話 光り輝く小さな馬

 謎の鳴き声に向かって、亜空間式土吸い掃除機片手に掘り進めていくと、再び空洞が姿を現す。

 しかも、その空洞は最初からうっすらとした光に満ちていて……。


「うわっ、なんだあれ……!」


 思わず心の声を漏らすユイ。

 空洞を照らす輝きの光源は、地面に落ちているなにか。

 その“なにか”に向かって、ユイはゆっくりと足を前に進めていく。

 すると……。


 ペェペェ……!


 あの鳴き声!

 それは紛れもなく、光の中心から聞こえた。

 ユイが近づくにつれ、光がゆっくり点滅し始める。

 そしてついに、それを見下ろせるほどの場所までやってきた。

 ユイは眩しさに目を細めながらしゃがみ込み、地面に落ちている小さなそれを確認してみた。

 それは、思いのほか小さかった。

 そして、その見た目は……。


「お馬さん……? 白いお馬さん……だけどめちゃくちゃ小さっ! なにこれ、可愛い‼」


 力なく地面に横たわるその生物の見た目は、完全に白馬。

 でも、リスなんかよりも小さい。

 何よりその背中には……翼が生えていた!

 しかも片側だけ。

 ということはつまり。


「これ、もしかしてお馬さんの……?」


 ユイは、大事に持っていたヒカリの欠片を、小さな白馬に向かって差し出した。


「ペ……ペェペェ……!」


 さっきまでとは違い、驚きを含んだ鳴き声。

 その反応からして、ヒカリの欠片の正体が小さな白馬のもので間違い無さそう。

 何かしらの原因によって、翼の片っぽがちぎれてしまった……。

 ユイは、痛々しく横たわる小さな白馬の背中に、ヒカリの欠片──ちぎれてしまった翼をそっと置いた。


「ペェペェ……」


 その鳴き声は、『ありがとう』と言っているのか。

 それとも……。

 何にせよ、目の前の生き物がいったい何なのかもわからないユイにとって、やれることといったらそれぐらいしか無かった。

 物知りのロフニスなら、もしかしたら……と、その時。


「おーい! 砦が──」


 背後から、微かにそのロフニスの声が聞こえた。

 それは恐らく地上から穴の中に向かって叫んでるはずで、ハッキリと内容を聞き取ることはできない。

 でも、焦っていることだけはユイにも十分伝わった。

 砦という単語も聞こえたし、きっと銅像への攻撃があったに違いない。


「お馬さん、ごめん! 私ちょっと行かなきゃ! またすぐ戻ってくるから!」


 ユイは勢いよく立ち上がり、自分が掘った穴を取ってひとつ前の空洞に戻った。

 そこで、さっき見つけた土ではない壁を剣で切り取ろうとしたのだが……。


「くらっ! 真っ暗すぎてなんも見えないよ~」


 ただでさえ何の明かりもない横穴。

 その上、直前まで輝く子馬の光を見続けていたのもあって、目を開けているのかつぶっているのかすら分からないほどの真っ暗さ加減に、ユイは嘆かずには居られなかった。

 それでも、地上で待っているロフニスのことを考えて、両手を伸ばし探り探りで歩いて行ると……。

 突然、ユイの周りがボンヤリと輝きだした。

 目の前の壁に、自分の影が映っている。

 ということは……と、ユイは恐る恐る振り向いた。


「……えっ? お馬さん……⁉」


 なんと、そこには光り輝く小さな馬の姿があった。

 しかも……浮いている!

 背中に生えた白い翼をバサバサと上下に動かし、ユイの目線の高さぐらいの位置で器用にホバリングしている。

 それはまさに、なんかの本で見た空飛ぶ白馬“ペガサス”みたい……とユイは思いつつ、


「おお、翼くっついたんだ! 良かったねぇ~‼」


 と、満面の笑みを浮かべて自分の事のように喜んだ。

 もちろん、ちぎれた翼がどうしてくっついたのか、そもそもこの光る馬の存在自体についても、とにかく謎だらけ。

 だが、地面に倒れてペェペェと力なく鳴いていた馬が、こうして元気に飛べるようになったことが、理屈抜きでとにかく嬉しかった。


「……って、やばっ! ロフニスが待ってるんだった! ペガちゃん、ちょっとやらなきゃいけないことがあるから待っててね!」


 律儀に声をかけてから、ユイはキューブの切り取り作業を進めようとした。

 すると、ペガちゃんがスーッとユイの隣に向かって飛んできて、輝くボディで目の前を照らしてくれる。


「えっ、もしかして、手伝ってくれてるの?」

「ペェペェ!」

「わぁ、ありがとう! めっちゃ助かるし、やる気出てきた‼」


 ユイはピンクゴールドの剣を抜き、ペガちゃんに当たらないようにザックザックと目の前の壁を攻撃。

 次々と、キューブが切り取られていく。

 ペガちゃんの光の影響もあるのかもしれないが、その石は少し青みがかった白色。

 耐久性がどれぐらいあるかなどに関しては、もちろんユイには分からないが、少なくとも地上にあった岩とは違う種類のものなのは間違い無さそう。


「よし、とりあえずこれを急いで持っていこう! ペガちゃんも付いていくる?」

「ペェ!」

「おっけー! そんじゃ、レッツ地上!」

「ペェ‼」


 すっかり仲良くなったふたり。

 言葉は理解できなくても、あっという間に意思疎通が出来るようになっていた。

 ペガちゃんのおかげで明るく照らされた地下の通路を、ユイは全力で駆け抜けていく。

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