第65話 ヒカリの欠片と奇妙な鳴き声
ユイを乗せた魔法陣エレベーターが停止する。
まだ、空の明るさが差し込めるほどの深さの場所。
それは、ユイがロフニスの言いつけを守ったから……ではなく、単純に穴の底に突き当たったからであった。
「ユイ~、大丈夫? 無理しないでよ~」
地上から、ロフニスの優しい声が落ちてきた。
「うん! このへんで横に進んでみる!」
ユイは返事をしながら、早速掃除機のスイッチを入れて、ノズルを土の壁に押し当てた。
横穴もキューブを運ぶことを考えて、縦穴と同じぐらいの大きさで掘って行く。
吸っては進み、吸っては進みを繰り返す。
……が、ある程度掘り進めたところで、早くも問題発生。
光が差し込む縦穴と比べて、横に進んでいった場合、すぐに明かりが届かなくなって真っ暗になりそうだった。
地下ダンジョンの時のように壁自体が光るなんてこともなく、周りを土で囲まれた暗闇は、さすがのユイでも恐ろしさを感じ始めていた。
「ちょっと戻って、ロフニスのアドバイスを聞いた方がいいのかな……」
引き返そうとした……その時。
掃除機で土を吸った向こう側で、何かがキラリと光った。
土の向こうは土のはずなのに、なぜかその光は少し遠くにあるように見える。
ユイは、小首をかしげながら、掃除機のスイッチを切って、ノズルを少しずつ伸ばしてみた。
だが、なかなか壁に当たらない。
もしかすると、土を吸い込む前から空洞になっていたのかも……なんてことを思いながら、ユイは慎重に光のある方へ近寄ってみた。
「なんだろこれ……?」
光は、地面に落ちていた。
恐る恐る手を伸ばして拾ってみる。
それは、ユイの指でつまんで持てるほど、軽くて小さかった。
その割にとても強い光を放ち、いま立っている場所は、ユイが掘ってきた横穴よりも天井が高いことが分かった。
つまり、ユイが予想したとおり、ここは掃除機で吸う前から存在していた空洞。
そこに落ちていた光の欠片、その形は……翼。
ユイの目には、ハトやカモメなど、白い鳥の翼のように見えた。
「ってことは、片方だけ翼がもげちゃってる鳥がどこかいるの……?」
それが本当だとしたら、なかなかのホラーだ。
空を飛ぶ鳥がこんな地下の空洞に居るのも奇妙だし、翼をもいだ犯人もどこかにいるかも知れない……なんて考えたら、ユイは背筋がゾクッとしはじめてきた。
でも、翼の形に見えるだけで、翼だと決まったわけじゃない。
鳥にしては、ユイの手に収まるほどというのは小さすぎるし……と、このまま進むか戻るか、心の中で葛藤していたその時。
ペェペェ……。
「ん……?」
どこからか、妙な音が聞こえてきた。
ユイは立ち止まったまま、耳を澄ませてみる。
すると……。
ペェペェ……。
「うわっ、また聞こえた!」
それは、空洞の先。
どこまで穴が続いているのか分からないが、とにかくその先の方から聞こえてきた。
何だかさっぱり分からないが、とにかく何かの生き物が鳴いているような声。
ユイの頭に浮かんだのは、ふたつの選択肢。
念のため引き返してロフニスと一緒に来て貰うか、このまま進むか……?
ユイが選んだのは……後者!
謎の鳴き声は、どこか痛々しさが漂っていたように思えた。
それと、ヒカリの欠片を拾った時に想像した”翼がもがれちゃった鳥”というイメージが妙に合致して、ユイの足を先へ先へと進ませた。
右手に掃除機を持ち、左手に乗せたヒカリの欠片をライト代わりにして、空洞を進んでいく。
ペェペェ……。
「また聞こえた! けど……えっ?」
空洞は突然途切れた。
目の前は土の壁で塞がれている。
「うわっ、どうしよ……」
後ろを振り返ってみる。当然、真っ暗。
改めて、ヒカリの欠片を右に左に動かして確認してみたが、空洞の横幅はそれほど大きくはなかった。
ただ、土以外の材質っぽい壁を見つけることができた。
ヒカリの欠片と謎の鳴き声のせいで忘れかけていたが、ユイがいま行っているミッションの目的は”銅像を守るための硬いキューブを探して地上に持っていく“こと。
だとすれば大人しく、誰もいないこの空洞の壁を石取りスキルチョーカーで切り取って、ロフニスの元に持っていってどんなもんかチェックして貰えば良いだけの話なのだが……。
ペェペェ……ペェペェペェペェ……!
あの鳴き声がまた聞こえてきた。
しかも、なんだか鬼気迫る感じがして──。
「やっぱ行こう!」
ユイは再び体を反転させ、声のする土の壁にノズルを向けて、掃除機のスイッチを入れた。
鳴き声の正体はいったいなんなのか……?
ヒカリの欠片との関係は……?
ユイはドキドキとワクワクを胸に、どんどん土を吸って前へ前へ進んで行く。
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