第64話 いざ地下へ
地下担当ユイの最初の仕事は、掃除機で土を吸いまくること。
その際、『地下ダンジョンがある場所は避けた方がいい』とロフニスから言われたが、幸運にも、銅像の周囲には地下ダンジョンの入り口は無さそうだった。
というわけで、効率性を重視し、なるべく砦の位置に近い場所をターゲットに設定。
「レッツ、掘り掘り!」
ノズルを地面に向けて、陽気なかけ声とともに掃除機のスイッチオン。
スゥゥゥゥゥゥ。
もの凄い勢いで土を吸ってるとは思えないほど、静かな作動音。
この静音性なら、夜遅くに掃除機をかけても近所迷惑にならないね!
……なんてやたら現実的なことを考えつつ、鼻歌交じりでどんどん深くまで穴を掘っていくユイ。
一辺が1メートルのキューブを運ぶことを踏まえて、念のため穴の直径は1.5メートルに設定。
信頼の吸引力により、そのサイズの穴にもかかわらず、あっという間に底が見えないほど深くまで掘ることができた。
なのに、掃除機本体の重さはまったく変わらず、パンパンに膨らんでくる……なんてこともない。
不思議に思ったユイは「なんでだろ?」とロフニスに声をかけてみた。
「それはもう〈亜空間式〉だからね! 亜空間っていうのは、こことは違う次元で──」
と、難しそうな説明が始まるのを察したユイは「うん、わかった!」と強引に切り上げて作業に戻った。
が、すぐにまた相談しなきゃいけない事案が発生。
ユイはずっと地上に立ち、掃除機のパイプを伸ばすことで深くまで掘り続けていたのだが、そろそろエレベーターを使って地下に降りようかと思ったところで、魔法陣をどうやって置けば良いのか分からず、再びロフニスに声をかける。
「ああ、それならただ置くだけで良いんだよ」
答えはあっさり返ってきた。
けど、ユイはイマイチピンとこない。
穴に置くというのは、つまり中に落ちちゃうんじゃないか……と思いきや。
「ほら」
と、ロフニスはためらうことなく、穴に向かって魔法陣を置いた。
「あっ、落ちちゃ……えっ?」
ユイの心配をよそに、魔法陣は下に落ちることなく、穴があいた部分に普通に置かれたまま。
つまり、浮いている状態。
「この魔法陣は、赤く光ってる時が下降で、青く光ってる時が上昇、光っていない状態の時はその場に固定されるんだ。重力にすら引かれることなく……ね」
「おお、そーだったんだ! すごーい! それを知ってるロフニスも!」
知識豊富なパートナーを、手放しで褒めちぎるユイ。
「ま、まあね、前に本で読んだことがあった……ってだけのことだよ」
「それが凄いんだけど! って、おしゃべりしてる場合じゃなかった! 早く次の攻撃に備えなきゃ!」
「うん、そうだね! あっ、そうそう、砦の補修が完了して、とりあえず攻撃1回までは耐えられるようにしといたから、これ渡しとく」
「ほい、貰っとく」
ユイはロフニスから受け取った石取りスキルチョーカーを首に付けた。
「そんじゃ行ってくるね!」
と、穴に浮かぶ魔法陣に恐る恐る足を乗せてみる。
片足を乗せてちょっと踏み込んでみても微動だにしないのを確認してから、思い切ってもう片方の足も乗せる。
ユイの全体重がかかっても、魔法陣はしっかり浮いたままだった。
「おお、凄いねこれ! でも、ちょっと小さいのが気になるような」
たしかに、穴の直径1.5メートルに対し、魔法陣はその半分以下。
乗ってるだけでも心許ない上に、地下で切り出したキューブを運ぶとなるとかなり不安なサイズ感。
上昇・下降ボタンに触れないようにするのも気になったり……。
「おっと、言い忘れてた。これ、簡単に広げることができるんだよ。ほら」
ロフニスは魔法陣の表面に右手を乗せて、つまんだ親指と人差し指を広げた。
すると、その動きに合わせて魔法陣が縦横比固定のまま、スーッと広がっていく。
それはまさに、スマホで写真をアップにしたりする時みたいな感覚で、とても分かりやすかった。
何より、足場が穴と同じぐらいまで広がったことで、安心感が段違いに高まった。
「おお、ありがとうロフニス! そんじゃ今度こそ行ってくるね!」
「うん。気をつけて。最初はあまり深くまで掘りすぎないで、適度なところで横穴をあけて、砦の素材となりそうな石や岩を探していくのが良いと思うよ。なんてったって、地下に行けばいくほど強い魔物と遭遇しちゃうかも知れないからね」
ロフニスからの的確なアドバイス。
「りょーかい! でも、できる限り強い魔物と戦いたいし、どんどん深くまで掘りまくっちゃおうかな……」
「ちょっ、ユイ! 最初は本当に慎重に行った方が──」
「へへっ、冗談冗談! 銅像が攻撃されちゃうのもあるし、とりあえず近場で素材を探してみるから安心して!」
「ほんとかなぁ~?」
疑り深い眼差しをユイに向けるロフニス。
「もう! 信じてよー!」
「ははっ、うそうそ。仕返ししただけ」
「あっ、やられた! って、時間やばいし今度こそ行ってくる!」
「うん、行ってらっしゃい!」
ユイは視線を落とし、魔法陣に描かれた〈■〉の記号を確認すると、左足をそっと乗せた。
ボワンッと音をたてながら赤く光る魔法陣が、ゆっくり穴の中を下降していく。
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