仕事でお客様に向ける顔と気心知れた友人に向ける顔がまったく違うのは、誰しも当たり前として捉えていることでしょう。
ユング心理学では「ペルソナ」……ラテン語で仮面を冠する側面の使い分けですが、こと配信者となると事情が変わります。リスナーという不特定多数に向けた側面が、普段の配信者を知る人が見る可能性もあり得るからです。
台本のない生放送が主体となるタイプであれば、それは最早、傍聴できる別側面と呼べるかもしれません。Vtuberは更にキャラクターという形で別側面を装っており、輪をかけて違いが際立つでしょう……しかし、それでもやはり、側面が違うだけの同一人物に他なりません。
特に本作では、バーチャルでの側面と現実での側面を同名で呼んでいるため、一層同一人物である事実が強固に印象づけられます。恋愛ドラマで見かける「あの人のあんな顔……初めて見た……」と遠目で眺める描写をより踏み込んだ、配信がより身近になった現代だからこその関係性が描かれていると感じました。
Vtuberとして活動するヒロイン・東間凪子と主人公のセンセイの関係性そして、動画配信者と視聴者
本作はこの2つの関係性にフィーチャーしたストーリーになっている。
僕が面白いなと思ったのは、ヒロインの東間凪子のVtuber活動である。
自分自身、インターネット界隈での流行をチェックするのは好きであり、Vtuberもそれなりに追いかけていたこともあった。
現在のVtuber界隈は、生放送が中心であることも一応知ってはいる。
本作のようにVtuberとして生放送をしているキャラクターの姿を見ていると「あぁ、配信者はこんなことに苦労しているんだな」という苦悩?ではないかもしれませんが、大変なんだなという感じが伝わってくる。
すると「普段見ているあの人も大変なんだな」という当たり前な事実に感謝の気持ちを思い出す。そして…
「もっと応援してあげよう!」
というファンなら誰しもが持つであろう感情を再び思い出すことができるのだ。
そして、ネタバレになりそうなので言わないでおくが、最後は友情、努力、勝利という感じであり、一見薄そうなインターネットの関係でも、きちんとした「友情」をつかめるほど大きな繋がりに変わるんだなということが分かる。
自分も東間凪子のような仲間がたくさん欲しいと願わずにはいられない。
要するにVtuberに興味がある人は読んで損はない作品だと思いました。非常に面白かったです!