第10話倒れる

…はぁ、はぁ……死ぬほど走った。果たして、なんの役に立つのだろうか…

「もう一度やってみろ!体中の鼓動を剣に集めて!頑張れよ!」

再挑戦。

「あと、アリア。しばらく豪炎の舞を貸すよ。」

私にケイは手を差し伸べた。

「ありがとう。」

受け取った、“豪炎の舞”。必ず、的を討つ!

「豪炎の舞!真紅の炎!!」

私は的だけを見つめ集中し、力を込めた。ケイを真似て舞う。ドク、ドク、脈打つ音、心臓の音……行けっ!!!!

鼓動を剣に……!

「燃えた…?」

炎をまとい、私の剣は的の中心に刺さった!

「アリア!よくやったな!新しい技、

“真紅の炎”だ!」

私は嬉しさに溢れてケイに頭を下げる。 

「ありがとう……ありがとう!」

「良かったな!」

さっきの死亡ランニングも、長期的に繰り出す技ならこの上ない程役に立つ!凄い……

「クララ達の所に行こう」

室内で、三人はたくさんの量の勉強をしていた。

「もう駄目…こんな量、知識が頭から溢れちゃうよ〜」

「腹減ったぞ、なんか食いもんねーのか」

「カルラ、疲れてないんだ…凄いや」

みんなぐだーっとしていて、アナは机に突っ伏している。

「じゃあお昼にしましょう…何食べたい?…」

クララは三人より多い量の勉強をしていて、凄く疲れたような顔をしていた。

「手羽先っ!!」

アナはキラッとした目をクララに向ける。

「了解……レオンさんに頼んでくる…」

「クララが作るんじゃないんかい!」



「美味しぃ〜!」

アナはさっきとは別人のように元気なっている。

「なぁ、アリアはどんなことしたんだ?」

「食うな食うな」

カルラはさり気なく私の分の手羽先を取りながら言う。

「私は、勢いをつける訓練。カルラは?」

カルラのお皿からサラダをもらい、手羽先の件は多めに見ることにした。

「ひたすら医学と歴学について暗記。ホント腹が減る。」

カルラはもぐもぐ言いながら話す。

「なんか、もう一生分の勉強した感じだよ」

セルシオは昨日からほとんど寝てないから、辛いに違いない…。

「無理しないでね」

「?あ、ああ」

隈が増えたかもしれないから…不安だ。

「心配かけて悪いな、俺は大丈夫……」

その時、ガタッとセルシオが倒れた。

「セルシオ!!」

私は間一髪、支えることができた。それにしても…かなり前から徹夜してたんだから、倒れるのは当たり前だ…。どうして止めなかった?どうしてもっと気を使ってあげられなかった?

「アリア、どけ。」

不安が募る私の後ろで、カルラが一声。

「状態を確認する。そこに寝かせろ。」

クララはセルシオを運ぶ。

「顔色が青白い…足、上げろ。セルシオ?おい、生きてるか?」

なんて素早い対応!そっか、さっきまで医学のこと学んでたから…!

「凄いね、カル…」

「喋ってねーで頭冷やすもん持ってこい!助けたいだろ!」

はい…私は厨房に言って、冷気収納機から冷たいジェルを持ってきた。

「はい、…」

「デコ、貼る!」

ピタッと貼ると、セルシオは荒い息遣いから静寂と呼吸を繰り返すようになった。

「よし、大丈夫。ただの貧血だろう。もうすぐすれば目覚める。」

ふぅ、と安心したカルラ。そして、

「はぁぁぁー……」

大きなため息をつく。最も嫌な予感。

「し、深呼吸だよね、カル…」

「なんでこいつ倒れたんだ!アリアなんか知ってるんだろーな?オイ、言え!言え!」

グイグイと近づいてきて、私に問い詰める。

「あ、えーっと…」

セルシオとは秘密の約束だったから…するとクララはめちゃくちゃ空気を読んで言った。

「ただの貧血でしょう?何もそんな罪なんてないと思うわ…きっと」

クララは力持ちだから、ヒョイっとお姫様抱っこして部屋迄連れて行った。

「何隠してるのか知らねーけど、次はないぞ?」

じーっと見つめて、許してくれた。

「なぁ、僕もクララに着いていくよ。」

トテトテ、と後を追うケイを見送ると。

「セルシオの残りの手羽先食べていいかなあ…」

アナはメロメロになりながら食べかけの手羽先を見つめて私に聞き返す。

「どうだろ…?」

「やめときな。それじゃあお前人の食べかけを狙う変態同様だぜ」

カルラは同情の目をアナにむける。

「ちぇ…まぁいっか…」

そう言いながら、部屋の外へ行く。

「何処行くの?」

「えー?部屋だけど?」

アナはポケッとして言った。

「なんで行こうって誘ってくれないのさ」

「あぁ〜!そっか〜」

テヘへと笑いながら私達の手をとった。


一方のクララ達。

「セルシオ〜?」

「……ケ、イ?クラ、ラ…?」

セルシオの意識が戻った。

「あぁ!俺、倒れて…アリア達は?!」

「まだ食堂…」

クララは成り行きを話し、ケイと雑談している。

「いーい?もう金輪際むちゃしてはだめ…!夜中に特訓も、徹夜も寝不足もだめ…!好きな人の前で倒れたのよ、あなた!」

セルシオは全て見抜かれた顔をする。

「なんでわかったの?」

「視線…?まぁ、第六感。」

ニコリと笑ってクララは答える。そして

「とにかく、あなたが舞楽を使えることも知ってるわ…カルラたちに黙っててほしいなら速く体調を治して…。」

「そうだな、クララの弟の薬もあるし!」

謎の緑色の液体をケイはセルシオの口に流す。

「苦い。」

「良薬口苦し!聞いたことしかないけど、多分そういう意味だったよな!」

「だいぶ古いことわざね…よく知ってるね」

しかし、それは本当のようで、セルシオの体中の血の巡りは活発になり、温まってきた。

「あのさ、クララの弟って、体弱いよね。昔の記事にあった。自分で実験の毒や薬を飲むからだんだん病弱にって…」

「そうなの…エリトは私と違って動けないの……昔ブラックな研究所で一時期マウスとして暮らしていたから…大層調べたのね…簡単には見つからないわ…裏社会のことは」

クララは目が赤く充血している。泣きそうだ。

「クララ、泣くなよ。僕たちが剣士になったのだって、社会を正当化させるためだろ?そのために今まで頑張ったんじゃないか!」

ケイはクララをギュッと抱いて一緒に泣いていた。

「セルシオ。あなたに薬を渡しておくわ…これは塗っても飲んでも大丈夫。旅に役立てて。」

「じゃあ僕からは包帯と止血剤、それからビタミン剤を渡しておくな栄養成分が偏りがちだから。」

「ありがとう」



「セルシオ、ごめんなさい!私何もできなくて。」

「いいんだよ、こちらこそ心配かけてごめんね。」

「まったく、せっかくの手羽先も残ったままよ。」

「それはいいだろ。私の知識がなかったら死亡だぜ…」

私達はセルシオの安全によろこび、駆けつけた。

「流石カルラ、71期生の天才だ。僕、君の力欲しいな…」

そう言ってケイは、カルラの頭をガシッとつかんだ。

「僕に寄越せ…この魔術は相手の力をコピーできる…吸い取られてる気分はどう…?」

いかにも怖ぁ…い顔をして、ケイは聞く。しかし、

「吸い取られてるも何も、私は天才ではないぞ?」

カルラはケイを憐れむような目で見てその腕を掴み返して引き剥がした。

「ごめんなさい……ちょっとケイ!そのオカルトじみたヤツまだやってるの……?!」

クララはケイを名一杯叱り、カルラに頭を下げた。

「いや、クララは悪くない。ケイも、なんかおかしいやつだろうとは思っていたが…そこまでとは思わなかった。」

「ケイ最低。」

アナはカルラに抱きついて肩代わりした。

「はぁ?これ成功したことあるんだからな」

「ケーイ、それは…ケイの後輩でしょ……気を遣ってくれたのよ…」

クララはケイを見つめて言った。

「後輩から気を使われるなんていい事だね!」

私は慰めたつもりだったけど…

「アリアってそういうとこあるよな」

ケイは、ちょこっと怒って私に言う。

「え?」

「いい事じゃねぇ!!」

しゅんとしているけど、私には最後まで意味がわからなかった。

「アリアちゃんにはプライドというものがあまりありませんからね」

アナはニコッと笑ってさり気なく見下してきた。

「まぁ、いいけど。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私達は死ぬのが当たり前の人生です。 姫野天音 @ReitoKei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る