瑠璃色の海と空

第55話 エピローグ

　遠い昔から、最も数多くの人間を殺してきた生物は変わっていない。

　それは毒蛇などの爬虫類だろうか？

　それとも、熊などの大きな哺乳類だろうか？

　もしかしたら、人間という意見もあるかもしれない。

　しかし、人間自身よりも、より多くの人間を葬ってきた恐るべき生物が地球上には存在する。

　それは、蚊である。

　体長１ｃｍにも満たない昆虫が、昔から数多くの感染症を媒介し、数多くの人間を死に至らしめてきた。

　主に熱帯地方で多く見られる昆虫であったが、地球温暖化が原因で南極にも存在するようになった。今や、蚊のいない地域など、どこにもないのである。

　これだけ人間に害を及ぼす昆虫であるにも関わらず、人間の営みは、蚊を絶滅させるどころか、行動範囲を広げる結果になってしまった。

　地上では、マラリアやデング熱、黄熱病、脳炎など、数多くの病気が各地に広がり、感染者数は増加の一途をたどっている。

　もし、超人症の病原体を蚊が媒介するようになったら、どうなるだろうか？

　新たに、超人症が世界中に広がる危険はないのだろうか？

　今、麻子の血液を吸った何匹かの蚊が地上にいる。

　しかし、その数は大したことはない。それらが人間を刺さない限り、超人症が地上で発症することはないだろう。

　だが、伝染病の感染源は、人間だけとは限らない。

　蚊が吸血するのは、人間以外の場合もあるからだ。

　家畜や野生動物を吸血した時、超人症の病原菌が体内に侵入する場合も考えられるだろう。

　それは、動物に悪影響を及ぼすかもしれないし、無害であるかもしれない。

　後者の場合、気づかぬうちに病原菌が拡散する可能性はないだろうか。

　病原菌を抱えた蚊そのものが他の場所へ移動する場合もある。蚊の種類によっては、一日に数ｋｍ移動するものだってあるのだ。

　蚊が自ら移動しなくても、乗り物によって運ばれれば、さらに遠くへ拡散することができるだろう。

　もちろん、これは想像でしかない。地上には何の影響もなかったのかも知れない。

　しかし、『ノア』は地上が超人症の波に飲まれる様を予知しているのだ。

　その予言は、本当に実現してしまったのだろうか？

　残念ながら、その後の地上に関する記録は残っていない。