体験した怖い話、そこから学ぶべきこと

あげもち

愛にスピードは必要ない

 これは、実際に僕が体験した話です。


 今でも忘れません。


 あの日もこんな、日が暮れたばかりの、ちょっと薄暗い空でした。



 その日は、大学の友達(俺以外、カップル)と何故か僕の家で飲もうという話になったのです。


 名前は伏せておきたいので、ここではこう表記しよう。


『Aくん、Bちゃん』 『Cくん、Dちゃん』


『僕』


 …うん、自分で言うのもなんだけど悲しいなこの構図。


 まぁ、そんな感じで5人でお酒を飲んでいた時。

 突然Bちゃんの発した言葉から、今回の事件は起こったのです。


「そういえばさ、Cくんって車持ってるんでしょ?」


「ん? あぁ、スポーツカーもってるよ」


「へぇー、そのスポーツカーってやつと、Aのバイクってさ、どっちが速いの?」


 すると、その話に食いついたのは、やっぱりAでした。


「そりゃバイクだろ。まして俺のはちょっと特別だからな」


 するとBも負けてません。


「ナナハン《750cc》ぐらいのやつが何言ってんだよ、俺のは4000ccだからな」


 そして話はどんどん大きくなっていって、


 2人は彼女を連れて家を出ていってしまいました。


 そう、いわゆるこの2人、お互いに暴走族と走り屋なのです。


 言っちゃ悪いですが、そんな男の彼女なんてたかが知れてます。


 案の定ノリノリでした。


 そして、彼らはここから10キロ離れた峠道をのぼり、どちらが僕の家に先に着くか…という勝負をするらしいです。


 僕の家の近くには有名な峠道があるので、彼らのプライドをかけた戦いをするのには適していたのでしょう。


 車とバイク、ふたつのテールランプを見送ると、僕は大きくため息を吐いて缶ビールを開けました。


 なんでもいいから、事故らなければいいけど…。


 そんな胸騒ぎを覚えながら呑んだビールは酷く不味かったです。


 そして30分が経過した辺りだったと思います。


 ピンポーンとインターホンが鳴り響くと、玄関のドアがバッと開いたのです。


「ほらな、やっぱりバイクなんだよ」


「Aくん、すごくかっこよかったよ!」


 なんて、バカ騒ぎしながら部屋に入ってくるのです。


 その2人のテンションは、ここが田舎じゃなかったら苦情ものでしょう。


「もう少し静かにしてくれ」


 僕のそんな警告も耳に入らないぐらい、彼らは楽しそうにはしゃいでいました。


 そして、私は玄関が空きっぱなしであることに気が付き、閉めに行きます。


 ドアノブを握り、自分の方に引いた瞬間でした。


 プルルル。僕のスマホが鳴りました。


 右のポケットから取り出し画面を見ます。


 相手はDちゃんでした。


 声がうるさくて聞こえるか分かりませんでしたが、わざわざ場所を変えるのも…て言うよりも、なんで自分の家なのに気を使わなくちゃいけないんだ、という感じで電話に出ました。


「どうかしたの?」


 だけど、返事がありません。


 それどころか、何かサイレンのような音が聞こえるのです。


「Dちゃん?」


「…僕くん」


 何故か、彼女の声は酷く震えてました。


「どうかしたの?」


「…Aくん、Bちゃん」


「あぁ、そういえばバイクの方が速いんだね、てかそっちなんか遅くない? 警察にでも捕まったの?」


 僕がそう言うと、また応答が無くなりました。


「Dちゃん?」


「嘘…変な嘘つかないで」


「は?」


「変な嘘つくな!」


 驚きました。Dちゃんがそう叫ぶのです。


 もう、僕はわけが分かりません。


 そして、後ろの2人がこんな変な勝負に勝ったぐらいで、あそこまで騒げるのも、わけが分かりません。


 もう、最悪だ…。


 色々と呆れた僕は電話を切ろうとしました。


 するとその時です。


「僕くん…そこにAくんとBちゃんが居るはず…ないんだよ…」


「は? ごめん意味が分からない。 切るね」


「だって…2人は…」



「私たちの目の前で崖から落ちたんだから」



 その瞬間です。


 後ろで聞こえていた馬鹿みたいな声がスっと消えたのです。


 思わず後ろを振り返ります。


 そしてリビングを見ると、2人の姿がないのです。


「いや、そんなはず…」


 僕は焦って庭を見ました。


 でも確かに、彼お自慢のバイクは停まっていませんでした。



 僕、やっぱり思うんですよ。


 かっこいい車を持つよりも、速いバイクを持つよりも、どっちが速いかなんて、馬鹿げた勝負に勝つよりも、何十年も隣にいる彼女を守れる人の方がかっこいいなって。


 そうです、愛にスピードは必要ないんです。


 この話を糧に、自分の運転を見直してみてください。


 きっと、その隣にはあなたの大切な人、そうじゃなくても、あなたを思う人がどこかにいるんですから。


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