第21話

学校が近づくにつれ、冷や汗がじわりと出てくる。そんな金沢の横では、相変わらず涼やかな様子の芽内がいる。自分で頼んだとはいえ、羽黒と会うのかと思うと緊張する。

そんな心中を知ってか知らずか、芽内が話しかけてくる。

「どうして羽黒くんを学校に復帰させたいの?あの人は、金沢くんを虐めてたよね。だいぶ追い詰められてたって聞いてるけど」

「どうして、か…」

芽内に尋ねられ戸惑う。

羽黒が嫌だった。虐めは辛く、学校生活は苦痛で堪らなかった。

終わりが見えず、教室にいても居場所がなく休み時間、話し相手がいないのが寂しく恥ずかしかった。


芽内が飛び降りたことにより、羽黒への風向きは変わり、一気に彼は一軍から滑り落ち、腫れ物扱いだ。

金沢を脅かす者はもういない。

毎日は平穏だ。

この日々が続くなら、もう死にたくならないだろう。


でも…


金沢は思ってしまったのだ。

何か違う、と。

これは俺が求めていた結果じゃない。


「うまく説明できないんだけど、芽内が来てくれて、飛び降り騒動を起こしてくれたから、俺は虐めから解放されただろう?」

「そうね。毒をもって毒を制す、じゃないけど羽黒くんという悪を虐め対策委員会という悪の組織が懲らしめたね」

「…自分で悪の組織って言っちゃうのかよ。まあ、ともかく。俺から脅威は去ったよ。だけど、本来ならそれは俺が自分で対処しなきゃいけない問題だったんだ」

「そうかもしれないけど、死にたがってた金沢くんに冷静な対処ができたかな?」

「うん。それもその通りなんだけど。たださ、俺が死にたくなったのって何でだろうって考えた時に、虐めが辛かったってのもあるんだけど、一番の原因はそこじゃないな、って思ったんだ」

芽内がさっぱり理解できない、という顔をしながらも続きを待っている。

「一番辛かったのは、誰にも相談できなかったことなんだ」

そう言い、やがて確信に変わる。


「辛いことを同級生にも先生にも親にも言えなかった。自分のみっともない姿を見せたくなかったから。もちろん、今だって見せたくないよ。だから羽黒が学校に戻ってくるのは、怖いよ。だって、また虐めに怯える自分に嫌でも向き合わなきゃダメなんだから。でもさ、だからって俺が辛かったからって人にそれをやり返していいとは思えないんだ。しかも俺自身がやるならまだ正当防衛だ、って言えるかもしれないけど…」

そう言いチラリと芽内を見ると、頷き

「そうね、悪の組織じゃあね」

とりあえず納得した様子の芽内だったが、ふと思いついたように言う。

「金沢くん、ずいぶんと正義感が強いというか綺麗事を言うけど、もしかして他にも理由があるんじゃない?羽黒くんを復帰させたい理由」

さすがに鋭いな、と思う。

「あるよ、理由」


一呼吸置いてから一気に言う。


「俺は、羽黒のこと友達だと思っているんだ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

孤独なファイター専用席 江波 @sbym23myk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ