第7話

 今日は凛が来るまで店は閉めないでおこうと決める。

 レジ横の椅子にほっと一息座ろうとしたときだ。外のガチャに学生が溢れだした。

(あいつら!)

 ガチャを蹴飛ばし始めて、比呂は慌てて外に出て追い払うと、さっきまで見ていたカタログを思い出す。椅子に腰掛けてガチャをのカタログを見つめながら頭の中は凛のことをわずかに考えつつ、そんなことあるかと彼女のことを頭から追いやった。

 日が暮れて、辺りが暗くなっても凛が現れる様子はなく、思ったより遅い帰りなのだと思いつつ、比呂はシャッターを半分閉めた。

 客は結局凛だけで、売れたのはアッシマー二体のみ。

 二階に上がり夕飯でも食べようかと思ったものの、凛が突然来た時に口元が汚れていたら大変だと、お腹を鳴らせながら待っていた。

 空腹に耐えかねてお菓子を摘まんでいると、シャッターを屈んで入ってくる人がいる。

 誰だと顔を上げると、凛だ。

「ごめんなさい。遅くなりました」

「いいよ。お疲れさま。帰り、遅いんですね。もう夜の七時過ぎてるし、今から夕飯なんでしょう? 朝も早いの?」

「朝の九時に出勤です。こき使われてます」

 苦笑する凛を見て、比呂は改めて可愛いなと思いつつ、下心ありなんて思われてはいけないと、紙袋を手渡した。

 凛が嬉しそうに頬を緩ませる。

「店に持っていくと変な顔されるから。助かります。また来ますね」

「ぜひ、来てください。入荷したらお知らせしますから」

「店長さん。ちゃんとした人でしたね」

 凛が微笑むので、比呂ははっとする。

 アマゾンと比べてみたり、なけなしのガンダムの知識を披露したり、散々だった。

 もう少し、ちゃんと話してみたいと欲求が膨らんでいく。

「あの、どのガンダムが好きですか? 仕入れますけど」

「うーん。ハンムラビですか」

「じゃあ、仕入れときますので、来てください」

 比呂はにこっと笑みを見せて、凛を見送った。

 胸にはじわっと切ない想いが満ちている。

「ほら、やっぱり好きになった」

 父親がいつの間にかいて、ぎょっとしつつ比呂は小さく頷いた。

「いいだろ。別に」

「ほら、ごはん冷めるぞ」

 父親に言われるまま、比呂は店じまいをして二階に上がると、ほくほくの夕飯が出迎えてくれ、その日は久しぶりに満たされるような思いでご飯をかきこんだ。



                                 了 

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にわかガノタは、おもちゃ屋で恋をする。 @Ikkakisaragi

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