赤子を作る事を禁止された地下シェルターで、彼女を妊娠させてしまった

@6_6

世界は俺の為にできていない

 世界は俺の為にできていない。そう気づいたのは何歳だっただろうか。厭、ある日突然気付いたのではなく、たぶん生まれてから一日一日と、実感しつつ今まで生きてきたのだろう。

 俺の居る世界……地下シェルター48195は、赤子を作ることが禁止されている。子供を産むことは人間性の否定で、人の生き方を狭めて、皆不幸になる。からだそうだ。

 俺の親の世代は子供の扱いが酷かったらしい。安価な人口子宮と養育機が出来てからというもの、子供を臓器売買するために売ったり、虐待を平気でしたり、飽きたら殺して埋めたり。だから子供は人工授精で、シェルター内で安全に育てられる。

 俺は今23歳。白い白衣に、短髪の髪。白い天井に、白い部屋。俺たちはそんな無個性な世界で、何かを残そうと芸術をしたり、スポーツをしたり、ゲームをしたりする。

 勿論この世界では恋愛は禁止されている。子供を作るのに類する行為も禁止だ。毎日をガキみたいに遊び、過ごす。俺が聞くに、天国とはこういう世界らしい。

 そんな中、俺はシーファという女性に出会った。肩で切り揃えられた黒い艶やかな髪、端正に整った、切れ長の目、少し厳しい顔をした彼女。こんな甘ったれた世界の中で、何かを目指すような強い意志を感じるその姿に、俺は恋をした。

 そして、2年がたち、彼女は妊娠した。こういう例は、今までにも何度もあったらしい。そしてついに自分にもその番が来てしまった事を、俺は自覚した。


 1か月後に検診があり、そこでバレる。なぜそのことを俺が知ってるかと言えば、同じような例が今まで何度もあったからだ。そして、その場合の結果は3つに分かれていた。

一つは、その男女の片方だけが戻る場合。彼らは「もう片方は殺された」と青ざめた顔で話す。2つ目は、二人とも戻る場合。彼らは「堕胎の代わりに戻れた」と悲しそうに話す。3つ目は、誰も戻らない場合。おそらく、反省も何もしなかったので、不穏分子として殺されたのだろう。そう俺たちの中では噂されていた。


 ただ希望はあった。このシェルターには「出口」がある。これもうわさ程度だが、非常用の連絡通路を使えば逃げ切れるらしい。教師や管理者の知らない道。

俺はシーファを呼び、労働時間の最中……つまり管理者の目が「その他の場所」へ行かない時間に合わせ、逃げる事にした。

 当日、俺はいつもより早く目が覚め、時を過ごした。不安だったが覚悟も決意も決まっていた。食事中、いつもより教師や管理者がちらちらと俺たちの事を見ている気がした。

 そして労働、今日は工具の組み立てをしている最中、約束の時間が来た。

 「トイレに行きます」と俺は管理者に伝え、俺はトイレ前に行く。そしてシーファに会うと、そのまま地下の非常用通路へと向かった。

 途中誰ともあうことなく、非常用通路へ入り、薄暗い通路を足早に歩く。俺たちの居た部屋とは違う、少し黄ばんだ壁を見て、自由が近づいている事を感じていた。

 そして俺たちは___絶望した。急に現れた管理者達。前と後ろに5人ずつ。俺は突破する為に目の前の管理者を押し倒し、シーファに先に行けと叫んだ。

だがその先にも、管理者が何人も居た。俺は押さえつけられ、シーファは羽交い絞めされている。俺は悔しくて、涙が出てきた。世界は俺の為になんかできてない。全て、全て把握されていたんだ。俺は必死にどうやれば救えるか頭を巡らす。どうにかしてシーファだけでも、しかし子供はどうなる?

 俺たちは別々に、黄色く塗られた壁の面談室に連れていかれ、パイプ椅子に座らされた。管理者は落ち着いた表情で、俺たちに「選択肢」を提示してきた。

 「君には選ぶ自由がある。一つは反省として君の妻……つまりシーファ君の処刑を手伝い、殺す事。その代わり君は普通に元の生活に戻れる。場合によってはシェルターは変わるがね。

 二つ目は、シーファ君の堕胎を手伝う事。その代わり君たちは同じシェルターに戻れる」

 俺は迷わず立ち上がり、パイプ椅子を手に持った。そんな未来を選ぶなら、俺は少しの可能性を選ぶ。

「ふざけんじゃねぇよ、そんな奴のどこが人間なんだ。人生なんだ。俺はお前たちに、俺たち親の世代が最悪な人間だったと教わったが、お前たちもやってる事は変わらないじゃないか」俺は壁の窓ガラスを叩き割り、シーファの居る部屋へ向かった。

 俺は面接室で泣きじゃくるシーファの手を取り、通路をまっすぐ走る。

非常用通路を行けば、外に出るはずだ。そしてどこか山奥に逃げて、何とかして暮らせばいい。管理者たちは追って来ない。

俺たちは非常用通路をひた走り、扉を開けた。その先は___


 色とりどりの木々、街並みが広がっていた。そして出口の周りには、笑顔の管理者たち。

「……どういう事だ?」

 管理者たちは俺たちを捕まえようとする気もなく、ただニコニコしている。そのうちの一人が近づき、俺たちに言った。

「おめでとう。君たちは文明社会にふさわしい夫婦として、この地上で生きる事を許されたんだ。

 君たち親の世代が酷かったのは事実だ。だから我々は、新しい世代にテストを課すことにしたんだ。パートナーと、子供をどちらも見捨てない選択をする人間を選ぶためにね。

 勿論我々は処刑も、堕胎もしない。出来た子供は人工子宮に移され、シェルターで育てられる。処刑はせずに、テストに合格した者は地上で、不合格者は別のシェルターに移される、それだけだ。

 君たちは二人とも合格した。君たちはこれからこの世界の住人だ」


俺は体中の力が抜けてへたり込んだ。世界は俺の為にはできていない。そして、誰かの為にできている。

「どっちの世界も、狂ってる……」

そう俺は呟き、シーファと共に前へ歩いた。

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