第8話 結論 才能は少し得

 僕は初花さんに頼んで、殴ってきた男子生徒の彼女に、詳しい話を聞いてもらっていた。

 公園のベンチで待つ間、空になった財布を見詰める。

 これで稼いだお金の殆どが無くなったなーと溜め息をつくと、事情聴取を終えた初花さんが戻ってきた。


「どうだった?」

「彼女、他に付き合ってる人がいるみたい」

「それで?」

「それだけ」

「もっと他には?」

「何を聞けって言うの?『どうしてセックスしなかったんですか?』『性欲はありましたか?』って聞くの? 話したこともない相手に?」

「それはそうだけど……」

「ただ、その彼氏とは最近ケンカして、その当てつけに別の人とデートしたんだって」

「じゃあ、男は最初のデートでエッチできるか、オーラで確認しようとしたのか、なんて奴だよ」

 どんだけ自信満々の勘違い野郎なんだ。そんな奴に殴られて、ビビった自分が情けなくて、悔しかった。

「それで、どうするの?」

「それを一緒に考えてよ」

 お金払ったんだから、の一言は付け加えれなかった。

「だったら、観察するしかないわ。オーラの正体を知るにはサンプルを集めないと。さあ、探しに行きましょう」


 初花さんは僕の襟元を掴んで、ベンチから強引に立たせた。

 よろめきながら立ち上がると、遠くに濃いオーラが見えた。そのオーラの持ち主は、公園の中に入ってきていた。

 僕は「あそこ! いたよ」と指差した。

「どこ? 小学生?」

「みたいだね……」

 最初に見付かったサンプルが女子小学生とは。気を取り直して別の人を探そうとしたら、

「あとを付けましょう」

 と初花さんはノリノリだった。

「小学生だよ」

「いいから!」

 僕の言葉も聞き入れず、初花さんは公園を進む小学生の女の子を追いかけた。

 やがて、女の子は一人でブランコに座って漕ぎ出した。その動きに併せて、オーラーも一緒に揺れている。気が付くと、さっきよりオーラが濃くなっているようだった。

 僕らは木蔭に隠れて、しばらく女の子を観察することにした。

「こんな寂しい公園で、一人で何してるのかな?」

「誰かを待ってるのかも」

「小学生で性欲はおかしいよね?」

「まあ、そうね」

 僕と初花さんが、一問一答を途切れ途切れに繰り返していると、小学生の男の子がブランコを漕ぐ女の子の前に現れた。

 僕が「初花さんの正解だね」と話し掛けた途端、初花さんは犬にでも躾けるように、シッと言って僕を黙らせた。仕方なく、僕も観察を続けた。

 一見してモテそうな男の子が「何の用?」と尋ねた。どうやら女の子が呼び出したらしい。

 ブランコから降りた女の子が、何かを言いたげに、モジモジとしていた。これは、もしかして、僕には全くの無縁だった世界。告白というイベントではないだろうか。

 動揺する僕の目の前で、女の子が勇気を振り絞って、


「好きです。付き合ってください」


 と男の子に告げた。

 ああ、やっぱりそうだった。

 お互いに恥ずかしがって下を向く二人。見ているこっちも恥ずかしくなった。

「よろしく」 

 男の子は、すぐに小さな声で返事した。

 その時だった。

 女の子のオーラが綺麗さっぱり消えたのだ。僕は驚いて隣の初花さんに報告をした。

「オーラが消えたよ」

「え! 本当に?」

「これは、どういうこと?」

「さあ、私に聞かれてもねえ――でも、これで性欲の線は消えたわね。告白が成功して消えるんだもの」

 自分の能力が健全であったことに嬉しさがこみ上げてきた。

 恋人と中々会えない。恋人とケンカ。そして、告白。

 この三つの事例の共通点とは?

 僕の頭に一つの答えが浮かんだ。

「わかった! オーラは女の子の恋心を表していて、特に不安感に左右されるんじゃないかな?」

「告白が成功して、安心したから消えたって事?」

「そうだよ、やった! オーラの正体が分かったよ」

「でも、それが分かったからってどうなるの?」

「そんなことどうだって良いよ。とにかく判明したんだから」

 はしゃぐ僕は思わず初花さんの両手を掴んで、子供のように大きく振り回して、喜びを表現していた。それに振り回される初花さんの顔は、なんとも複雑な笑顔を浮かべていた。

 ただ、この時、初花さんに微かなオーラが見えたことは、彼女には黙っていることにしよう。

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僕、オーラが見えるんです 坂本ジャック @Madime

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