第1話 使徒、襲来3
気がつけば朝の4時だった。もう30手前なのに。
「なんか気持ち悪い……とにかく2時間は寝なくては」
俺はもぞもぞ布団にもぐりこんで目を瞑った。瞬時に寝落ちしたようで、家のピンポンが連打されている音に気づいた時には、身体が鉛のように重くなっていた。
朝6:30、目覚ましがわりになったことはツいてるとは思うが、こんな時間に誰だ?
扉を開けると、そこには制服を着た女の子がしゃらんと立っていた。
「久しぶり、お兄ちゃん」
「……、誰?」
残念ながら妹はいないのだ。俺が覚えていないことに少しだけ眉をひそめる彼女。
「ひどいなぁ、私は片時もお兄ちゃんのこと忘れたことないのに。昔隣に住んでた、小坂葵、だよ」
そういわれて思い出した。自分とは一回り以上も違う幼馴染みだ。家が多忙で、よく面倒を見ていた。その頃はプリティアとかいう魔法少女アニメにも手を出していたから、彼女ともすぐ打ち解け、懐いてくれたのだった。大学進学で上京する俺に手紙を書いてくれたっけ。
「あぁ、葵ちゃんか、すっかり大きくなったね」
「思い出した? お兄ちゃん。嬉しいな」
笑顔を見せる彼女は、昔よりは落ち着いた雰囲気で、清楚な印象だった。
「で、なんで葵ちゃんは東京に?」
「今日から東京の学校に通うからだよ。ほら、これ」
ひらりと渡されたのは合格通知書だった。よくみると海成高校とある。
「東大進学率トップの超進学校じゃないか」
そんなに秀才だったのかと彼女に目をやると彼女ははにかんだ。
「お兄ちゃんの住んでる東京に、私もいってみたくて、勉強頑張りました」
俺は一瞬考えた。
「え、モチベそこなの?」
「そうだよ、大好きなお兄ちゃんと一緒になるために、葵は頑張ったのです。ほめてほめて」
葵ちゃんは頭を垂れる。昔は確かによく撫でてたけど……。
俺は辺りを確認して彼女のさらさらの黒髪を撫でた。ふわりとシャンプーのいい香りがする。
「えへへ……ねぇお兄ちゃん」
「ん?」
「カレーの匂いがするけど自分で作ったの?」
後ろを振り返ると片付けをほったらかしたタッパーがそのままだった。
「いや、下の大家さんがくれたんだよ」
「女の人?」
「ああ、そうだね」
「……」
ん? なんか目のハイライトが消えたような……。
「お兄ちゃん、東京で変わっちゃったんだね」
「え、まあ変わったっちゃ変わるよ」
「お兄ちゃんは私のものだからね……」
不敵な笑みを浮かべた葵ちゃんは無理矢理家に上がり込むときょろきょろあたりを見回し掃除をしはじめた。カップ麺の残骸が溜まっていた台所はたちまち綺麗になり部屋も掃除機をかけてくれた。
「料理も覚えたんだよ」
そう言って台所で葵ちゃんはあっという間に弁当を作ってくれた。しばらく使っていなかった弁当箱に彩り豊かなおかずが敷き詰められていく。
「今日もお仕事頑張ってね、葵もこれで頑張るから」
そういって、俺の枕カバーを手に取って匂いをかぐ葵ちゃん。変わったのはどっちなんだろうか。葵ちゃんはそのまま枕カバーを持って学校に行ってしまった。
「えええ……」
持ってかれてしまったものはしょうがない。俺も急いで会社に行く準備をしないと。
元オタクの俺がもう一度オタクを目指す物語 ワラシ モカ @KJ7th
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