乙女の旅(旧)

雨世界

1 あなたの元へ。

 乙女の旅


 プロローグ


 あなたの元へ。


 本編


 泣かないよ。だって、私が、そう決めたから。


 花澤乙女はたった一人で、なにもない、平らな、まっさら大地が永遠と続く、不思議な世界の上を歩いていた。

 乙女の服装はいつもの学校に通うための制服姿だった。白い制服と紺色のスカート。赤いフカーフに白い靴下と黒い靴。肩に白いカバンをかけて、その長い黒髪にはマーガレットの花のついた白い髪留めをしている。


 乙女は無言のまま、ずっと前を向いたままで、黙々とその両脚を動かし続けている。

 その足取りには、迷いは感じられない。

 ただまっすぐと、乙女は自分の目的地に向かって、ひたすらに歩き続けていた。


 世界には少し風が吹いている。

 その風に、空を覆っている灰色の雲が、ちょっとだけ動いていることがわかった。もしかしたら、雨が降るのかも知れない。

 雨が降ったとしたら、少し困ったことになる。乙女は傘を持っていなかったからだ。乙女がずっと愛用している赤色の傘は、今は家の玄関の傘置きの中にそっと立てかけてあるはずだった。


 もうずいぶんと歩いた。

 でも、目的地はまだどこにも見えない。

 ……あなたの姿も、どこにもない。


 乙女は少し不安になった。

 自分の行動に間違いはないと確信している乙女だけど、そうはいっても乙女はまだ、十六歳の高校一年生の一人の孤独な少女に過ぎなかった。

 こうして自分の考えに、私はなにか根本的な間違いをしているのではないか? と思って、不安になるときが、ときどきあった。

 そんなときはいつも乙女は、あの人のことを思い出した。

 自分の、世界で一番愛している人のこと。

 自分のいる世界から、とうとつにいなくなってしまったあの人のことを、……強く思った。

 すると、すごく勇気が出てきた。

 自分のしている突飛な行動が間違っていないと信じることができた。

 それが乙女はすごく嬉しかった。


 だから乙女はにっこりと笑った。

 人前では絶対に笑ったりしない乙女は、こうして一人のときは普通に笑うことができた。

 そんなことができるようになったのは、全部、あの人のおかげだった。


 ありがとう。

 乙女はにっこりと笑って、そんなことを一人、思った。

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