俺、勇者! 聖剣のパパになります!

七転十五起

プロローグ 常春の日常

 常春の大陸『エヴァースプリング』は今日も暖かな日差しに包まれていた。

 つまり絶好のピクニック日和、ということで!


「ピクニック祭りの開催じゃぁあぁぁっ!」

「かいさいじゃあああー!」

「ふたりとも、走ると転ぶわよ? もう……ふふっ」


 テンション高く俺と娘のエクス、そして妻のアルマとともに、桜並木の広場へ意気揚々とピクニック! よっしゃあああ! 妻の弁当を桜を眺めながらたらふく食うぞ! 娘と妻のキャッキャウフフな追いかけっこをビルーシートの上で寝転がりながら幸せに浸るぞ!


「シンゴ、さっきからニヤニヤしてて気持ち悪いんだけど……」

「いいじゃねぇか、このところ、戦争で気が休まらなかっただろ? 偶には一家団欒、こうやってきれいな景色を眺めて美味いもんを食う、それがエクスの為にもなるだろうよ。俺はそれが嬉しくて仕方がねぇんだ」

「……まあ、そうね。エクスも今まで戦争で頑張ってくれたし、ご褒美の意味も含めて、ね? この戦時中、あと何回、桜が見られるかわからないし……」

「おっと、暗い顔はすんなよ、アルマ? そのために、勇者の俺がいて、最強の鍛冶屋のお前がいて、そして……聖剣の化身妖精であるエクスがいる」


 事実、先日の魔王軍の大攻勢に、俺達は全力で抗い、退けることに成功した。

 失うものは大きかったが、魔王軍に大打撃を与えることが出来た俺たち『四季同盟(フォーシーズンズ・クラン)』は、つかの間の休息を楽しんでいるというわけだ。


 と、そこへエクスが俺の元へ駆け寄ってきた。

 ああ、笑顔がまるで大天使のように輝いてるよエクス!

 ひょんな事から俺はエクスの父親として今まで連れ添っていたが、本当にこの娘は可愛い、可愛すぎる! 目の中に入れても痛くないというのは本当だな! 実際に眼の中に入れたら、聖剣だから俺の眼が潰れるけどな!?


「パパー! パパー!」

「おー? どうしたー、エクスゥ?」


 俺はエクスを抱き上げると、可愛さのあまり思わず抱き締めた。

 だがその途端、俺の鼻腔を容赦なく刺激するアレによって全身が凍り付いた。


「パパー、あたち、ウンコもらしちゃった!」

「やぱりかぁぁぁぁッ! くっせえぇぇぇー!!」

「大変! 代えのおむつは何処だったかしら?」


 ……と、まぁ、こんなドタバタもありつつ、今は遊び疲れたエクスを寝かし付け、夫婦の時間を俺とアルマは過ごしていた。


「シンゴ……もう、あんたがこの世界に来てから、1年が経つのね……」

「あっという間だったな、ここまで!」


 様々な妖精種族が住まう4大陸の世界『フェアリーアース』に俺が異世界召喚され、それから色々な事が本当に起こった。別次元世界から侵略してきた魔王軍『メガギカ』との戦争は熾烈を極め、今までに多くの仲間が命を落としてきたのを、俺達は見てきた。

 だが、先日の魔王軍の大攻勢を退けたことで、ようやく反転攻勢に移れる見込みが出てきた。

 この休暇が終われば、今度は此方から魔王軍へ仕掛ける番。

 つまり、これが最後の安息日になるだろう。


「なぁ、アルマ? 覚えているか? 俺達が、初めて合った日の出来事?」

「なに? 突然? やめてよ、そういうの、死亡フラグっていうんでしょ、シンゴの世界じゃ?」

「はははは! バカヤロー、俺は死なねぇよ!」

「じゃあ、なんで急に……?」


 キョトンとするアルマの肩を抱き、俺の傍へ引き寄せた。


「ちょっと、エクスが起きちゃうじゃない……!」

「大丈夫だって。……戦いばっかで、構ってあげられなかったもんな」

「……ばか。まだお日様が私たちを見てるわよ?」


 照れるアルマも愛おしい。

 はじめはなんてポンコツでガサツなドワーフ女だと敬遠していたが、冒険を進める中で、俺達の絆は確かに結ばれてゆき、お互いに惹かれ合っていった。


「いやさ、この1年、駆け抜けるだけ駆け抜けて、キチンと振り返って来れなかったなって。これから激しい戦いが待っているからこそ、今までの出来事をおさらいしておきたいんだ。……死んでいった奴らのことも、思い出してあげねぇと、可哀想だもんな……?」

「シンゴのそういうところ、あたし、好きよ」


 俺達は自然と唇を重ね合い、吐息を混じり合わせた。

 そして、自然と違いの口から、1年前からの出来事を語り合い始める。

 記憶は、俺が『フェアリーアース』へ召喚された日まで遡る……。

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