第93話 予知能力者と会う件について

「どういうことかしらぁ? 我が王? なぁに、六門ってば、いつの間にこの子と主従の関係を結んじゃったのかなぁ? というかロリコンだったのぉ?」

「あ、いや、だから、俺もよく分からないんですけど……」

「はあ!? 白状しなさい! 実はすでに《ステルス》を使って、ここに来てこの子に会ってたとかそういうオチなんじゃないの!」


 ああなるほど。そういう考え方もできるかぁ。確かにそれなら辻褄は合うな。


「マジで知りませんって! 大体その子の名前だって知らないってのに!」

「……ホントね?」

「マジですってば」

「いい? この子は身体が弱いの。悪戯とかしたら許さないんだからね」

「……シスコンだったんですね、ヒオナさん」

「あぁ?」

「あ、口が滑りました。すみません」


 もうマジで怖いこの人。仁侠映画に出てくる姐さんとかそっち系の人じゃないの?


「ふふ、ヒオナ姉さん、今のはミオの冗談ですよ」

「えっ、冗談だったの!?」


 いや、どう考えても冗談でしょうが……。


「ヒオナさんが普段から俺をどういうふうに見ているか分かりましたよ」

「あー……えと……ごめんちゃい!」


 許されることなら、この女の高い鼻を殴りつけて低くしてやりたい。

 俺が何も言わずにじ~っと睨みつけていると、さすがにバツが悪かったのか、


「……ごめんなさい」


 と意気消沈した感じで謝ってきた。


「はぁ……それに君も冗談は相手を選んでくれよ。危うく明日くらいに東京湾に浮かぶところだったし」

「ちょっと! ワタシそんなことしないから!」

「…………」

「だからその目止めてぇ! ごめんってばぁぁぁ!」

「ちょっと静かにしてもらえませんかね。親父さんに叱られますよ?」

「うぐっ…………もう! ミオマのバカ! こうなったのもアンタのせいだからね!」

「あはは。ヒオナ姉さんが、こんなに手玉に取られているなんて面白いです。さすがはヒオナ姉さんが目を付けた方ですね」


 この短りやり取りの中で、どうやらこの子も年相応に見えず厄介な存在らしいことは分かった。


 俺……生きて帰れっかなぁ。


 すると幼女が、布団の上で正座をしながら丁寧に頭を下げてくる。


「戯れに興じてしまい、申し訳ありませんでした。改めて自己紹介させて頂きます。私は五堂家の三女――五堂ミオマと申します。あ、ちなみに九歳です」


 そんな九歳いるかよ……とツッコミたいけど、実際に目の前にいるので何も言えねえ。


「俺のことは何だかもう知ってるみてえだけど、有野六門だ。悲しいことに、君の姉に興味を持たれてしまった哀れな子羊です」

「さっきから六門、冷たくない?」


 うっさいです。とりあえず勘違い女は黙っててくれ。


「どうぞ、狭い所ですがお座りください」


 そう促され、俺は用意された座布団の上に腰かけた。しかし何故か俺の分だけ。


「あれ? ヒオナさん?」

「悪いわね、六門。その子のお願いなのよ。二人っきりで話がしたいって」

「は? てかまたそういうことを後出しで言うし……」

「あらら、言ってなかったっけ? じゃああとはよろしくねー」


 さっきまで妹の貞操を心配してたくせに、今度はすぐにいなくなるなんて……。


「あんな姉なので、ご苦労なさっているはずです。本当に申し訳ありません」

「え? あー……まあ、うん」

「ふふ、正直なお方ですね。本当に面白いです」

「そういう君は、とても九歳の子供には見えないね」


 外見は愛らしい顔立ちに、とても華奢な身体つき。病弱……という言葉が似合う幼女だ。


「ふふ、ミオには前世の記憶がありますから」

「は? ぜ、前世?」

「冗談ですよ?」


 ガクッと肩を落とすリアクションをすると、またも彼女は楽し気に笑う。

 どうやら五堂姉妹で、俺の癒しになってくれるのはシオカだけのようだ。マジであの子が普通の女の子で良かった。


「はぁ……ところでえと……」

「ミオマって呼んでください」

「……ミオマはどうして俺を呼びつけたんだ?」

「その前にミオのことをどの程度ヒオナ姉さんから聞いていらっしゃいますか?」

「君のこと? ……ほとんど何も」

「もう……ある程度は話しておいてくれた方が時間も省けましたのに……」


 どうやら説明をサボったようだ。マジであの女、良い度胸してやがる。


「ではミオのことをまずお教え致しますね」

「おう、頼む」

「ミオはあなた様と同じ『持ち得る者』です」

「! ……そっか。まあ予想してなかったわけじゃねえけど」


 だったらやっぱこの子が……そう、なのか?


「そして度々ヒオナ姉さんや、シオカ姉さんに聞いたことがあると思います。――〝予言〟について」


 ああ、やっぱりな……。


「ミオのジョブは――『予知能力者』。あなた様と同じユニークにして、この先の未来を知る者です」

「! ……何で俺がユニークジョブの持ち主だと?」

「それも〝予知〟で知り得ました」


 おいおい、それじゃ俺やヒーロの能力も、この子には筒抜けの可能性があるってことじゃねえか。そんな能力、反則過ぎやしねえか?


 いや、でもバレていたなら、この子からヒオナさんに情報が行ってるはず。それなのにヒオナさんが隠していた能力について追及してきてないから、俺の能力の全容をまだこの子は知らないってことか?


「……大丈夫ですよ。あなた様の能力の全容は、他の者には告げていませんから」

「!? ……何のことかな?」

「そのような心配をされてそうなお顔をされてましたので」

「へぇ、変わった顔ができるようになったんだなぁ、俺」


 ……何この子!? 心まで読めちゃう系!? それよりもマジで俺、そんな顔してたの!? だったらもっと表情筋を鍛えなきゃ!


「というより、ミオが視た未来の中で、まだ家族にすら語っていたものがたくさんあります。そしてその多くは――あなた様に関わることなのです」

「……俺? えっと……はい? 何で……俺?」

「それは…………あなた様がこの世界の物語の主軸だからです」

「しゅ、主軸?」

「分かりにくいようでしたら、言い換えても構いません。主人公、主役、どれでも好きな男場をお使いください」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! いきなりこの世界の物語の主役とか……君は何を言ってんだ?」


 俺が何かの主役なんて冗談じゃない。


 基本的に平々凡々と過ごしてきたのが俺だ。こんな世界になっても、できる限り目立たないようにしてきた。……まあ、いろいろ失敗したせいで、厄介な連中に注目されてるけど。


 それでも自分が物語の中心だなんて信じられない。どちらかというとモブの立ち位置を要求したい。いや、モブだと信じてるし!


「今後、物語は加速し……あなた様を中心にして動き出します。そして、すべての結末は、あなたの選択次第で移り変わっていきます」

「……ふぅぅ~、OKOK。どこかにドッキリカメラでも仕込んでんだろ? おーい、ヒオナさーん! どっかで隠れて見てるのバレてますよー!」


 これがドッキリじゃなかったら何だっていうんだ。

 しかしいくら声を上げようが、周りを見回そうが、ヒオナさんは出てこないしカメラもまた発見できない。


「まずはミオの話を聞いて頂けませんか? ……真剣に」

「! ……あのさぁ、俺も暇じゃねえんだわ。君たちの創作物語に付き合ってられねえの。奇妙な話で俺を五堂家に縛り付けようって魂胆か? 悪いけど、俺はそう簡単に人なんて信じ――」

「――それはあなた様が、ご友人を亡くされたからですか?」

「!? ……い、今何て言った?」

「あなた様が人間を信じられないのは、三取屋才輝様を失ったせいですか?」


 ピタッと思考が止まってしまった。


「もし――――その三取屋才輝様が生きていらっしゃるとしたらどうします?」

「っ……何の冗談だ? さすがに笑えねえんだけど」


 自分でも分かる。身体が怒りに震えていることが。それほどまでイラついている。

 もし相手が幼女じゃなく、男だったら多分手が出ているほどに。


「そういう未来を…………視たのです」




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世界がダンジョン化していく件について ~俺のユニークジョブ『回避術師』は不敗過ぎる~ 十本スイ @to-moto

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