第10話 エピローグ

ゴブリン退治後、村に戻ると夕刻になっていた。俺は生涯この時の夕焼けを忘れはしないだろう。

茜広がる空は、今や叶わない憧憬を優しく包み込み、俺を慰めるようだった。


削いだ鼻の証拠と篝火の無い夜を過ごし、村人たちは冒険の成功を納得した。

村長は感謝を兼ねて一席設けたいと話していたが、今回は仲間が犠牲になったこともあり辞退する。


アーサーの死体は、村の墓地に埋葬された。

ニパが言うにはアーサーはマジックユーザーになったため、家から絶縁された身の上だそうだ。生前『遺体は燃やし、残った灰は川にでも流してくれればいい』と語っていたという。

村長は村の恩人を粗末に扱うことに反対して、埋葬を申し出てくれた。本人の意思とは違うが、アーサーが強くそう願っていた訳でもなさそうなので、村長のご好意に甘えることにした。


ゴブリンリーダーが使用したマジックアイテムについては、マッジがゴブリンを倒した後、そのローブを触ってしまう。


マジックアイテムには触ることで発動する呪いやペナルティーのトラップが仕掛けられていることが多い。


なので不用意に触る事は忌避される。

知らなかったとはいえ、マッジの行為は軽率で危険なものだった。

この時点では、何かが発動した形跡は無い。しかし、何かしらの魔法が発動した可能性は捨てきれない。


とりあえずマッジが、このローブを持ち帰り機会を見て、魔術師ギルドにアイテム鑑定や魔法解除を頼むしかない。

この手の取引は高額になるため、しばらくマッジの憂鬱は解消されないだろう。


俺たちは仲間を失い、ゴブリンとはいえ幼い命を奪った。

ミッションは成功したが、喜びばかりではない。

とはいえ今回のパーティーの働き、特にチームワークについては、メンバーそれぞれが高い評価をしている。


異種族間でこれほど息が合うパーティーは希少だと、冷静なニパが笑って話す。

ロブザフも満更でない様子で、もう少し一緒に冒険してもいいと悪態無しに答えていた。マッジもロブザフに倣い、賛成している。

もちろん俺だって異論はない。


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これから、俺たちは新しい仲間を募り、また冒険をしていく。この自由だが危険な身分が、何時まで続けられるのかは分からない。

この先、また卑怯で残酷な決断を下すことだってあるはずだ。俺は以前ほど、冒険者に憧れや理想を抱けなくなっていた。


それでも冒険者として生きる自分を、兵士として生きていた自分より誇らしく思えた。


卑劣で残忍にならなくては生き残れない、弱き自分。

それでも誰かに命じられ、そうするくらいなら、自分で迷い考えたい。

最善ではなくても自ら選択する。自分の弱さを誰かに預けるのが嫌なら、弱きままを受け入れて生きていくしかない。


こうして、俺は初めての冒険を終えた。(了)

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ビギナーズ・アドベンチャー・ブルース 東江とーゆ @toyutoe

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