Gと僕

三冬 はぜ

第1話 Gと僕

「ねぇねぇそこのゴキブリ君、何が楽しくて君は生きているの?」

『こりゃまた可笑しな事を言う人間だ」

「そうかな、僕は嫌われものの人生はごめんだけどね」

「こりゃまたえらくハッキリと物をいう人間だ」

『だってそうだろう、ゴキブリなんて気持ち悪いだけで生きていて役にたたないだろう」

「そうか君はまだ『幼い』なんだろうね」

「どういうことだい?」

「君は今、役にたたないから、生きる価値が無いといったね、でもそれは君たち人間にも当てはまることなんだよ。たとえば君達が強要されている仕事やら、学校、家事なんかも人が生きていくのに必要な物であって、人間という枠組みから離れた途端にそれはただの時間の浪費になるということさ」

「でもねゴキブリ君、僕たちは限られた範囲でも自由に暮らしているよ。ゴキブリなんかと違ってね」

「そうか、君達人間は限られた範囲での生活にも自由を見いだせるのか、それはめでたい生き物だね、でも本当にそれは『自由』なのかなぁ」

「どういう意味だい?」

「仮に僕が一般の人間の一生を書き起こしてくれと言われたなら、こう書くと思うんだ。①生まれてくる②言葉を覚える③学校に通う④恋と失恋を知る⑤仕事に就く⑥結婚(出産)⑦子供が成人する⑧死ぬ。まぁ、こんな感じだろう、これを改めて見てみて、ゴキブリと何が違うのか考えてくれ」

「まぁ、学校と仕事は違うだろうね」

「そうだね、確実に言えるのは③と⑤くらいだろう。しかもこの2つはどれも憲法じゃ義務になっている。つまり、生きるためには最低これをクリアしなくてはいけないという事だ」

「つまり何が言いたいのさ」

「つまり僕が言いたいのは『生きる為に与えられた義務は生きる為の自由を制限させている』という事さ」

「うーん、よくわかる無いけど、人間は生きる意味が無いってこと?」

「それは違うさ、生きる価値を持った生き物なんてこの世にはいないよ。いや、居てはいけないんだよ。」

「あーもう面倒臭いな、ゴキブリ君、言いたいことがあるなら、もっと分かりやすく言ってくれ」

「じゃあ結論からいうから聴いて欲しい。君は自殺なんてしてはいけないんだ。」

「もういいんだよ、」

「君を自殺まで追い込んだ原因は僕にはわからないけど、これだけは只のゴキブリにも言える『君を絶望させたそいつも所詮生きている価値の無い奴がつくった絶望』という事だ。もし君がそんな低層な奴と同じ土俵にいたくないのなら、たとえ生きている間に答えが出なくても、『自分の生きる価値よりも自分の生きる意味』を考えて欲しい。考えて、考えて、考えて、生きて欲しい。そうしていれば生きる価値なんて求めずに済むのだから」

「もう遅いんだよ」

「今からだって遅いもんか、だって、君たち人間は僕らゴキブリよりもずっと長生きだろ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Gと僕 三冬 はぜ @naohituzi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ