第5話 殺しの依頼
「お前らは捕食対象なんだよぉ!! 正義感なんてアホなもんぶら下げて餌に引っかかるお前らは、大人しく私に喰われればいいんだよぉっ!!」
あちらの世界の者にとってこちらの世界の人間は旨そうに見えるらしい。こちらで言えば豚や牛のようなものだ。互いの文化を理解した今でもこうして食欲を抑えれず暴れるヤツがたまにいる。
アスファルトに横たわる四人はオレと同じようにでしゃばっちゃったんだろう。同情する。しかし、そうすると警察への通報はもっと早い段階で行われていたのか。つまり、警察は全く駆けつけれていないのだ。
両世界の交流で増えたものは数々あるが、その一つに犯罪率もあった。世界各国治安が悪くなって民間の警備会社が爆発的に増えたりもした。
「悪魔退治なんて手馴れたもんさ」
自分に言い聞かすようにそう呟いてオレは双子を手から離した。何度体験しても死の恐怖ってのは拭えない。
始めたならやりきるしかない。それは人助けにとでしゃばった今こそ遂行しなきゃならない志だ。
振り返り二歩大股で踏み込むと、むやみやたらと振り回す大男のナイフに警棒を当てる。頑丈な自社特注製品に感謝。
視界の端から、手から血を吹き出す女子高生がぶつかってくる。大男に抱き抱えられてるように見えて、実際は腕から生えているのか。体当たりなのか大男のパンチなのか、よくわからない衝撃に身体がよろめく。
「きゃああああ、助けて、お腹が空いたの! 食べさせてー」
どいつもこいつも棒読みで言いやがって腹が立つ。
大振りのナイフが鼻先を掠める。下手くそな素振りに感謝を申しあげたい。ナイフは難なく避けれるものの、あの体当たりが厳しいか。
案の定、次の体当たりも避けることが出来ず、オレの身体は大きくよろけ──。
「つーかまーえたー!」
肩にナイフが突き立てられた。ヤバい、痛い、痛い、痛い。歯を食いしばって大男を蹴った。オレは後ろに倒れて大男はビクともしなかった。あ、ヤバい、痛すぎる。
どうしたものか、強いなコイツ。考えを巡らせようとするオレの邪魔をする胸ポケットの携帯電話。場違いの軽快な着信音がうるさくて取り出した。
着信相手は所長だった。
「輪成か? 依頼が来たぞ」
「あの今ちょっと、手が離せない状態というか、片手が動かない状態というか──」
肩のナイフが食い込んで痛みが増してきた。クソ痛ぇ!
「猪顔の大男で腕を擬態させて獲物を捕まえるのがやり口らしい。街中でナイフを振り回してるらしく至急送還してくれとのことだ。コードは──」
お構い無しに用件を伝える所長様に今日だけは感謝だ。
「ドント! キャント! 仕事だ!!」
オレの言葉に待ってましたと双子が跳ねた。
「やぁやぁやぁ、左に在るのが、ドント・ストップ・デストロイ! 壊し屋だ!」
キャントが空から落下して女子高生の首を鎌で刈った。
「やぁやぁやぁ、右に在るのが、キャント・ストップ・デストロイ! 殺し屋だ!」
ドントが空から落下して大男を縦一閃、鮮やかに斬った。
互いの紹介を笑顔で交わし、双子は大男を一瞬にして殺害した。
身を起こしてその様を見てるだけだったオレは周りが騒ぎだす前に強制送還コードを口にした。大男の死骸が光に包まれて燃えていく。
あっという間の事態に野次馬たちの理解が追いつきざわめき始めた頃、ようやっと警察が駆けつけた。
オレは警察に名刺を渡してあとは会社に聞いてくれと話を通した。
肩にナイフが刺さったままなので駆けつけた救急車に乗り込もうかと思い見ていたらズボンを引っ張られた。
「飯はー?」
「飯はー?」
双子揃ってつぶらな瞳でオレを見上げる。おいおい嘘だろ冗談だろ。先に治療だよな、普通。ぐー、と腹の音を立てるな頼むから。
「あークソ、わかったよ。先に飯な」
歯を食いしばる。正気じゃない。痛みが麻痺してきたのがさらにヤバい。
幸い新しい住みかは近くだ。飯を作ってから病院だ。
「なぁ、ワナビー、言うことあるよな?」
「あぁ、コロニー、痛いで済んで良かったな?」
ナイフが突き刺さったままのオレの行く手を邪魔するものはいない。皆不審な目で見つめてはモーゼの十戒のように道を開ける。
「ああ? ああ、ありがとうよ、助かった」
「どういたしまして、ワナビー。唐揚げ一個追加な」
「どういたしまして、サラミー。卵焼きを焼いてね」
がぉぉ、とライオンのぬいぐるみが吠えた。
事の発端は、どっかのバカだ。
このろくでもない世の中を作り出した、どっかのバカ。
そいつの事を恨みながらオレは今日も明日も双子と共に殺しを請け負う。
いつか平和が訪れることを願って。
金銀輝く幼い双子は《壊し屋》などとにへらと嗤う 清泪(せいな) @seina35
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