36-40


 中盤に差し掛かり、ミドルテンポの曲が入る。俺はやっと椅子に腰を落ち着けて聴き入る。速いだけじゃねぇんだな。こういう曲でもすげぇ丁寧に叩ける人だわ。

 腕を組んで感心してると、隣から肘をつつかれた。

 ちらっと横を見ると、俺と同じように前を見てる宵闇が、スマホを俺の肘に押し付けてる。

 何だ?

 スマホの画面が明るい。ちょっと覗き込むと、それを俺の前に差し出して来た。

 真っ白い画面に、手書きの黒い線が走らせてある。

 …そう来たか。このバカ。ほんとタイミングってもんを知らねぇな。

 俺はつい笑っちまう。

 可愛いわ、お前。必死か。

 画面に書いてあったのは、「すきだ」っていう中学生みてぇな字。

 聞けなかったけど、見ちまったな。

 知ってたわ、そんなん。

 俺は画面の下に指を伸ばして、ペンの色を赤に変える。

 宵闇は、俺が何すんのかって手元を見てる。

 人差し指の指先を滑らして、「すきだ」の上から画面いっぱいにでっけぇハートを描いてやる。

 宵闇は半分立ち上がって画面を勢いよく二度見して、凝視して、俺の顔を見る。絶対「えっ!」って言ったな。聞こえねぇけど。

 そんなにびっくりすることかよ。マジで鈍いな、お前。

 ちらっとヤツに目をやると、口が塞がってねぇ。イケメンが台無しだぞ?

 Hate or Fate?

 その問いかけ。

 俺の答えはFateしかねぇよ。

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Hate or Fate? たきかわ由里 @yuri_takikawa

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