36-39
「ああ。だから、頼んだら総合的にアドバイスしてもらえるかも」
「してもらえ。絶対してもらえ」
逆に、何で今まで何も聞かずに一緒に飯食ってたんだお前は。ディエス・イレの頃からって何年だよ。もったいねぇ。
「ドキドキするなぁ…」
「へ? 何が」
「今まで、楽器のことを人に聞いたことないからさ」
「いや、初めてベース買う時に、店員にいろいろと聞かなかったか?」
宵闇は首を振る。
「雑誌で見て、これって決めて、真っ直ぐ行ってこれ下さいって言って買ってきた」
「マジかぁー!」
「苦手なんだよ、店員にオススメされたりするの」
「されとけよ!」
俺なんか、最初のスティックは店にあるの全部持たせてもらったし、チューニングキー一個ですら店員に1時間相談に乗らせたぞ。小学生の時に。
「レイジさんは別に何か売りつけたりして来ねぇから、安心して相談しろ」
「だよな」
「そのうち、5弦とか6弦とかを平然と弾きこなす、カッコいいお前が見たいんだよなぁ、俺は」
そんで、俺の惚れた男はこんなにカッコいいベーシストだぜ! って世界中に自慢出来たら最高だな。
宵闇の顔を見てにっこり笑ってやると、宵闇も微笑んで、俺の頬に指先を微かに触れさせる。
この優しい顔が、すげぇ好きだよ。
宵闇の唇が開いた時、BGMが途切れて爆音でSEが流れ始めた。
まーたこいつ、言い損ねたな。ほんと、持ってねぇヤツだ。ほんとにこの件については、タイミングに見放されてやがる。
サンドリオンのメンバーがステージに登場して来た。
いやぁ、雪緒さんすげぇわ。傘かそれはくらいに膨らんだスカートに、厚底靴だ。さっき会った時に無造作に束ねてあった髪は、くりんくりんに巻きまくってあるし、こっからでもわかるくらいに派手なメイク。困ったことに綺麗なんだな。でけぇけど。
手に持ったバスケットから、飴か何かを客席にばら撒きながらステージを横切ってセットに入る。めちゃめちゃ可愛い。でけぇけど。
ほんとに靴替えねぇのか? 俺は必死に見つめるけど、まったく靴を替えてる素振りがねぇ…。
ひたすら雪緒さんを見つめてるうちにメンバーが出揃い、ハウリングの嵐から曲が始まる。
宵闇が言ってたように、確かにかなりメロコアに近い。
要所要所に、いかにも日本のヴィジュアル系らしい泣きのメロディが入ったり、なかなかキャッチーな明るい曲があったりすんのも趣深いな。
かなり好みだから、研究心はさておいて、気楽にステージを楽しむ。今度、フルライブに遊びに行きてぇなこれ。
それにしても雪緒さん。ガチであの10cmの厚底でそのまんま高速ツーバス踏んでるわ。このスピード、ただ踏むだけでも相当だぞ。どんなトレーニングしてんだ。間違いなくバケモンだよ。
ヴォーカルも凄いな。いや、全体的にレベル高ぇよ。カッコやメイクはヴィジュアル系らしくお綺麗にしてるけど、和製KEEP OF KALESSINってとこだ。こんなバンドが隠れてるなんてな。ヴィジュアル系だからって食わず嫌いは損するわ。
思わず体を乗り出して見入る。めちゃめちゃ得したな。今度雪緒さんにトレーニング法聞いてみよう。この重さキープしつつこの速さってのはマネしてぇ。週6マシントレーニングって言われたら白目だけど。
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