第10話 旅人と門番
「……そういえば、ここに何年いたんだったかなぁ」
街の焼け跡を見つめながら俺は思わずそう呟いてしまった。2年か、3年か……それ以上長くいたような気もする。
しかし、俺がいたこの場所は今ではただの瓦礫と焼け焦げた木材の山になってしまった。ここに住んでいた人々も、おそらく敵に捕らえられてしまったか、殺されてしまったのだろう。
おそらく、俺が門番をしていても、それは避けられなかった。きっと、俺も殺されていたことだろう……そう考えると、戦場に駆り出されていたことが逆に幸運だったという皮肉なものだ。
俺は近くに咲いていた白い花を街の前にそっと置く。これで手向けになるとは思えないが……何もしないよりはマシだろう。
「君。そろそろ行くよ」
と、そこへ旅人の声が聞こえてきた。俺は旅人の方に向かっていくが、一度だけ廃墟になった方に振り返る。
「……行ってくるよ」
それだけ言って、俺はそのまま街を離れる。しばらくは、旅人とずっと歩き続けた。
「それで……本当に良かったのかい?」
旅人がいきなり俺に話しかけてきた。
「良かった、って……何が?」
「いや……あの街を離れて……僕についてきてしまって、よかったのかな、と……」
旅人は不安げに俺に訊ねてくる。
「……まぁ、あそこにいても仕方ないしな」
「しかし、君は一応門番だろう? なんだか、仕事を僕が君に放棄させたような気がして……」
旅人は申し訳無さそうに俯いた。俺は思わずそれがまた面白くて笑ってしまう。
「……なっ……なんでまた、笑うんだい?」
「いや……もう守る街がなくなってしまったんだ。そんな俺はもう、門番じゃないさ」
そう。俺はもう門番じゃない。あの愛しい退屈な日々は二度と戻ってこないのだ。
「……なるほど。じゃあ、君もこれで旅人の仲間入りというわけか」
急に旅人が嬉しそうな顔でそう言う。
「旅人……まぁ、そうだな。それも悪くないか」
「そうだろう? 旅はいいぞ! 旅人の先輩として僕が色々と教えてあげよう!」
得意げな顔で旅人はそう言う。相変わらずな奴だと思いながらも、俺はそんなやり取りができることに幸せを感じていた。
「そうだ! 実はとある村に伝説の剣聖が使っていた剣が隠されている洞窟があるらしいんだが……見に行きたくないかい?」
「お前なぁ……まぁ、いいさ。どこにでも行こうじゃないか」
こうして、不自由な門番の退屈な日々は終わり、自由な旅人との気ままな旅が始まったのだった。
旅人と門番 味噌わさび @NNMM
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