第9話 旅人とこれから

 それからどれくらい経っただろうか。


 あまり良く覚えていないが、俺はとにかく、かなり長い時間眠っていたらしい。


 目を開くと、いつのまにか森の中らしき場所に横になっていた。


 おそらく、街から少し離れた森の中だろう。俺のすぐ近くでは焚き火が燃えている。そして――


「……寝てるな」


 少し離れたところに女旅人が眠っている。その光景を見て初めて、俺は先程までのことが現実だったということを理解した。


 確か、コイツがいきなり現れて、俺が倒れているところにいきなり……


「あ……竜の血」


 思い返すと、あんなよくわからないものを口にしてしまった。それと同時に俺は腹部の傷が開いたことを思い出す。


「……あれ?」


 しかし、腹部を見ても……傷はない。実際に服を捲って見てみても、傷はない。


「……治ったのか」


 意味がわからなかったが、とにかく治ったらしい。もしかしてだが……あの竜の血という液体……本物だったってことか?


「……あれ……あ!」


 と、声が聞こえてきた。見ると、旅人が目を覚ましていた。


「き、君……大丈夫だったのか!?」


 旅人は起き上がると、そのまま俺に近づいてきて、俺の腹を触りまくる。


「お……おぉ! 傷がない! やはり、あの竜の血は本物だったんだな!」


「……そうかもな」


「本物に決まっているだろう! あれを手に入れるのに随分と苦労したんだぞ! 今度は山の向こうのさらにその向こうの、洞窟に住んでいる老人から買ったんだ!」


 ……その話を聞くと、一気に胡散臭くなってくる。でもまぁ……今回は良しとするか。


「しかし……その……本当に良かった……」


 と、急に旅人は目に涙を貯めて俺の方を見る。


「なっ……なんで泣いてんだよ……」


「……じ、実は……こっちに戻ってくる途中で、君が守っている街が燃えているという話を聞いて……とても心配になったんだ……」


 そう言って、そのまま旅人は泣き出してしまった。俺はその様子を見ていると唖然としてしまうと同時に、思わず笑ってしまった。


「き、君! なんでまた笑うんだ!」


「……いや、似た者同士だったんだ、とな」


「なんだそれは? ……というか、君、これから……どうするんだ?」


 旅人は少し心配そうに俺には訊ねる。


「え? どうするって?」


「いや……君が守る街は無くなってしまったし……どうするのな、と」


 そう言われて俺はようやく思い出した。


 さて、これからどうするのか、と。

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