後編


=数分後=


「アレ何!?」

「あれが神力だ。白い光が一番強い」

「なに?じゃあ私…」

「俺が神力をあげただけだ。でも放てる時点でセンスはあるな」

「…えへへ…。って、あのさ今何時?」


 真っ暗な空を見て焦るように聞く祐奈。


「今は…午後六時だな。安心しろ。じゃあ闇夜退治といくか…」

「まって?」


 ホッとしたのもつかの間、こめかみを押さえて手を突き出す祐奈。


「私も戦うわけ?」

「あぁ、当然だろ。っと、慣れてないだろうしコレ使っていいぞ」

「これ刃物じゃ…」


 祐奈の口を手で塞いだ裕也はそのまま祐奈の懐に短刀を忍ばせた。


「ちょっ…」

「大丈夫だ。これで突き刺すだけでいい」

「そうじゃなくて…」

「あ、そこにいる」


 裕也は祐奈の言葉を聞かずに、むくむくと起き上がりだした闇夜を刺した。


「まぁ…お前の力があればいいけどな」


 その言葉に…彼女はぽかんとした。


「どうした?」

「…私を必要としてる訳?」

「あぁ、いてくれたら助かるな」

「…助かるだけ?」


 裕也は祐奈の目をみて息を吐いた。あぁ…そういうタイプか…と吐いた息に混ぜた。


「必要だ」


 目を見ていうと、祐奈は嬉しそうに、挑戦的に笑った。


「いいよ。手伝ってあげる。親は私に興味ないからいくらでもね」


 祐奈が手を差し出す。裕也はその手を取ろうと近づく。が、瞬間裕也のスマホが震えた。

 やれやれと息を吐いて裕也はスマホを開いて…目を見開いた。


「おい、初仕事だ。急げ」


 裕也はそう言ってついさっき出てきた祐幻坂へ続く壁に手をついた。


==


「ちょっなんなのよ!」


 赤く染まりかけている筈の空は不気味な濁った色に満たされていた。桜が宙を舞い続ける。警報するかのように揺れる。

 遠くの方に黒い何かがうごめいていた。そして鮮やかな光線が飛び交っている。


「神木、こいつのせいじゃないよな?」


 童顔の裕也は腕を組んで身体を逸らしてそう聞いた。

 桜は答えはしないが、裕也はにやりと笑った。


「それなら別にいい。おい、俺が乗っ取ってやるから身体貸せ」


 裕也がそういうと、高校生の方の身体に変わった。


「俺についてこいよ?」

「厨二病!?」


 そして裕也は祐奈の手を掴んで走り出した。その先は黒い何かがうごめいている。降りる階段が見えてきた…のに裕也は減速しようとしない。


「ちょっ!裕也!」

「俺を信じてみろ」


 減速しようとする祐奈を強く引いて…階段を飛んだ。そして数秒後に地面が迫る。

 着地すると同時に膝を曲げる裕也。祐奈の身体は同じように動く。


「え?」


 走る速さだって同じ。手は引っ張られるというよりただ繋がっているだけ。


「おぉ!裕也!」

「戦闘に集中しろ!」


 裕也の足音に『助かった』という顔をする大人達。だが裕也はそう叫んで更に巨大な黒い人影に走り寄った。

 空が真っ黒に染まる。祐奈が振り返ると光線を飛ばし続ける大人達がくすんでいくのが見える。


「さぁ!顔出せやぁ!」


 何故か笑って楽しそうにそう叫ぶ裕也の頬には黒い紋章が浮いていた。

 奥の方に人影がくっきり見えた。アレが本体?

 祐奈は繋いだ手を見る。黒い何かが祐奈の腕をキツく縛って肌を這う。


「きゃっ!何これ!」

「お前の力借りるぞ!」


 そしてがくんと身体の力が抜ける。見えていた筈の人影が薄くなっていく。

 地面に膝がつく。視界が霞んでいく。


 ジャキ、と言う音と共に白銀の光が空に浮く。それすらも霞んできた。


「はははっ!見える!見えるぜ!最高だな!」


 もう…何も…見えな…。


「邪魔をするなっ!今最強に…/俺が見つけたえも…/もう少し黙っ/てめぇの好きにはさせね/俺の為に…」


 裕也が立ち止まって狂ったように叫び続ける。さっきから祐奈の視界の歪みの針が揺れている。


「俺がこの身体の支配者なんだよ!」


 そしてその言葉で視界が戻りだした。繋がれたままの腕にあった筈の触手は消えている。裕也の頬の紋章も薄れて消えた。


「行くぞ。ぼーっとしてる暇はねぇんだよ」


 そして不器用な優しさが影に見える声が聞こえた。

 祐奈はほっとして…涙を流しながらにっこりと笑って立ち上がる。


「あんたが立ち止まってんのよ」

「うっさい。人影が見える筈だ。その場所を教えろ」

「どうせそうだろうと思った」


 白銀の刀が宙を舞う。繋がれた手は離されない。さっきのように祐奈は速く動けない。


「右!左に移った!引っ張るなっ!」

「お前が遅いんだよ。あと予測して言え」


 裕也はこけた祐奈が立つのを待って再び動く。

 予測ってなんなのよ!私は武道なんてやったことないんだから!分かる訳無いでしょ!


「おい、予測して言ってんのかよ」


 本体は決して攻撃してこない。ただ白銀の刀を躱し続けるだけだ。


「素人なのよ!本気で考えてあげるから待っててよ!」


 …私が言ったところにはもういない。なら…正解を言わなければいいのか。


「上!左!下!右前!」


 刀は宙を切るだけ。


「おい、ほんとに予測してんのか?」


 決して怒鳴らない。だが真剣な声なのは分かる。


「うっさい!黙って動いてなさい!」


 祐奈は頭に浮かぶ方向を叫び続ける。そして…喉がかすれてきたころ、何かを切る音が聞こえた。

 気を抜いた祐奈は…裕也の手を…離してしまった。


 心を何かが蝕んでくる…地べたに座り込んでしまう。

 コワイ、シニタクナイ、ノロッテヤル…。アンタサエイナキャ…アンタノセイデワタシハ…。

 頭を強く抱えて絶叫を上げる祐奈。


「っ!祐奈!」


 何かガ…聞こえて…クル。ダ…れの…コエ?


「馬鹿野郎!」


 手が頭からむしり取られた。目が開く。と裕也が私の手を握っていた。


「手を離すんじゃねぇよ!」


 黒影はぱっくりと裂けて、中から靄が出ている。


「不幸代は俺が払ってやるよ」


 そして裕也はそう呟いて傷口をさらに切り裂いた。

 黒い靄が霧散し…地面に溶ける。バラバラと黒い空間が崩れ、夕焼けが現れる。ざわめきが生まれる。

 そこでようやく裕也の全貌が見えた。手からは血がだらだらとこぼれ落ち、指先を伝って草に落ちる。

 草は血を受けて生き生きと育つ。


「あんた…」

「久しぶりに使った。なぁタオルあるか?」


 祐奈は無言で裕也の制服のネクタイをもぎ取って裕也の手首を縛った。


「…あんた何よ!すっごい怖かったんだからね!なんなのよ!あんた私に…わたし…に…」


 そして堰を切ったように怒鳴りだした祐奈は涙を浮かべて…零した。嗚咽を漏らして祐奈の首元に額を埋める。


「…すまん。焦ってた…お前を…殺すところだった」


 裕也は手をどこに置くか迷って不自然に手を宙に這わせる。

 そして祐奈が顔を上げた。


「…それも含めて…全部…教えて…」


 祐奈の右目は真っ黒に染まっていた。そして…祐奈が崩れ落ちた。

ーー


 目が覚める。右目に違和感を感じた。触ろうとすると布に手が掛かる。眼帯か…外さないでおこう。


 横を見ると高校生の方の裕也が寝ていた。夢じゃ…ない?頬をつねるとやはり痛い。

 冷たい表情を感じさせない寝顔が面白くて触ろうとする…と、裕也が手を払って目を覚ました。


「…おきたか。気分はどうだ?」

「あんたが今おきたんでしょうが。気分はそこそこ。眼帯は?」

「外すなよ。目が真っ黒になってるから光は見ない方がいい」

「なにそれっ」

「し~。外すなよ。一週間はそのままだな」

「…不便だぁ…」


 ガクッと身体を布団に沈める祐奈。裕也は眠そうな顔から真剣な表情に戻した。


「悪かった、いろいろとすまん…」

「…ほんと悪い奴よね。まぁ…あんたが悪いんじゃないから許してあげるわ」

「そう言ってもらえるとありがたい。一週間はこのままだけどそしたらここから出したやるから。

 そしたらもう二度とここに来なくていいから。一般人を巻き込むもんじゃねぇな」

「え?」

「…あぁ、出るときには記憶も全部消してやるからな」


 私がいない1週間はテキトウに埋められるらしい。

 知ってしまったのに、忘れたくない。

 というか…私はこいつの優しさを忘れたくない。

 でも、私は知るべきじゃないんだろう。ならもう頷くしかない。


「えぇ…分かった。ありがとう」


ー1週間後ー


 私はあいつに持っている感情を忘れるらしい。そんなのはイヤだけど…仕方ない。


「さよなら」

「あぁ、じゃあな」


 ビルの隙間。あいつの手を後頭部に感じる…。


「私ね…あんたのこと…す…」


==


 あれ?私なんでここに…?

 私はビルの隙間に何故かいた。誘拐?いや、でも大通りは見えるし…。

 遠くの空でカラスが鳴いた。


ー数日後ー


「ねぇ堂上。あんた…」

「なんだ?」

「…これはなに?」


 俺が寝ている間に終礼が終わってすっからかんの教室。

 こいつは黒い物体を俺の机に叩き付けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の知らない彼は殺し屋 小笠原 雪兎(ゆきと) @ogarin0914

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ