第70話(番外編) どうでもいいこと
数日後、ようやくラルは帰ってきた。
食欲も元通りになり、散歩にもでかけ、長話をするところも前と変わらなかった。
「今日、散歩の時に聞いた話なんだけど、」
ラルはまたそんなふうに話し始める。
「最近このあたりに引っ越してきた虎猫がいてね」
「ふうん」
ナナコは気のない返事をする。これもまたいつも通りだった。
「なんだか迷子になっちゃったみたいなんだ。でもちゃんとお家に戻れたって」
そういって彼はまた嬉しそうにしっぽを振った。
いつもは鬱陶しく思っていたそれを久々に見て、今日はやけに嬉しい気分になり、ナナコは思わず呟いた。
「……よかったわね」
「えっ、なあに?」
「なんでもないわよ!」
なんだか急に恥ずかしくなり、ナナコは本棚の上に飛び乗ると、ラルに背中を向けて体を丸め、寝たふりをした。
つい十日ほど前に一匹の虎猫を脅したことなど、すっかり忘れてしまうくらいにどうでもいいことだった。
窓の外の猫たち ハルカ @haruka_s
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