第31話 高品質化
ゴトゴトと荷馬車が揺れる。
俺たちの『奇跡の冒険者』はミノーツの街の冒険者ギルドに所属し、今はオステンド王国の南部にある港町アメデアに向かう商隊の護衛依頼を受けて街道を下っていた。
港町アメデアまでは馬車でも三日ほどかかり、俺は初めての泊りの冒険に出ていたのだ。
そして、今、俺の視線の先には太陽の光を反射してキラキラと輝く海が見える。
「あ、あれが海ですか! 海! すごい大きいですね!」
「フィナンシェ君、アレって、み、湖じゃないわよね?」
「多分、海だと思いますよ」
「お前らなー。さっきからずっとその調子やんけ。確かに外に出たことなかったとはいえ、はしゃぎ過ぎやろ」
御者席に座ったラビィさんから呆れたような声でたしなめられた。
けど、見える景色も匂いもミノーツの街とは違ってて、その度に自分が冒険者として外の世界に飛び出したって興奮しちゃうんだよなぁ。
「あら、ラビィちゃん。いいじゃないの。若い二人には初めての経験なんだもの。ちょっとくらいキャッキャしてもいいと思うわよ」
エミリアさんもラビィさんも、歴戦の冒険者でこういった景色には見慣れているんだろうけど……。
見たことのない物を見えた時ってすごくドキドキすると思うんだけどなぁ。
「まぁ、ワイも初めて冒険の旅に出た時はフィナンシェと同じやったからな。その気持ちは分からんでもないがな。それに護衛任務とはいえ安全確保された街道旅やし」
「アメデアまではまだしばらくありますし、わたくしも常時
そ、そこまでキャッキャしてましたかね……。
海が見えたことではしゃいでたことは認めますけど……。
これって、リーダーとしてはマズいかな。
とはいえ、暇すぎてやることが――あ! あった!
そういえば、フィガロとのゴタゴタで忘れてたけど、新しく解放されたスキルを試してないや。
今なら安全で時間もあるし、ちょっと確認させてもらおう。
まずは☆道具系成功率上昇15%、☆武具系成功率上昇15%が発動するかってだけ確かめようかな。
「ラディナさん、海を見てるところ悪いけど、実は手伝って欲しくて……今、時間いい?」
「ん? フィナンシェ君の頼みだしいいわよ。何する?」
「これを解体して欲しいんだ」
「これアレックさんの作った盾でしょ。まだ傷もあんまり入ってないけど」
「前に解放された☆武具系成功率上昇15%ってスキルが発動してたら、品質を上げられるかなって思ってさ」
「ああ! そういえば魔結晶の大量摂取で解放されたスキルにそういうのがあったね。そういうことなら、すぐに解体するわ」
ラディナさんはいそいそと手袋を取って、俺が差し出した名工の鉄盾を解体してくれた。
―――――――――――
リサイクルスキル
LV:31
経験値:631/1680
対象物:☆名工の鉄盾(分解品)
>名工の鉄盾+5(普通):100%
>名工の鉄盾+5(中品質):100%
>名工の鉄盾+5(高品質):100%
>名工の鉄盾+5(最高品質):70%
>名工の鉄盾+5(伝説品質):60%
―――――――――――
やっぱ上がってるな。
パッシブスキルで☆の成功率は30%アップ、幸運の腕輪で5%アップ、最後に☆武具系成功率上昇15%アップでベース成功率からプラス50%の補正が入ってるみたいだ。
☆なら高品質まで失敗なく作れるまで成長してる。
再構成したら強化は剥がれちゃうのかな……気になるところだけどやってみないと分からないし。
強化が消えちゃったらアメデアで普通の鉄の盾を買って品質上げて強化すればいいか。
よし、せっかくだし失敗しない中で一番高い品質の高品質で再構成しよう!
>名工の鉄盾+5(高品質)に再構成に成功しました。
>名工の鉄盾+5(高品質)
防御力+80
資産価値:五六〇万ガルド
合成レシピ:精錬鋼(高品質)×鉄の盾
強化したものはそのままの品質を上げられるようだ!
防御力80とかってかなり堅い盾になってるよね……資産価値も品質が上がって上昇してるし。
あと、合成レシピが解放されているから、名工の鉄盾を作るための素材が開示されてる。
精錬鋼(高品質)と鉄の盾を廃品合成すれば、名工の鉄盾として作り出せるってことかな。
アイテムを廃品化して合成レシピを見つけることもできるけど、再構成時に必要な物を開示されるスキルは地味にありがたい気がする。
「フィナンシェ君、なんか盾の輝きが増したように思うんだけど……品質が上がった?」
「ええ、高品質まで上げました。防御力80で資産価値が五六〇万ガルドになってます。あと、廃品合成でつくるためのレシピ素材も分かりました」
「ぶふううっ!!! げふっ! げふ! フィナンシェ! それはマジかっ!!」
エミリアさんの膝の上で、飲み物を飲みながら荷馬車を運転していたラビィさんがむせていた。
どうやら俺が作り出した防具がとんでもない品物らしい。
「えっと、本当です。解放されてたスキルで再構成したらできちゃいました」
「色々と魔法付与されてないとはいえ、防具単体で防御力80とかって上級冒険者の前衛職が涎を垂らして欲しがるレベルの防具ね。多分、竜の攻撃を受けきれるかも」
え? そんなレベルの防具!?
でも、まだ☆ですし☆☆とかの防具とかで作ると、もしかして鉄壁の防具とかできちゃいますか……。
「いちおう、LVが上がって失敗なく高品質までは再構成できますけど……」
「マジか! じゃあ、みんなの装備の品質をあげてくれや。いい装備を揃えればそれだけ生き残れる確率は高くなるんやからな」
「ですよね。すぐにやります」
「わたくしの装備は高ランクの☆☆☆なんで、まだフィナンシェちゃんの力は通じないようだから、遠慮させてもらうわね」
エミリアさんの装備している杖や防具は、魔法効果がいっぱい付与されてキラキラしてるもんなぁ。
Sランク冒険者だし、きっと、とってもお高い装備なんだろう。
でも、いつかスキルを成長させて、あの装備の再構成にも挑戦してみたい。
「はい、大丈夫です。ラビィさんは短剣だけでいいですか?」
「おぅ、鉄兜も頼むわ!」
ラビィさんが投げて寄越した短剣と鉄兜を受け取ると、ラディナさんが小声で話しかけてきた。
「フィ、フィナンシェ君。ちょっと今から装備を外すからそこの布で目隠ししてもらって……いい?」
そうだった! ラディナさんとかって防具を装備してたよ!
脱がないと解体もできないよね……着たまま再構成するわけにもいかないし。
「は、はい! すぐに!」
俺は手近にあった布でラディナさんを回りから見れないように覆った。
「あ、あの。恥ずかしいから、フィナンシェ君も、目を閉じててね。あ、でも、チラッと見る?」
「あ、いや、大丈夫です。ちゃんと目を閉じてますから!」
「そう……。あの、ちょっとチラッと見ちゃったとかだったら全然大丈夫だからね」
はぁ、装備外す音がしてる……。
ここは婚約者として我慢しないといけないところだよね。
婚約したとはいえ、相手の裸を見るってのは両者合意がないと……ってチラッと見ちゃったとか大丈夫なら合意してる?
いやいやいやいやしてない、してない。してないから!
「フィナンシェ君、もう目を開けていいわ。ほら、装備外せたから、帷子と胸当て。ついでに解体しておいたわよ」
覆っていた布を身体に巻いたラディナさんが、俺に着けていた防具を廃品にして差し出していた。
はぁ、ドキドキしちゃったよ。
でも、布を巻いているとはいえ、ラディナさんを長くあんな姿にしておくわけにはいかないし、早いところ再構成しないと。
―――――――――――
リサイクルスキル
LV:31
経験値:632/1680
対象物:☆名工の胸当て+4(分解品)
>名工の胸当て+4(普通):100%
>名工の胸当て+4(中品質):100%
>名工の胸当て+4(高品質):100%
>名工の胸当て+4(最高品質):70%
>名工の胸当て+4(伝説品質):60%
―――――――――――
高品質で再構成っと。
>名工の胸当て+4(高品質)に再構成に成功しました。
>名工の胸当て+4(高品質)
防御力+60
資産価値:六〇〇万ガルド
合成レシピ:精錬鋼(高品質)×鉄の胸当て
防御力60なのは胸当てだからだろうな。
でもその下に帷子を着るし、あとは頭を守ればラディナさんが傷を負うことはなさそう。
―――――――――――
リサイクルスキル
LV:31
経験値:633/1680
対象物:☆名工の帷子+3(分解品)
>名工の帷子+3(普通):100%
>名工の帷子+3(中品質):100%
>名工の帷子+3(高品質):100%
>名工の帷子+3(最高品質):70%
>名工の帷子+3(伝説品質):60%
―――――――――――
同じく高品質の再構成っと。
>名工の帷子+3(高品質)に再構成に成功しました。
>名工の帷子+3(高品質)
防御力+65
資産価値:八〇〇万ガルド
合成レシピ:精錬鋼(高品質)×鉄の帷子
これで、ラディナさんは相当固くなるとおもう。
俺のわがままに付き合って冒険者をやってもらっているんで、彼女の安全は第一に考えないと。
「ラディナさん、これで高品質になったよ」
「すごい……綺麗に表面が光っているわね。素人が見てもすごい防具だって分かるわ……ありがとう、フィナンシェ君」
ラディナさんの唇が俺の頬に触れていた。
不意打ちは卑怯ですよ……ラディナさん。
「あ、ご、ごめん。感謝の印をって思った……だけ……ダメ……だった?」
「い、いや。ダメじゃないです……」
自分でも顔が真っ赤に火照っているのが、すぐに分かった。
もじもじされてると、こっちももじもじしちゃうんだけどなぁ……。
「おーい、車内はイチャラブ禁止やでー」
「は、はい! すみません! すぐにラビィさんのやつも再構成しますね。ラ、ラディナさん、解体お願いします」
「もうー、ラビィはケチね。フィナンシェ君、解体の前に装備を着けたいから悪いけどまた布を持っててくれる?」
「はい!」
ラディナさんは受け取った防具を着け始めたので、俺は慌てて目を閉じて布を持った。
その後、ラビィさんの名工の短剣+5を高品質にして攻撃力60まで引き上げ、名工の鉄兜+3は防御力50。
俺の名工の鎖鎧は鉄盾と同じ防御力80だった。
ふぅ、これで高品質化は終わった。
後は道具の方も確認しとかないと、回復ポーション(小瓶)とかで試すか。
「ラディナさん、今度は道具類確認するからこっちもお願いします」
「はーい。どうぞー」
すぐに解体された回復ポーション(小瓶)が差し出される。
―――――――――――
リサイクルスキル
LV:31
経験値:634/1680
対象物:☆回復ポーション小瓶(分解品)
>回復ポーション小瓶(普通):100%
>回復ポーション小瓶(中品質):100%
>回復ポーション小瓶(高品質):100%
>回復ポーション小瓶(最高品質):70%
>回復ポーション小瓶(伝説品質):60%
―――――――――――
やっぱこっちも高品質までは失敗なしか。
>回復ポーション小瓶(高品質)に再構成に成功しました。
>回復ポーション小瓶(高品質)
HP回復量:300
資産価値:三万ガルド
合成レシピ:薬草×ガラス瓶
道具類も☆ならいけるっと。
HP回復量300とかってすごいのかな。
ラビィさんに聞いてみるか。
「ラビィさん、回復ポーション小瓶(高品質)できたんですけど、回復量300とかってどうなんですかね。俺、今まで一度も回復ポーション使ったことなくて……」
「回復量300の小瓶やと……小瓶で大瓶クラスの回復量かいな……」
「品質の高いポーションは持ち運びにも便利ですわよ。その分お値段が張るんだけども」
「結構すごいものってことですか」
「そういうことね。そんな回復ポーションが、フィナンシェちゃんは薬草とガラス瓶から出てくるってことよね」
出るって……ラディナさんが解体してくれたらって前提条件がありますけどね。
それにしても、リサイクルスキルは高性能なポーションも素材さえあれば自力生成できるってことか。
「フィナンシェたちがおれば、回復ポーションは安物でもええな」
ラビィさんが言う通り、安いポーションでも再構成すれば、効果は上がるので戦いの傷も簡単に癒せるか。
「ほんと、俺のスキルってとんでもないですね……」
「フィナンシェとラディナのスキルは、国が争奪戦を繰り広げるほどのスキルやからな。ワイらがいた中央大陸のシン帝国の皇帝が知ったら、絶対にイーラ竜騎士自治区の竜騎士やアルムフォレスト深林自治区に住むダークエルフ間者とか送り込んで拉致ってくるでぇ」
ドラゴンを駆る竜騎士とかダークエルフの間者かぁ……。
酒場の吟遊詩人の歌の中でしか知らないから、一回会ってみたいとは思うけど。
拉致されるのは困るな。
「ラビィちゃんの言う通り、あんまりおおっぴらに使わない方がいいかもね。フィナンシェちゃんの力は色々と悪用できるから権力者から見たら垂涎の力だわ」
やっぱ、二人が言う通りあまりおおっぴらにしない方がいいかもしれない。
ラディナさんも巻き込まれちゃうとか困るし。
身近な人しか教えない方がよさそうだ。
Re:サイクル! ~底辺ゴミ拾い冒険者だった俺が、最強生産チートスキルを得て成り上がり生活始めました~ シンギョウ ガク @koura1979
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