第30話 初めての護衛依頼
実家に戻ると、ラクサ村の子たちに港町アメデアまでの護衛依頼を受け、ミノーツの街をしばらく空けることになったことを伝えた。
「そう、ラディナも冒険者としてフィナンシェ君と旅に出るようになるのね。まぁ、ラビィさんたちもいるし、フィナンシェ君の力があれば危なくはないだろうし、精々イチャイチャ新婚旅行をして海を見てくるがいいわ」
「もうー、アステリアったら茶化さないでよー」
アステリアさん……新婚旅行とか言われると意識しちゃうじゃないですか……。
その、いちおうラディナさんとは婚約してるし……。
「フィナンシェ君! 顔がにやけてるわよ! まだ婚約だからね!」
ティランさんはやっぱり風紀に厳しい子だ。
俺としてはお仕事をしに行くつもりなんだけどなぁ。
「……お土産、綺麗な貝殻がいい」
小声で話しかけ、俺の袖を引っ張ったのはハナちゃんだった。
ちゃっかりとお土産をねだるところを見ると、将来は大物になるかもしれない。
「分かった。絶対、忘れずに持って帰ってくるよ」
ハナちゃんにお土産のお願いをされていると、隣にルーシェさんが来た。
「冒険者としては旅に出るのは仕方ないことだもんね。でも、フィナンシェ君のおかげで、私たちも仕事先をお世話してもらえてるわ」
「そうなんですか? まったく知らなかった!」
「アステリアさんとセーナは冒険者ギルドの受付嬢見習い、ティランさんとハナちゃんが鑑定屋の売り子、そして私は鍛冶屋の売り子として雇ってもらえるよう、テリーさんたちが話し合ってくれたみたい」
「そんな話全く聞いてないかったですけど」
ラクサ村の子たちが全員、このミノーツの街で職を得ていたことに驚いた。
そんな話は今の今まで一言も聞いてなかったからだ。
「テリーさんたちもフィナンシェ君のした仕事に対して、あまりお礼を返せなかったのが心苦しいと言っててね。フィナンシェ君があまりにお礼を請求しないから、代わりに私たちに仕事の世話をして恩を返したいと思っているみたいよ」
そうだったのか……こっちとしても得しかなかったお仕事だったからお礼のことは気にしないでよかったんだけどなぁ。
でも、アステリアさんたちラクサ村の子たちにお仕事を紹介してもらえて、本当にありがたい。
「いや、ほんとそれはありがたい話です。当面の生活資金はお渡しできてるけど、ラクサ村の皆さんには定期収入を得られる仕事を紹介できてなかったですし」
「こっちこそ、みんなを代表してお礼を言うわ。ラディナさんとフィナンシェ君が居なかったら、私たちはあの場所でオークやゴブリンの慰みものにされていただろうし、もし逃げられたとしても娼婦になるしかなかったから。ほんとにありがとう」
ルーシェさんがみんなを代表する形でお礼を言ってくれていた。
本当に彼女たちを助けることができてよかったと思う。
「よぉーし! みんなへの挨拶もすんだし、そろそろ集合時間やしな。そろそろ行く――」
「フィナンシェ君! 見ちゃダメよ!」
急にラディナさんの手によって俺の視界が塞がれ暗闇が訪れた。
「こらぁっ! エミリアっ! セーナになにやっとんのや!」
「あら、ラビィちゃん。わたくしのラビィちゃん愛をセーナと分かちあっているだけよ」
「エミリアお姉様……ラビィさん、お気をつけて。あたしはここで待っていますからまた来てくださいね」
暗闇の中で聞こえる会話から察するに、エミリアさんとセーナが別れの挨拶をしていたようだ。
なんでいつもラディナさんは俺の目を塞ぐのだろうか。
「ふぅ、もういいわよ。フィナンシェ君」
「あ、あの? ラディナさんなんで俺の目を塞ぐんで――」
「フィ、フィナンシェ君には刺激が強いと思うの。刺激がね。ああいうのはもう少し大人になってからがいいと思うわ」
赤い顔をして焦っているラディナさんを見て、何が起きていたのかを察した。
ここは深く追求しない方がよさそうだ。
「じゃあ、皆さんとのあいさつも済みましたし、そろそろ集合場所に移動するとしましょう」
「そ、そうね。早くいかないと遅刻しちゃうし」
俺たちが荷馬車に乗り込み、集合場所の広場に向かい出発すると、ラクサ村の子たちが手を振って送り出してくれた。
「行ってらっしゃい!」
「……お土産」
「ラディナ、旅の途中でフィナンシェ君を押し倒したらダメよー」
「ラディナさん! エッチはダメですからね!」
「ラビィさんー! エミリアお姉さまぁー! ずっと待ってますからぁー!」
俺は彼女たちが見えなくなるまで、その声に手を振ってずっと応じていた。
さぁ、これからが冒険者としての初めての外へ旅に出る依頼の始まりだ。
広場に着いたけど、色々な方面に行く定期馬車や定期輸送隊の集合場所になっているからたくさん人がいるなぁ。
「混んでるみたいですし、ラビィさんたちはここで待っててください。俺が護衛相手を見つけてきます」
「おう、すまんな。さすがのワイもこんなに混んでると事故を起こしそうや。ここで待っとるさかい、依頼主を探して来てくれ」
「フィナンシェ君、あたしも一緒に探すわ」
「じゃ、じゃあ、はぐれないように手を繋ぎましょう」
「う、うん」
「ラビィさん、行ってきます!」
「イチャラブはまだお預けやでー」
「あらー、ラビィちゃんはわたくしとイチャラブタイムですわ」
俺とラディナさんが荷馬車から飛び降りると、ラビィさんの絶叫が聞こえてきた。
相変わらずエミリアさんの愛情表現は激しいらしい。
さて、ラビィさんたちは待っててくれるから、俺たちの護衛するアメデア行きの定期輸送隊を探さないと。
目印は、天秤の旗印が掲げられているか。
俺は人が行き交う広場の中に並んだ荷馬車から天秤の旗印を掲げた物を探す。
……あった! アレだ!
見ると、膨大な量の木材を荷馬車に積んだ輸送隊だった。
「おう、あんたらが今回の護衛してくれる冒険者たちか4人だって聞いてたが……」
近づいていくと、護衛の依頼主と思われる小太りの男性が俺たちに声をかけてきた。
「荷馬車を持ち込みですので、二人の仲間には広場の入り口で待っててもらってます。ちょっと混んでますしね。あと、コレはフランさんからの受注書です。確認を」
「へぇー、兄ちゃん若そうなのに持ち込みの荷馬車持ちかー。若いのに稼いでるようだな。おっと、いかん話が逸れる前に受注書確認させてもらうとしよう」
冒険者ギルドで発行してもらった刻印入りの依頼受注書を男性に手渡す。
たまに偽造した依頼受注書を使う野盗とかもいるって、ラビィさんが言ってたし。
だから、依頼主さんも真剣に刻印を透かし合わせているようだ。
「間違いなくフランとこから派遣された冒険者だな。私はヨームだ。燃料用にされる木材をアメデアにまで運ぶ定期輸送で、街道を使うから野盗も襲ってこないだろうが、いちおう護衛として周辺警戒を頼む。飯はうちの連中と一緒に食えばいいさ。よろしく頼むな。えーっと名前は……」
「フィナンシェです! こちらこそ、ベテラン冒険者二人こそいますが、俺自身が初めてでご迷惑をおかけするかも知れませんがよろしくお願いします」
「あたしはラディナ。あと、兎人族のラビィってのと、エミリアさんって魔術師が仲間なんでよろしく」
「魔術師がいるのか。そりゃあ、ありがたい。困ったら色々と頼むかもしれないからよろしく頼むぞ! じゃあ、時間も迫っているしさっそく出発するとしよう!」
握手を交わしているヨームさんのゴツイ手が勢いよく上下に振られた。
初めての護衛依頼の依頼主さんはいい人っぽそうでよかった。
「はい、じゃあ広場の外で待つ仲間と街道で待機してます!」
「おぅ、すぐに行くからな!」
その後、俺たちは街道でヨームさんの定期輸送隊に合流し、初めての護衛依頼を始めることとなった。
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