第29話 初依頼受注

 フィガロとの決闘を終えた翌日。


 俺がリーダーとなった冒険者パーティー『奇跡の冒険者』の初依頼を受注しに冒険者ギルドに来ていた。


 みんな……俺が視線を向けるとそっぽ向くのはなんでだろう……。


 別に何も悪いことはしてないよな……。


「おう、こりゃあ昨日の決闘の話が冒険者たちに広がったようやな。フィナンシェは一人で十数人の冒険者と斬り結んで全員を叩き伏せた強者だって知れ渡ってしもうたようやな」


 え……えっと……そういうことです?


 確かにあの決闘は見てた人多かったですけど。


 勝てたのはラディナさんと作った装備のおかげですし。


 チラリと周囲を見渡すと、冒険者たちがザザザと一斉に移動し、視線を逸らしていた。


「さすがフィナンシェ君だけのことはあるわ。さぁ、早く冒険者としてのお仕事受けよう。ちょうど窓口も席が空いたみたいだし」


「えっと、なんで皆さん一斉に窓口から休憩室に移動したんですかね……普通この時間だと混んでて待ち時間が発生すると思うんですけど……」


「そりゃあ、この街のトップパーティーだった金髪馬鹿の子を、フィナンシェちゃんが一人でシメちゃったからでしょ」


「そうやな。冒険者は計算高く生きとるやつらが多いからお前と争うのは得策じゃないって思うとんのや」


「ハハハ、そう言うことだな。フィナンシェ君の噂はこの街の冒険者に一斉に広がったから、前みたいに馬鹿にする奴はもう出ないと思うぞ。さすがに十数人を一人で叩きのめすとは思わなかったが。あんまりフィガロの度が過ぎるようなら止めに入ろうと思っていたんだが、必要なかったしな。本当にすまないことをした」


 窓口の奥からフランさんが出てきて笑っていた。


 ギルドマスターの立場上、フィガロとの決闘に関与できなかったことを謝罪している。


「いえ、冒険者同士の喧嘩には不介入ってのが、冒険者ギルドの方針ですし。フランさんが謝ることでもないですから」


「そう言ってもらえるとありがたい。さぁ、今日は受注を受けに来てくれたのだろう? どうする? 竜狩りとかにするか?」


 ニコニコ顔になったフランさんが、俺たちに窓口の椅子を進めると、ドサリと大量の依頼書をカウンターに置いた。


 今の俺に竜狩りとか絶対に無理ですから……!


 普通の依頼にしてほしい。普通の。


「Fランク冒険者にえらい無茶な依頼を提供しよるなぁ。ワイらがおるとはいえ、新人二人もおるんやで。竜は無理やろ。フィナンシェがどうしても竜が狩りたいというなら受注もやぶさかやないが」


「ラビィさん、俺、竜狩りはまだ早いって思うんですよ。外に出た経験もないし! 普通の仕事にしましょう。普通の」


「竜狩りはあとのお楽しみってことか……まぁ、無理強いするのもアレだし、じゃあ駆け出しの冒険者が受けるやつから選んでもらうとするか」


 竜狩りを勧めるの諦めたフランさんが、どっさりと積まれた依頼書の山から、簡単そうな依頼書を並べていく。


 ぼっちだった時は、救済依頼しか受けられないため、窓口で『いつもの』と言うだけだった。


 それに比べて、パーティーを結成した今、選択できる依頼が十数倍に増えている。


 討伐系、護衛系、納品系もあるなぁ。


 冒険者になったばかりのラディナさんもいるし、どれにしようか……。


 依頼書に書かれた内容を真剣に読んでいく。


 読み書きに関しては、両親が実家で休養するたびに嫌というほど厳しく教えられたため不自由していない。


 ただ、フィガロの借用書の件といい、世間のことに対して俺は全くもって無知だよな。


 これからはリーダーだし、しっかりと勉強しないと。


 俺は依頼書の中から自分の実力で受けられそうな仕事を見繕ってみんなの前に置く。


「これと、これと、これくらいならいけると思います?」


「オーク討伐と、アメデアへの定期輸送隊の護衛と、火吹き草の納品かぁ。まぁ、そんな感じなら駆け出しでも問題ないやろな」


「ラビィさん、一つ聞きたんですけど、このアメデアって街は港町なんですよね? もしかして海とかあります?」


 今まで、ほとんどミノーツの街の外に出たことないからなぁ。


 父さんや母さんから聞かされた海って場所を一度でいいから見てみたい。


 討伐のは北の山間部だし、納品はミノーツの街の郊外だし……冒険者になったからには遠出したいよな。


「アメデアなら、わたくしが中央大陸から渡ってきた港町ですわね。外国船の寄る大きな港町ですし、海はありますわよ」


 エミリアさんが俺の質問の答えをくれた。


 あるんだ……めちゃくちゃ見てみたいけど、海が見たいから護衛依頼を受けていいですかって聞いたら笑われるかも。


 でも、やっぱ一度は見てみたい。


 この際、俺は自分の好奇心を満たすことを優先させてもらうおう。


「あ、あの! 俺、海って見たことないから……だから、昔から海って見てみたくて……アメデアの護衛依頼を受けたいんですけど……ダメですかね?」


「だ、だよねー! あたしも、山育ちだから海って見たことないんで、フィナンシェ君と一緒に見たいなって思ってた! 海、海だよ! 海」


 ラディナさんも海を見たことが無いそうで、嬉しそうに俺の手を握るとアメデアの護衛依頼の内容が書かれた依頼書の内容を見ていた。


「フィナンシェ。別にワイらに遠慮せんでええで。リーダーはお前やからな」


「海でラビィちゃんとバカンスも悪くないわね」


「エミリアとバカンスするくらいなら、新しい女でも探すっちゅーねん。お前、セーナも手籠めにしたやろ! あいつは真面目なやつやぞ」


「あらー、ラビィちゃんを愛する同志には同じ愛を注がないとね」


 エミリアさんが膝の上に抱いていたラビィさんをギュッと抱いていた。


 なんだかんだ嫌がっているふりをしているラビィさんだが、実はそうエミリアさんを嫌っているわけでもないのかも。


 それにしてもセーナが手籠めってどういう意味だろうか……。


「フィナンシェ君は二人の話を聞いちゃダメよ」


 俺の耳は顔を真っ赤にしたラディナさんによって塞がれてしまった。


 しばらくエミリアさんとラビィさんが何か言い合っていたが、ラビィさんがエミリアさんの胸によって制圧されていた。


「ふぅ、もういいわよ。もう、二人とも場所をわきまえてください」


 ラディナさんが覆っていた手を外したことで、声が聞こえるようになった。


「ぐむうううっ!!」


「ごめんなさいね。ラビィちゃんとはきちんと『お話』しておくわ」


「フハハ、面白いパーティーになりそうだ。では、フィナンシェ君。正式に発足した『奇跡の冒険者』の初依頼は港町アメデアへ向かう商隊の護衛ということでいいかな?」


 事の成り行きを聞いていたらしいフランさんは笑いを噛みしめているようだが、あいにくと俺には何があったのか分からない。


 ちょっとだけ仲間外れにされた気がするけど、ラディナさんが俺に聞かせたくないならしょうがないよな。


 気を取り直して、フランさんに差し出した依頼書の内容を再確認しておいた。


 行程はアメデアまで馬車で三日。


 出発は今日の昼。


 依頼内容は定期輸送隊の護衛任務。


 危険度は低いし、街道を通るの難易度も低いっと。


 報酬は拘束期間三日で一人五〇〇〇ガルド、食事は定期輸送隊から提供あり、自分の馬車も持ち込みも可能。


 報酬は安いけど低ランク冒険者だとやっぱこれくらいだよな。


 まぁ、お金に関してはリサイクルスキルを駆使して色々と作り出せばいいし、ラビィさんたちも賛成してくれているからこれにしよう。


「アメデアまでの定期輸送隊の護衛依頼、俺たちが受けますのでお願いします!」


「承った。では、無事に成功することを祈る。これを持って、昼までに街の広場へ集合してくれ」


 フランさんからギルドの刻印が入った紙を手渡される。


 これを相手に見せないと、相手から俺たちが護衛者だと信頼してもらえないんだよな。


 なくさないようにしっかりと、鎧の奥にしまい込んでおかないと。


「じゃあ、一度、フィナンシェ君の実家に行って、みんなとお別れの挨拶しとかないと」


「でも、向こうでまた仕事受けて戻ってくる可能性もありますよ」


「それはあるかもだけど、ミノーツの街を拠点にするとはいえ、街を空けることには代わり無いと思うの」


 そうか……何日も街を空けることになるんだよな。


 冒険者として旅をする以上、必ず安全だって保障もないし、いちおう挨拶はしておいた方がいいかも。


「それに荷馬車も自分たちの寝床として持ち込んだ方が楽ですからね。どのみち一度準備のために戻る必要はありますわ」


「荷馬車があるのとないのじゃ、疲労度がちゃうからなぁ。持ち込んで行った方が楽やぞ」


「そ、そうなんですね。じゃあ、準備のために一度戻りますか」


「じゃあ、気を付けて行って来いよ。向こうのギルドマスターにも便宜を図るように伝えておくからな」


「はい、ありがとうございます! じゃあ、行ってきます!」


 フランさんに送り出された俺たちは、一度旅の準備をするため、実家に戻ることにした。

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