閑話 神たちの思惑
※三人称視点
フィナンシェがフィガロとの決闘に勝利したころ、遠く次元の離れた
真っ白な壁紙に統一された部屋の中央には巨大なスクリーンが映し出され、その中にはフィナンシェとラディナが映っている。
「創造と破壊の力がようやく出会ったようね。これで、あの壊れた世界も再び運命のサイクルを紡ぎ始めるわね」
部屋の中央に映し出された二人の姿を見ていた若いが威厳のある女性が、ニヤリと笑みを浮かべていた。
彼女は数多の異世界を束ねる女神たちの統治機関
「サザクライン様、あのフィナンシェという青年とラディナという女性に例の暴走問題を引き起こしたスキルを与えてしまっていますけど、いいのですか? 前回は暴走した二つの力によって、その世界を担当していた女神が一人、存在ごとかき消され世界は壊れてしまいましたが……」
隣に座る腹心の女神であるバーリガルが、サザクラインに声を掛けてきた。
「今回は暴走しないよう、二人に与えたスキルには、わたしが何重にも制約をかけさせているわ。フィナンシェとラディナの二人は、あの世界において今後色々と巻き起こる災難を乗り越えることになる。世界をあるべき姿にしていく神の代行者としてね。もちろん、二人にその気がなくても、二つのスキルが出会った以上、世界は再び運命のサイクルを刻み始めているわ……」
「私は今でもあの二人にスキルを与え、出合わせるレールを引いたことには反対です。まだ、時期尚早かと」
バーリガルが口角と目を吊り上げている。
「だって、あのまま壊れた世界を放置すれば、いずれ消えてしまうし、
サザクラインがバーリガルに聞き取れないほどの小声で喋った。
「似た系列の世界を管理する私から意見を言わせてもらえば、二人の力は強力すぎますね。下手すれば世界を壊しかねない。世界を作り直す力は強いかもしれませんが……同時に世界を壊す力も持っていますしね」
いくつかの異世界を管理するイクリプスも険しいスクリーンを見ている。
「ほぼ、万能と言っていいリサイクルスキル。それを解放するための鍵である解体スキル。二つで一つのスキルは、世界を再生できるスキルではあるけど……いくらなんでも強力すぎる。わたくしの作った神器で昇神してくる神様候補を待った方がまだ安全性が高いのではありませんか?」
同じようにスクリーンを見つめていたのは、人から神を作り出す力を与える神器の制作者にして、異世界管理女神のアクセルリオンであった。
彼女もまたバーリガルと同じようにフィナンシェとラディナの力を危険視しているようだった。
「とは言ってもねぇ。もう、動き出しているし、出会ってしまっているからね。こちらとしては手の出しようもないわよ。それに今回の担当女神は前回と違ってタフなドワイリスだから、きっと大丈夫よ」
主神であるサザクラインの言葉に出席者からざわめきの声が上がった。
「ドワイリスですか……こんな重大な世界の管理をあの脳筋女神に……正気ですか!」
バーリガルの顔色が紅潮し、口から泡のツバが飛んだ。
「だって、やりたいって手を挙げたし。ほら、あそこの世界は事故案件で担当不在だったでしょ。正直誰も手を挙げてくれなかったじゃないの」
「脳筋とはずいぶんな言われようだな……とりあえず、わたしはちゃんと話し合いもするぞ。戦いは趣味であるし」
紛糾する真っ白な部屋に、武骨な甲冑を着けた筋肉質な金髪碧眼の女性が入ってきた。
彼女こそ、この紛糾の元となっている闘争と狂気の女神ドワイリスその人であった。
「わたしに任せておけば、あの二人は万事上手くことを運んでくれるはず。そのためには色々と試練を用意せねば――」
「どあほぅっ!!」
イクリプスの放った火球がドワイリスの体に当たった。
「前回の担当者の失敗した報告書を読んでないの! 試練と称し、ドンドンと難易度を上げて行ったらスキルを持つ二人に殺意を抱かれ世界事滅ぼされたって書いてあったでしょうがっ!! これだから脳筋は!」
「そんなこと書いてあったか? ……分かった。じゃあ私自らが二人に手合わせ――」
「「「そういう意味じゃないって!!」」」
その場にいたサザクライン以外の三人の女神の声がハモッた。
「まぁ、
「ですが! あまりにも不安がありすぎます! 人選の再考を!」
バーリガルが事態を楽観視しすぎているサザクラインに再考を促していく。
だが、サザクラインは首を振った。
「決断は変えない。すでに賽は投げられているわ。動き出したことはもう神である私たちですら止められない。ドワイリス、フィナンシェとラディナの件はそっと見守るように。ただ、二人に変化の兆候が見えれば即座に私たちに連絡を入れるようにしなさい」
「承知した」
「これ以降、この話については決定の変更は一切認めません。異論ある者は職を辞するように」
ドワイリスがサザクラインに対し、膝を突いて頭を下げた。
すると、バーリガルもイクリプスもアクセルリオンもそれ以上の抗弁をやめ、同じように席を立ってサザクラインに頭を下げた。
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