第30話 王都編⑥〜禁忌の魔法と取り調べ〜

 ──スタットと王都の中間のある休憩場にて。


 「──ガラン様、兵士の半分も先に送っても良かったのですか? 数千の兵士で下見というのはどうかと……」


 先日ヒラガ達に氷漬けにされた魔王軍幹部ガランは休憩場を数で攻め込み圧倒し、占拠していた。


 「いいんだよ、どうせ王都は精鋭が揃っているんだから、こんくらい送っとかないと一人も帰ってこないかもだろ?」

 「確かにそうかもしれませんが……魔王軍幹部としてガラン様も一緒に行ったほうが良かったのでは?」


 「嫌だよそんなの、怖いじゃん」


 「なっ、ガラン様は本当にとんでもない方ですね……」

 


 ──王都にて。


 「これより魔王軍撃退作戦を開始する!」


 大量の魔王軍が接近中の王都の門では凄腕の冒険者が集められていた。

 その中にはこの国の王女様までもが来ていた。


 「この王都の命運は皆さんに握られています。報酬については撃退した魔物の数によって決められます。では検討を祈ります!」


 ギルドの受付のお姉さんの説明が終わると、集められていた冒険者達は門の外へと歩きだす。

 集められていた冒険者は魔王軍が攻め込んできているというのに、余裕な表情をして話しながら門を出る。


 「おいおい、見ろよあれ、イチカ王女様だ」

 「イチカ王女様、今日も美しいな……」


 「それに比べてリッカお嬢様ときたら、禁忌の炎魔法を使い、冴えないパーティで冒険者をやっていたって噂だぞ」

 「知ってる知ってる、そのパーティのメンバー、実はここ最近貴族の家に盗みを働いている輩だったらしいじゃないか」

 「あぁ、見る目がないよなリッカお嬢様は……」


 本人はその後ろにいることを知っていながらも冒険者達はリッカをからかうように笑う。

 リッカはそれを歯を食いしばりながら聞いている。


 「辞めてくださいな!」

 「えっ? イチカ王女、いつの間に……」

 「先程からここにいましたけれど……」

 「……え? でもさっきはあそこに……あれ……?」


 先程まで少し前を歩いていたイチカ王女はいつの間にかその冒険者の後ろにいるリッカのすぐ横にいた。


 「「──すみませんでした!」」


 咄嗟に頭を下げて冒険者達は走って門から出ていった。


 「落ち込まないでいいのよ、あなたは私の自慢の妹なのですから」


 「うん……」

 


 ──リッカ達が門を出た頃、魔王軍の魔物達はもうすぐそこまで来ていた。


 魔物の大群はリッカから見えている数でも千を超えていた。


 「リッカは安全に見ていてね、私が直ぐに終わらせますから」


 そう言うとイチカ王女はニコリと笑い、両手を上げて詠唱を始める。


 「『マジック、クリエイティブアイシクル』ッッ!」


 ──イチカ王女の放った魔法により、巨大な氷柱が作られ、それは直ぐに大量の魔物達の方に飛んでいく。


 「──ガラン様、こんなの聞いてませんよ! 敵は少数のゴミ部隊とか言っていたでは、ぶへ──」


 そして巨大な氷柱は魔物の半数を壊滅させた。


 そして聞こえてくるのはイチカ王女への歓声。


 「やっぱりすげぇなイチカ王女は」

 「さすがは第一王女」


 だがそれはリッカとっては……。


 「うるさい、うるさいうるさい!」


 「ちょっ、ちょっとどうしたのリッカ?」

 「第一王女第一王女って! あぁもう! あったまきたんだから! 見返してやるわ、見てなさい!」


 「ちょっと待って、リッカ、まさかその魔法って!」


 「『マジック、ブレイジングボール』ッッ!」


 リッカが放った禁忌の魔法は大量の魔物の中心に巨大な炎の球を形成し、そのまま広がり何もかもを消し飛ばしていった。


 残ったのは巨大なクレーターが一つ。


 他の冒険者達には被害は出なかったのが何よりの幸運だった。


 「おい、危ないじゃないか!」

 「禁忌の魔法なんて使うなよ、第二王女だからってただじゃおかないぞ!」


 だがリッカはそんな声も気にせずに、


 「これが私の習得した最強の炎魔法よ!」


 とドヤ顔で言い放った。



 ──一方ヒラガ、サエ、アンリィが盗人疑惑のため刑務所に連れてこられていた。


 ここで待っていろと言われたので、オレ達は小さな部屋で待機している。


 オレ達が無実となれば、盗人を匿っていたと言われ、捕まったメイド喫茶の店長も無実となる。

 そして、今後のオレ達のためにも無実を掴み取らなければならない。


 ──ドアが開けられ一人のお姉さんと二人の男が入ってくる。


 「──お待たせしました、三人同時で構いませんのでそのまま話を聞かせてください」


 お姉さんがそう言うと席に座り、話を聞く姿勢をとった。

 男二人はオレ達の隣で立ち尽くす。


 「今回はこの機械を使わせてもらいます」


 そう言ってお姉さんは謎の機械を片手で持っていた袋から取り出した。


 「ヒラガ、あれはなんだ? もしかして拷問の道具だったりするのか? だとしたらまずは私が付けてその新感覚をあじ、試してみようか?」

 

 アホなことを言い出したアンリィは放置して。


 「これは嘘をつくと電気が流れるという代物です、あなた達が嘘をついたらすぐにでもわかるので、嘘はつかないようにしてください」


 そう言ってお姉さんは怖い笑顔を見せると、オレ達の手に謎の機械を巻き付ける。


 「これでもう嘘は付けませんよ。それではまず、あなた達の出身地を教えてください」


 「出身地? なんで?」


 そう聞いた瞬間、お姉さんは急に机を叩き、怖い顔でこちらを見る。


 「聞こえなかったんですね、ではもう一度聞きますね、出身地を教えてください」


 えぇ、何この人絶対やばい。


 それに日本です、なんて素直に答えてもいいのだろうか。


 そうこう考えているうちに隣のアンリィが出身地を話し始める。


 「……私は以前エルフの森という場所に住んでおりました」


 「エルフの森ですか、私は行ったことはないんですが、どんな所なんですか?」


 このお姉さんはただのおしゃべりなのだろうか。


 「そ、そうですね、森のみんなは毎日仲良く暮らしており、痛たたたた! …………ええっとですね時々訪ねてくる人をもてなすことが大好きな、痛たたたた!」


 アンリィはなんの前触れもなく痛いと途中叫び出す。


 これってやっぱり嘘発見器が反応してるんじゃ……てことは今のいい話は嘘ってことか?


 「本当のことを教えてくださいね」


 「うぅ、森の皆は毎日近所に住んでいる者の食べ物を奪い合い、日々生きながらえ、森に入ってきた人が持っている食べ物は何もかもを奪い尽くしと日々悲惨な毎日が……」


 アンリィは痛いと叫び出さないのでこれは嘘ではない……。


 ……てことはこの世界のエルフってそんなのしかいないの?


 アンリィの話を聞いてお姉さんはしっかりとメモをとる。


 「どうしていい人間関係が築けていると嘘を?」

 「私の親の教えです。そうすれば森に人が入ってくるからと……また食料が手に入るからと……」


 いや、この世界のエルフ怖すぎるだろ。


 言いづらそうにしながらエルフの森の闇を語り、それを聞いたお姉さんはしっかりとメモをとる。


 

 「……というか、どうして出身地を? そんなの今は関係ないはずでは……」


 「私は教えてくださいとは言いましたが、べつに答えなくても結構でしたよ」

 「いや、でもあの空気で二度も……」

 「答えなくても結構でしたよ」


 何この人やっぱりやばい、なにがやばいかって言うと腹黒さが非常にやばい。


 ──そしてお姉さんは気を取り直したように咳き込む。


 「──では本題に入りますね」


 「待ってくれ、もっと私に電気を、電気を流してくれ! し、新感覚だったんだ!」


 おい、こいつは突然何を言い出すんだ。


 「頼むから、私にもっと電気を!」


 変な性癖をここで発揮したアンリィにお姉さんがちょっと引いている気がする。


 「アンリィさんはもういいです帰ってください話になりませんから」

 「そんな! おい、やめろ、おい、その手を話せー!」


 隣にいた男達がアンリィの両腕を掴み、部屋からつまみ出した。



 ──そして、お姉さんはもう一度咳払いをして。


 「それでは本題に入ります。あなた達は盗みをしたことがありますか?」


 最初からそう言ってくれれば良かったのに……。

 当然オレはそんなことをした覚えはない、はず……。


 「ないです」

 「ないです……痛たたたた!」


 「どうしたんですかヒラガさん? もしかして盗みの経験がおありで?」


 「ないです、痛たたたた!」


 なんでだ、オレそんな経験ないぞ!


 オレが痛がる様子を見て、すぐさまお姉さんはメモをとる。


 「わかりました、これでもう終わりにします。では……」


 そう言ってお姉さんは席を立つ。


 「ち、違うんですよこれは! 何かの間違いですよ! 痛い痛い痛たたたた!」


 オレこの機械嫌いだ……。

 理不尽にも程がある。


 お姉さんはニコリと笑ってガチャンと扉を閉めた。

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異世界でも救いは妹だけなんだよ! 〜無能で変な仲間達と共にオレは魔王を……〜 まい猫/白石 月 @mainekosiro

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