何でも解決するマンの苦悩

南雲 皋

第1話 何でも解決するマン

 僕は”何でも解決するマン”!


 お腹が空いて死にそうなクラスメイトを助けてに購買からパンを買ってきてあげたり。

 喉が渇いて死にそうなクラスメイトを助けてにジュースを買ってきてあげたり。

 課題を忘れて死にそうなクラスメイトを助けてに課題を写させてあげたり。



「それってパシ」


「やめろ!」



 目の前には僕以外が見たらきっと全員が全員彼女に惚れるんじゃないかと思うくらいの笑顔。

 一度も染めたことがないのだろう艶やかな黒い髪を後頭部の高い位置で束ね(いわゆるポニーテールってやつ?)、きっかり校則に定められた長さのスカートから覗く細すぎない脚。


 いい感じに浸っていた僕の横っ面をぶん殴るように現実に戻してくれやがったのは、同じクラスの空園そらぞの 美鶴みつる

 入学当初から何故か僕にばかり構ってくる謎の美少女だ。

 いや、謎ではないか。

 彼女は日本でも有数の資産額を誇る空園財閥のお嬢様なのだから。

 ってゆーか僕のモノローグに入ってくるなよ。

 口に出てたかな。


 彼女との出会いは、入学式の次の日にまで遡る。

 あの日こそ、”何でも解決するマン”である僕の、苦悩の、始まりであった。


 


 僕の通う帝国学園は、日本一入学試験が難しいとされる超難関校だ。

 小・中学校時代の嫌な思い出から解放されるため、僕はこの高校への進学を決めた。

 狙い通り、同じ学校に通っていた人間は誰一人として入学していなかったのだが、僕の持ち前の体質のせいなのだろうか?

 入学早々、「おめー、いっちょパン買ってこいや」である。


 マジかよ。


 いや、僕はこんなところで終わる訳にはいかないのだ。

 ここはズバっと言ってやらねばなるまい。



「いいとも! なんたって僕は”何でも解決するマン”だからねっ!」



 うん。


 言いたいことは解る。断らんのかい!っていう。

 だが、僕にはそんな度胸はないのだ。そんな度胸があるのならわざわざこんな高校に入らなくても良かったのだから。


 断れないのなら、どうすべきか。

 概念を変えてやればいいのだ。


 僕が”何でも解決するマン”を名乗ることにより、相手から申し渡された『パンを買ってくる』という行為は僕への依頼に昇華されるのだ。


 “何でも解決するマン“を名乗るからには何でも解決出来なければいけないのは分かっている。

 けれど、僕には何でも解決出来る力がある。昔、誰にも言えない事件を解決したことだってある。


 “何でも解決するマン“を名乗り、何でも解決している限り、僕はパシられっこじゃあない、立派な”何でも解決するマン”として存在出来るのである。


 どうだこの完璧な理論!



「いいから早く買ってこいよ。ジャムパンな」


「はい」





 僕がジャムパンを渡し終え中庭で一人、弁当をつついていると、隣に何者かが座ってきた。

 くだんの空園女史である。


 四季咲きのバラが咲き誇る帝国学園自慢の中庭は広く、目に付くだけでも数十個のベンチがあったし、誰も座っていないベンチも多数あった。


 それなのに何故ここに?


 入学式で新入生代表としてスピーチをしていたし、同じクラスである空園女史のことはもちろん知っていた。

 財閥のお嬢様だという知識も持ち合わせていたために、より一層首を傾げる僕に、彼女は満面の笑みを見せた。



「貴方、”何でも解決するマン”だと仰っていましたよね?」


「え? あ、はい」


「なら、私の悩みも解決してくれますか?」


「あ、も、勿論!」



 なんだ。依頼だったのか。

 財閥のお嬢様でも僕みたいなのをパシ、いや、僕みたいなのにお願いしたいことがあるんだな。

 僕は彼女の言葉を待った。



「私の悩みを解決する。これが私からのお願いよ」


「は?」


「何か?」


「いや、悩みの内容は……?」


「私の悩みが何であるか、貴方なら分かる筈。ですので私からは悩みの内容は申し上げません」


「はあ?」



 さも当然のように言い放った彼女に、僕は目を白黒させることしか出来なかった。

 

 どういうこと???


 理解しがたい依頼を口にしたまま笑顔を崩さず、じっと僕を見つめる彼女に、僕がNOと言える訳もなく。

 それから毎日のように、彼女は僕と行動を共にするようになるのであった。



つづく>>

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