第14話 完結

血が抜けていくと、これほど寒くなるのかと秀太は驚いた。これほど寒いなら、この老婆はどれだけ寒かっただろうか。

こんな冷たい部屋でいたぶられ、そして逃げることも叶わず。どうやら本当に人間ではないらしい。


秀太は手を伸ばした。左足に刺さった杭を二本だけ引き抜いた。

これで老婆は逃げられるのだろうか。秀太は目を閉じた。


老婆は左足から杭が抜けたことに気がついた。すこしだけ足が動く。

自分の周囲に三人の人間が居るのを感じ取っていた。今は、不器用に歩く人物と堂々と歩く人物とがいる。そしてこの堂々とした歩み方は、自分の眼球をアイスピックで突き刺して視界を奪い監禁し続けた女のものだった。


だから、老婆は、前進する女の足を蹴った。


「何やってんだ糞ババア」

サキは老婆の胸ぐらを掴んで持ち上げた。老婆はその顔に唾を吐いた。

安川氏は血まみれの秀太を担ぎ、投げてガラスを割った。彼は柵をこえて、安川家の庭に落ちた。その拍子に彼は目を覚ました。血相を変えて安川氏が飛び出してきた。

すると、どういうわけかサキは老婆を痛め付けていた。そして、安川氏はそのまま自宅に逃げ込み、ずっと持っていた秀太のスマホで通報した。


サキがひどく殴り続け、ついに老婆の抵抗が無くなった。するとその瞬間、あの冷たい部屋を中心にして、矢柄家が崩れ落ちたのだ。昨夜の老婆の顔のように家は原型をとどめず砂塵とかしていった。


「えっ、と、来てほしい家が潰れちゃいました」


安川氏は信じられないものを見て、そのまま警察に伝えた。

壊滅した矢柄宅からは矢柄夫妻と身元不明の女性の三名の遺体が発見された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冷たい部屋に招かれて 古新野 ま~ち @obakabanashi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ