第166話「タダシ王国の武道館」
新しい武道館を作るため、茂りすぎた世界樹の枝を伐ろうという話となった。
巨大な世界樹の根本で、道士姿の神帝竜シュウドウは、目を輝かせて言う。
「では、タダシよ! あの伸びすぎている大ぶりの枝を断ち切れるか。皆で勝負だ!」
相手は世界樹である。
大ぶりの枝といっても、通常の大きな木の幹よりも太さがある。
やけに積極的に協力すると言い始めたのでなにかと思えば、結局勝負がやりたかったのだなとタダシは笑う。
まあ、どうせ材料は必要になるところだ。
何故か、肩に赤子のタサラを乗せている紅帝竜キトラが最初に飛んでいった。
「では、私からいくぞ!
錐揉み回転をしながら、バシュ! バシュ! と音を立てて無数の世界樹の枝を叩き切っていく。
それを見て、神帝竜シュウドウは笑う。
「ほう、小枝は切れたが……」
バシュッ! と、音を立てて大きな枝にも一撃が当たったが、切断するには至らなかった。
「こりゃ硬いなあ」
斬れていなかったというのに、嬉しそうな紅帝竜キトラ。
その肩から、タサラがするりと降りてきてタダシに枝を持ってきた。
「トト様! 一本切れた!」
「おお、凄い。タサラ、将来有望だな!」
我が子の活躍に、タダシは大喜びして枝を得意げに持っているタサラを抱っこしてやった。
「キトラも、赤ん坊もやるじゃねえか! じゃあ次は俺が行くぜ!」
金帝竜エンタムは地上に立ったまま、黄金色の音波を飛ばして枝を切断していく。
それだけではなく、地上に被害が及ばぬように切った枝を引き寄せてまとめる技巧まで見せる。
相変わらず、見た目にパンクロッカーの派手な見た目に反して繊細な技を使う男である。
「俺の魂の一撃を喰らえ!
バサバサと切った小枝が落ちる中、エンタムはキトラが断ち切れなかった大ぶりの枝に挑んだが、やはり衝撃を受けても大ぶりの枝は落ちることがなかった。
「くそぉ、あれは硬えな」
二人の攻撃が終わって、そこに満を持して神帝竜シュウドウ構えに出る。
「では、私の出番か」
静かに拳をシュウドウの身体が、白銀に光り輝く。
その攻撃は、シンプルな正拳突き。
「世界樹の太き枝よ、悪いが断ち切らせてもらう――神竜一閃拳!」
天上へと突き放った一撃は、パァン! と大きな音を立て。
見事にキトラとエンタムが断ち切れなかった枝を粉砕した!。
それだけではない。
「他の枝も落ちるぞ!」
「おお、すげえ!」
一撃の余波で、他の枝までバサバサと落ちていく。
舞い散る世界樹の葉の中で、神帝竜シュウドウは満面の笑みでタダシに向かう。
「いかがかな、我が神竜一閃拳。以前よりも、さらに修行を重ねて威力を増したのだ」
神をも断ち切らんとする一撃ならば、世界樹とて切れねばおかしい。
「では、タダシの技を見せてもらおう」
そう神帝竜シュウドウはうながす。
「いや、技というか。そういう派手なのは俺にはないんだけど」
タダシは、世界樹の大きな幹に手を当てて。
申し訳ないんだけどあんまりにも枝が茂りすぎてみんなが迷惑しているみたいだから、もうちょっとだけ落としてもらえるかとお願いする。
すると、バサバサバサバサと大ぶりの枝がたくさん落ちてくる。
「おっと」
タダシは、大きな枝が地上の物にぶつからないように、慌てて枝を受け止めてまとめていく。
金帝竜エンタムがそれをみてぼやく。
「なんかずりぃぜ」
帝竜達は、力比べをしたかったのに、こんな感じで解決されてしまっては拍子抜けだ。
しかし、神帝竜シュウドウは真面目な表情で言う。
「いや、エンタム。自然を味方にするのもまた、武なり。私達も、力任せでやっているようではまだまだだということだ」
戻ってきたタダシは、金帝竜エンタムに言う。
「見せてもらった技の中では、エンタムが一番凄かったよ」
「ほんとか、俺の技のどこが凄かった?」
タダシは、エンタムが断ち切った枝を持ってきて言う。
「ほら、枝の
タダシに褒められると、エンタムも上機嫌で「じゃあ、他の枝もみんな綺麗に払っとくぜ」と、熱心に仕事を始めた。
表面が綺麗に磨かれていて、建物の柱としてそのまま使えそうなほど見事な丸太になっている。
紅帝竜キトラが言う。
「アハハッ。タダシは、エンタムをおだてて使うのが上手いな。さすがは民を従える王様だ」
「いや、おだてたつもりはないよ」
建築資材として使うのだから、使いやすい材木にして作業班に渡してやらないといけない。
繊細な技が使える上に、自分ができることを熱心にやってくれる金帝竜エンタムは、実は帝竜の中では一番できるやつなのではないかというのはタダシの本音である。
一方で、紅帝竜キトラの切った枝は、うーんもうちょっと綺麗に小枝を払ってくれると使いやすいかな。
「なにか言ったか?」
いや、せっかくエンタムが頑張ってくれているので、自分もなにかしようと思う。
柱にするような木は十分なので、四角く切ってみるか。
タダシが魔鋼鉄のナタで、角材にしていると神帝竜シュウドウが驚く。
「おお、この硬い世界樹をそのようにやすやすと切るか」
そう褒められると、タダシも嬉しくなる。
「こういうこともできるよ」
木材は乾燥させる過程がいるのだが、タダシは木材を絞ることで乾かす事ができる。
「こ、これは一体どうしているのだ」
さすがにみんな驚いている。
そういえば、久しぶりにやったなあ木材絞るの。
「どうしていると言われても、木材を絞ってるだけなんだけどね」
タダシも、自分でどうしてできるのかよくわかってないのだ。
農業の神様からいただいた、神業の一つである。
「アハハッ。こりゃ、勝てるわけねえぜ」
金帝竜エンタムは、呆れた様子で笑った。
紅帝竜キトラと、その子タサラは得意げである。
「さすがは、我が夫だ!」
「トト様凄い!」
そう褒められると、タダシも嬉しくて次々に材木を絞って使える状態に乾燥させるのであった。
まあ、神業といえば他にも凄い人がいる。
タダシ達が、作った木材を工事現場でさらに加工しているドワーフ達。
電動ノコギリなどの工具でギュイーンと、硬い世界樹の木材を便利な形に削っている。
神帝竜シュウドウは、それにも驚いている。
「これは、一体どういう方法なのだ?」
よくぞ聞いてくれたと、ドワーフの名工オベロンが自慢げに言う。
「これはな、不滅鉄の刃を高速振動させることで不滅鉄よりも硬いものを加工することができるのじゃ」
「バイブレーションということか?」
ドワーフ達は名工オベロンが作った新型魔導球のエンジンを使って、様々に便利な工具を作り出しているのだ。
高速振動の刃によって断ち切るというアイデアは、タダシが漫画のアイデアを話したものだが、そんなものを実際につくりあげてしまうのがオベロンたちドワーフの怖いところだ。
その振動をじっと見ていた神帝竜シュウドウは、やがて精神を集中すると世界樹の材木に向かい、それを高速振動させた手刀により断ち切って見せた。
それには、タダシ達もマジかとビックリする。
「おお! できたぞ!」
「凄いな、シュウドウ……」
オベロンも、魔法と機械の力を組みあわせてようやく達成した技術なのに。
それを素手でしてしまう神帝竜シュウドウは、やはり凄い武術家なのだ。
「オベロンといったか、ありがとう。これで私は新たな武の高みへと足を踏み入れた!」
オベロンも、まさかこんなことになるとはと驚いている。
シュウドウに握手を求められて、適当に握手を返しながら、助けてくれとタダシに視線をおくる。
いや、こっちに言われても困るとタダシは目を背けた。
タダシのことを凄い凄いという帝竜たちであるが、そんなタダシからみると帝竜のほうがよほど常識外れな存在なのだ。
「まあ、お互いに知り合うことで、新しい発想も産まれるってことじゃないか」
なんだかオベロンは困っているようだが、そういうことにしておこう。
そう思って、さっさと作業に戻ろうとするタダシをオベロンが呼び止める。
「王様、ちょっと相談に乗ってほしいことがあるんじゃが……」
この建物の設計は、タダシの描いた日本武道館ってこんな感じだっけ? と雰囲気だけで描いた図面によって行われている。
大雑把に言うと、八角形の屋根の建物だ。
屋根の下で戦うため、中はガラリと広い。
屋根は周りの柱で支えることになるのだが、それが難しいとオベロンは言うのだ。
「つまり、柱に、それを支えるだけの強度がないってことか?」
正確には柱の強度でなく、巨大な屋根を支えて踏ん張る力だ。
現状の この国の建築技術では、柱にこんな巨大な屋根を支えさせるのは無理だという。
「この巨大な屋根を支えるのに、地面をどんだけ掘らにゃならんのかって感じじゃ。王様の元いた世界は、凄まじく建築技術が進んどったんじゃなあ」
「いや、俺の国の武道館も、こんなに大きくなかったはずだから……」
巨大化したドラゴンが戦える武道場なのだから、大きさが巨大すぎるのだ。
ドラゴンがぶつかっても平気なほどの踏ん張る力を柱に持たせようというのだから、現代日本の技術でも無理かもしれない。
「設計を変更すれば、なんとかなるかもしれん」
そうすると、根本からやり直さないといけないという。
それも面倒なので、タダシはなんとかすることにした。
「とりあえず柱を立て掛けてみてくれ」
「それはできるが……」
オベロンは何をするつもりなのかと、聞こうと思ったが……。
それはやめて、黙って柱を設計通り建ててみることにした。
タダシは、建てられた図太い柱に手を触れてじっと押し黙る。
なんとか頑張って踏ん張って立ってくれと、タダシは柱に向かって祈った。
その、祈りで柱が少しずつ白銀の光を発し始めた。
何が起こったのかと、みんなが集まり始める。
「神帝竜、シュウドウ。ちょっとこの柱を叩いてみてくれるか」
「うむ。では、遠慮なく」
ドスーン! と衝撃波が走るほどの勢いでシュウドウがパンチしたが、柱はびくともしない。
オベロンは目を剥いた。
「一体、どうやったんじゃ。柱は、ただ立ててあるだけじゃぞ?」
「ああ、柱が根を張ったんだよ」
そう言われて、オベロンはポカンとした顔をする。
数秒たって、ようやく理解が追いついてきた。
「つまり、柱に根っこが生えたということか?」
「元々、この木材は世界樹だから農業の加護で、根を生やすこともできるはずだと思って」
やってみたら出来たと、タダシはケロリとした顔で言う。
「相変わらず、王様は何でもありじゃな」
オベロンも、もうツッコむのも疲れたわいと笑うだけだ。
おかげで、建造上の問題は解決した。
ここ最近熱中していた鉄道や駅を作るのにも一段落ついて、ちょうど暇を持て余していたドワーフや大工たちの夜を徹しての作業により。
ついに、
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神々の加護で生産革命 ~異世界の片隅でまったりスローライフしてたら、なぜか多彩な人材が集まって最強国家ができてました~ 風来山 @huuraisan
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