第6話8月15日 ――開戦の日、こうして僕は戦場に行った。
八月十五日――深夜。日付が変わって間もない時刻。僕の所属する部隊は大勢で騒々しいが、どこか静かな、声を押し殺すような雰囲気で駐屯地を出発する。ついに部隊に命令が下り、〇〇市への出撃を命じられた。
「……(皆、僕は今から戦いに行く、最期になるかもしれない、さよなら)
僕は心の中で家族と、そして大切な女の子の今後の幸せを願った。そして、悲しくなる気分を少しでも紛らわせる為に、僕達に与えられた任務を思い出して気持ちを集中させようとした。
任務その一、部隊は味方が敵へ攻勢に出る為の情報を収集せよ。その為に敵の
任務その二、敵は部隊を日本のあらゆる場所へと輸送する兵器――通称、『異世界門』を有する。よってこの兵器を制御維持する、装置、または人物なるものを見つけ出し、味方へ報告、または可能であるならば破壊及び捕獲せよ。
任務その三、敵地周辺の地形、及び地理、文化等の情報を収集、報告せよ。
以上三つが僕の所属する部隊に大まかに与えられた与えられた任務だ。本当はもっと難しく細かい任務もあるが、流石に階級が低い僕ではまだ理解が追いつかなかった。
因みに、マ国が攻め込んで来た初日は、偵察衛星で〇〇市の様子が確認できる為、余計な損害は出さないようにと偵察隊は出撃を取り消された。
そして八月十四日には、自衛隊とマ国で決戦とも言うべき激しい戦闘が行われたらしく、自衛隊がそれに勝利した。これに対しマ国は撤退を始めた後、とある区域で姿を消した――そこを消失区域と呼ぶ。そしてこの区域を偵察衛星で監視したところ、巨体な門――以下、異世界門が建築されている事が分かり、そこをマ国の負傷した戦闘員達が通り抜けて消失するのを確認された。
この事を知った、総理大臣と防衛大臣達はここがマ国の本拠地へと通じる入り口であると判断し、まずはそこの情報を得る為に、僕のいる部隊――偵察隊を派遣する命令を出したのだ。流石に門の向こう側には偵察衛星は存在しない為、直接門の向う側へ渡り、目視と無線等での報告に頼るしかないのだ。
あっ、そうそう、これ以外にも新た任務が追加されたんだった。
任務その四、マ国の指揮官が、異世界門をくぐり消失を確認。よって部隊は敵の本拠地にて、指揮官を捜索し、発見次第、位置を報告。もしくは可能であるならば捕獲し、無事に日本へと連行せよ。
要するに僕ら偵察隊に居なくなった敵の指揮官を発見させて、捕まえて来るように命令が下ったのだ。正直無茶な気もするが、任務だから必ず成し遂げなければならない。
「……(必ず全ての任務を終えて、生きて帰ってやる)」
僕は大型トラックの荷台の中で銃を握りしめて、そう誓った。そして数時間後、部隊は任務を開始すべく、マ国の消失区域へと到着した。
「何だ、これは……」
消失区域に到着した殆どの隊員がそう呟く。僕もそうだった。なぜなら目の前には巨大な大理石で建築された門があり、その門の扉が開かれた先は時空が歪んだ光景が広がっていたからだ。とても現実的でない光景だ。
「ねぇ川崎……今更なんだけど、僕達とんでも無いところに行くみたいだね」
「うっ……そうみたいだな、周り散乱してる死体をみたが、どうやらこの先にいるマ国の奴らは相当ヤバイ奴らみたいだな」
僕達のいる門の周辺でも戦闘が起こっていたらしく。マ国側の死体が散乱していた。しかしどれも普通の死体ではなく。地球上には存在しない動物――おそらくマ国側の軍用動物であった。この軍用動物は見たところ大きな爪や、牙など持ち合わせており、こんなのがいる世界へと向かうとなると、とてもゾッとした。
「お前ら、怖気づく暇はないぞ、すぐに出撃大勢を整えろ」
上官に言われて僕と川崎はそれぞれの配置に着いた。すぐに門の前に縦列で並ぶ車両の位置まで僕達は移動した。そこでそれぞれの配置を示された。
因みに、僕の配置は、なんと一番先頭で、無線機とオートバイ任された。そして川崎の配置は、僕すぐ後ろに止まっている軽装甲気動車――通称LAVの機関銃手だ。川崎はこの時機関銃に弾を装填して、すぐに射撃ができる態勢を整えると、僕の方を見てふざけながら話しかけてきた。
「ははっ、お前が先頭でしかも乗り物が偵察用オートバイか、それじゃあすぐに死ぬな」
「黙れ、僕も安全なLAVに乗りたいから交代しろよ」
「嫌だね」
「……ちっ、それより、もし目の前にすぐに敵が居たらすぐに射撃してくれよ」
「おう、俺がバリバリ敵を蹴散らしてやるからよ!」
「任せたよ……そういえば新谷一士はどこにいるんだ?」
「あぁ、あいつなら俺達よりもっと後ろのトラックの中で無線の中継をしてるよ」
「へぇ、そうか」
こうしたやり取りをしていると、無線に発信準備命令がかかった。そしてここにいる偵察隊の隊員全てが発信命令を待ち続けた。僕はこの間、出撃前に僕達偵察隊へ無線を通じて流れた、訓示を思い出していた。
『訓示――諸君ら偵察隊はマ国が残した門をくぐり抜けて、我々の知らない未知の世界――通称異世界へと出撃して貰う。そして諸君らにはこの未知なる異世界の敵の情報を集めて貰うことが主な任務だ。これは十分危険な任務で有ることは諸君らも十分理解していると思う。そして必ず誰かが命を落とすであろう事も……しかしながら、誰かが行って情報を集めなければ我々日本は未知なる敵の驚異に晒されたままになってしまう。そうならない為にも、どんな些細な情報でもいい……諸君らはありとあらゆる手段を取って生き残り、敵の情報を収集し発信し続けよ! そしていづれは諸君らがもたらした情報により、日本及び自衛隊は勝利へと導かれ、この八月十五日は開戦の日で無く、再び平和を願う、終戦の日となるであろう、以上で訓示を終了する』
この時の訓示の内容を聞いてわかるように、どうやら上の方々は敵の情報が欲しくて欲しくて仕方ないみたいだ。しかも、ありとあらゆる手段で生き残って情報を収集し発信し続けよとは……これは相当長い期間を僕は異世界で過ごす事になりそうだ。けれど日本の平和、そして大切な人を守る為なら僕は耐えてみせる。そして犠牲になっても良い。覚悟は決まった。
『全部隊、前進開始!』
無線に命令が流れたと同時に、全ての偵察隊の車両が門へ向けて発進する。僕は先頭なので一番はじめに門にある時空の歪みに、オートバイとともに触れた。なんだか肌にぞわぞわする感触がして変な気分だ。そしておそらく僕が日本で初めて――いや、世界で初めて次元を超えて異世界へと向う人間なのだろう。なんだか僕、すごい経験をしてるんじゃないか!?
いざ、作戦が始まって見ると、今までの不安が嘘のように消えて、わくわくした気分になった。
「……あっ、門を抜けました!」
暫くして僕は一番はじめに、僕達の敵――マギユース国が存在する、異世界の大地へとたどり着き、無線に一報を入れた――こうして僕は戦場へと向かった。
終わり。
マ国襲撃事件の記録。
八月十日
〇〇市に突如武装勢力が出現し、住民を殺戮する。そして自らをマギユース国と名のり、〇〇市の領有を主張し日本政府へ宣戦を布告する。
以下、マギユース国宣戦布告宣言文。
『我々は異界より来たりて、新天地を求める者達である。さて、貴国は驚いた事に我々の世界で必要とされるマナを含む資源が手付かずの状態で存在している。よって我々は、この豊かなる土地を有効に使えぬ無能なる先住民を追い払い我々の土地にする為、貴国に宣戦を布告する!』
この宣戦布告により、日本政府――異世界の存在を認知する。そして、今後に備えて、異世界に自衛隊を派兵するか検討する。
〇〇市警察が出動する。しかし人員と戦力が足りずマギユース国の兵士を捕らえることに失敗。多数の殉職者を出す。これにより日本政府は防衛出動を命令し、自衛隊が出動。
警察、威信を保つ為に――特殊部隊をマ国の指揮官の逮捕する為に投入。また自衛隊と警察による合同作戦を開始。
午後〇〇時〇〇分。合同作戦開始。警察官数千に及び、警察特殊部隊、〇〇市内突入。自衛隊は警察の補助に回る。しかし作戦は失敗。マギユース国の生物兵器及び魔法兵器により警察が壊滅的に打撃を受ける。
八月十一日
政府、作戦の失敗を受け、作戦を自衛隊主導で行う事を決定。さらなる自衛隊の戦力を投入させる。自衛隊は機動戦闘車や装甲車等機動部隊。そして重火器を装備してマギユース国と戦闘をする。これにはより形成が逆転し、事件が解決に向う。以後〇〇は三日間戦闘が続き、双方とも損耗が大きくなる。
八月十四日
マギユース国指揮官。全戦力を〇〇市へ投入し一か八かの攻勢へと転じる。これに対し自衛隊も残る全部隊の戦力を当たらせる。こうしてマ国襲撃事件の最初で最後の決戦が行われる。
同日午後〇〇時。自衛隊決戦に勝利。戦力を失ったマギユース国は異世界門を開き、異世界にある拠点へと撤退を開始する。これを偵察衛星が発見する。
異世界門を開いた状態で確保する為、自衛隊はすぐに異世界門のある区域の座標へと急行。再びここで激しい抵抗に合うも異世界門を確保する。
この報告を受けた政府は、当初検討した異世界派兵を実行に移す事を決意、よって異世界の土地及び、マギユース国の拠点の情報を得る為、まずは陸上自衛隊第〇〇偵察隊の隊員を異世界に派遣する事を決定する。
八月十五日
午前〇〇時。〇〇偵察隊を異世界へ派遣、その後〇〇偵察隊はすぐ異世界の偵察を開始、様々な情報を無線により送る。
八月十八日
〇〇偵察隊、異世界にて戦闘、その後連絡が途絶える。そして異世界門が日本にて消失。
〇〇偵察隊、全隊員生死不明及び、行方不明となる。よって政府は批判を避ける為に〇〇偵察隊について秘匿するとともに、〇〇偵察隊を解体する。
八月二十日。
政府、マ国襲撃事件の解決を宣言。日本は再び平和へと移行する。
あとがき。
最後までこの小説を読んで頂きありがとうございます。この小説は、作者が――某ゲートをくぐって異世界に行く自衛隊のアニメを見て、その時――
『あれ? もし異世界に自衛隊が行くとしたら、絶対に誰かが一番はじめに危険な未知の世界に偵察――斥候に行かされるよな……その人達って一番危なくね?』
――という思いを抱いて、その人達の事を妄想したのが始まりです。
ですからこの小説のコンセプトはこの一番はじめに行く人達がどういう思いを抱いて戦場に赴くのかをテーマにしました。
しかし、知識不足なので中々うまくそれが表現できてないかもしれません。それでも最後まで読んて頂いた方はどうもありがとうございました。今後も引き続き小説を書きます。
異世界人襲撃事件〜こうして僕は戦場へ行った。 レコン @privatefirstclass
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