田中等の怠惰な日常
@mktff
第1話 物語の終わり。
僕は平凡な大学生だ。
身長約172cm、体重約62kgでやや痩せ型。
顔は普通。ブサイクではないが、イケメンでもない。そんな顔。
今までの人生で1位をとったことはない。
(小学生の頃徒競走で、全員一緒にゴールしたことを除いて)
最高でも3位だ、それも文集の平凡な人ランキングで。
よくクラスメイトには、クラスに一人はいる人間と言われていた。
そんな僕でも、一つだけ特別な能力がある。
凡人には絶対にない、天才だって持ってるかわからない能力だ。
それは、、、いや、ここで話すようなものでもないな。
とりあえず、学校についてから、今までの話をしよう。
それから、僕の秘密を教えるよ。
中央線四ツ谷駅で、二人の男女が改札を出てくる。
あの二人か。
四ツ谷駅近くの交差点で、端の段差に腰掛ながら、その二人を見つけた大男がいた。
冬だというのに半ズボンで、何故か上だけ着込んでいる。
紺の半ズボンに、白をベースにピンクの水玉模様のベスト、黄色と赤の縞様の靴下を履いていた。
信号待ちの若者たちはチラ見するだけで、すぐにスマホの画面に顔を向けるが、周囲からは完全に浮いていた。
「待ちわびたぞ。田中等、そしてキャリアーの女。」
大男はそう呟くと、巨躯に似合わずさっと立ち上がった。そして、左のポケットから一本のペンを取り出す。
何の変哲もない、ただのボールペンだった。
黒でメーカーはゼブラ、そこら辺の書店で誰でも買えるようなペンだった。
男はそれを握ると、駅から横断歩道を渡ろうと向かってくるその男女に目掛けて、投げつけた。
つまづいて前方に落としたとかではなく、的確に狙いを定めて投げつけた。
空を舞うボールペン。
男女は横断歩道へとたどり着く、そしてその瞬間信号機は青になり、他大勢の学生やサラリーマンと同じように、白線を渡り始める。
ボールペンが回転しながら、駅側に向かう人々の側頭部をすり抜けていく。
男女はまだその存在には気づかない。
向かい合う人々が今にも交差しようとする。
その時、男の方が、歩道の終わりに立つ大男に気づいた。そして、女に何かを叫び、身を翻そうとした瞬間だった。
男女の元まで勢いを失わなかったボールペンが、彼らの背中に近づくにつれ、芯から巨大化していく。
そしていつの間にか、人の背丈を軽々と越える物体に変化していった。
数秒もかからなかった。
ボールペンは瞬く間に、アメリカ製の、そして大質量の巡航ミサイルへと変貌し、横断歩道へと落下しようとしていた。
歩行者たちはなにかが、巨大で鉄製のなにかが、いきなり自分たちの真上に現れたことに驚き、何が起きたのか理解できぬまま茫然とした。
男女も自分たちを覆う黒い縦長の影に気付き上を見る。
ミサイルはもはや避けようのない距離まで来ていた。
たどり着くことのできない横断歩道の終わりで、派手な格好をした大男が手を振っているのが、田中等には見えた。
それが最後に見えたものだった。
ゴゴォーンという爆音ののち、衝撃波が走る。
衝撃波は市ヶ谷の皇居周辺まで届いた。
四ツ谷駅周辺は崩壊し、炎と土煙に包まれる。
野次馬がザワザワと集まってくる。
救急車とパトカーのサイレンがそこかしこから聞こえ、警官が野次馬たちを現場から遠ざけにくる。
危ないですから、下がって!
警官たちが野次馬を押し除ける。
クレーター状に凹んだ歩道の真ん中に、救急隊員たちが駆け寄っていく。
砂埃の中で、人型の影が二つ伸びている。
負傷者発見、担架!急げ!
砂埃の中から、二人の男女が運ばれてくる。
だが担架からはみ出たその腕には、もはや生気は感じられなかった。
田中等とキャリアーの女は、11月5日、午後12時30分きっかりに、その人生の物語に、終止符を打たれた。
田中等の怠惰な日常 @mktff
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