第5話 秘密の集い

 教室には、ダン、カトリ―、ソフィア、そしてエレナの4人がいた。セシルはどうやら別の用事で外しているようだった。


「随分と打ち解けたようね」


 ソフィアはカトリ―とエレナの様子を見て満足そうだった。


「ええ。彼女の世界の事、色々と教えてもらった。生活環境も知識レベルも、私たちとあまり違いはない。ただ、一つ大きく違うのは魔法が無い事」


「やっぱりか」


 ダンが答える。


 それからカトリ―は、エレナの世界についてを、この世界の事象に例えながら二人に説明していった。


「けどよ。魔法無しでの生活なんて想像出来ねえな。面倒な事ばかりだろう」


「そうでもないみたい。彼女の世界では、魔法の代わりに機械文明が発展していて、様々な事を電気を使った機械で補っているの」


 カトリ―はエレナに視線を投げた。


「そう。ランプを明るくするのも、移動する乗り物を動かすのも、遠くの誰かと連絡を取ることも、多くの事が機械と電気で賄っているの」


「まるで…イヴァンガルドのようね」


 ソフィアは顎に手を当て、呟いた。


「私もそう思った。エレナには昨日、少し話したわね。」


 エレナが頷く。


「機械文明が発展した街、だったよね」


「そう。イヴァンガルドは四大陸のうちの一つ。あそこは、元々魔力の弱い者たちが住んでいたの。正確な理由は分からないけれど、自然環境や魔力の源となるクオリアの生成に向いていなかったんでしょうね。それらを補うために、機械文明が発達した」


「じゃあ、魔法が全く使えない訳じゃないのね」


「スタンガルドやソフィアたちのニングヘイムに比べると、凄く弱いけどね。ただ、エネルギー源である魔力を、彼らは機械で増幅させて使うの。その力は私たちの魔力にも匹敵する。だからこそ、四大陸の均衡は保たれているのだけど」


「どこの世界も、国同士のにらみ合いみたいのはあるのね」


 想像していたファンタジーと冒険に溢れた「魔法世界」とのギャップに、エレナはため息をついた。


「あなたが思っているのとは少し違うかも。三つの大陸ともう一つ、氷の国ダウニーヘイムの合わせて四大陸は、とても友好的よ。各大陸の貿易も盛んで、それぞれの文明がある。お互いの発展のために、皆手を取り支え合っているわ。だから、ソフィアたちのような留学も常にあるし」


 話を振られたソフィアが続ける。


「ええ。大陸同士の争いも、もう何百年も起こっていないと言われているわ。それとカーニバル!国同士の交流を称えた祭典もあるの。色とりどりの魔法によるショーは見ものよ」


 エレナの頭の中には、昨日見たような魔法の様々な造形が宙を舞う夜空が広がった。


 しかし、そこにダンが水を差す。


「カーニバルも良いけどよ。話を戻すとイヴァンガルドがこいつの世界と似てるって話だろ。イヴァンガルドに行って、こいつを戻す魔道具でも探してみるのか?」


 確かに。夢と魔法の世界に浸っている場合ではなかった。エレナは襟を正した。


「今のところは、他にあてもないしね」


 カトリーヌはため息をつく。


「まあ、俺もイヴァンガルドなんて何年も行ってねえからな。この目で見たいってのはある」


「それって、つまり?」


 エレナとカトリ―が同時に声をあげる。


「そうだよ。手伝ってやるよ」


 ダンは恥ずかしそうに答えた。


「さすが、ダン!頼りになるね!」


 カトリ―は嬉しそうにダンの背中を叩いた。ダンは「痛てえ!」とカトリ―を退けながらも、表情は楽しそうだった。


「これも何かの縁よ。楽しみましょ」


 そう言って今度は、カトリ―はエレナの手を取った。


「みんな…ありがとう」


 エレナがこのスタンガルドに来てから初めて、心から安らいだ瞬間だった。


 しかし、束の間のひと時は教室のドアと共に破られた。

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クオリアント・サーガ 紡木 想介 @wake3

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