刃と一体になれと、師は言っていた。

俺は海の神に愛された男。海中でも陸地と同じように呼吸し、鎧を着たままで、どんな海の魔物にも泳いで追い付けた。


俺は剣の神に愛された男。俺の振るう刃は確実かつ望むがままに魔物を切り裂いた。甲羅も、鱗も、粘液も、魔法による防御も一切関係無く、俺が斬ると決めれば、あらゆるものが裂けた。


…あれは、世界に5人いる海魔王の最後の1人を倒したときだった。これまでの海魔王と同じだった。最期の負け惜しみを叫び、激しく光り、海を荒れさせ、断末魔の声は嵐を呼ぶ。俺は海に愛された男だ。どんな荒れ海だろうが泳ぎ切れる。だが、そもそもだ。俺は海では死なない。何があってもだ。だから、俺は慌てずに眠ることにしていた。2人目の海魔王のときからの習慣だ。数時間したら、俺は海面に浮かびながら、朝日を浴びて目を覚まし、近くの島まで泳ぐ。


途中までは同じだった。途中までは。違ったのは、朝になって泳ぎ着いた先が、俺の知らないニホンという国だった、ということだ。とは言え、俺は海と剣に愛された男。出会ったニホンの民に頼まれるまま、サカナと呼ばれる魔物を生け捕りにして喜ばれ、それを言われるままに切り裂けば褒められた。そんな日々を繰り返していたら、いつの間にか、ここに辿り着いていた。


「今日は、秋葉原の海原寿司さんにお邪魔していまーす。ここではですねー、さすが秋葉原!勇者のコスプレをした職人さんによるマグロの解体ショーが毎日開催されているということなんです!では早速、店内に入ってみましょう!こんにちわー!」


「らっしゃい!」「らっしゃい!」「らっしゃい!」


「店内には外国人の方もたくさんいらっしゃいます!あ、始まりますよ!!」

『剣の神よ!今、我が刃に宿り!断罪の光を授け給え!!』

「うぉー、すっげぇ、プロジェクションマッピングか!」

『時の神よ!悠久の時の牢獄に!この者を縛り付け給え!!』

「ワーォ、アメイジング!クール!」

『さぁ、見よ…我が!剣技ッ!ハァァァッ!』

「すごーい!カメラさん撮れてますか!?」

『我に…断てぬ物、無しッ!』

「本日はご来店、誠にありがとうございます!店内のお客様には、今解体したマグロの握りをサービスで振る舞わせていただきまーす!トロもありますよー!」


「以上、話題のお店のコーナーでした!スタジオにお返ししまーす!」


俺は海と、剣と、寿司の神に愛された男。今日も俺の技の輝きは民を魅了し、彼らの舌を悦楽へと誘う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界症候群 Pawn @miutea

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ