立ってる者は異世界人でも使え。

「尿管結石と思われます。」

静かに告げる僕の声に呼応するがごとく、荒野に巨竜の咆哮が轟く。空気が震え、戦士達は凍り付く。僕の耳には咆哮が言葉として聞こえていた。いわく。

『早く何とかせんかァァァァァァッ!』


医者は慌てない。少なくとも僕は慌てない。目の前の現実を淡々と受け入れる。だから、夜勤で待機中に叫び声―複数人の男女の声が混ざったような声―が突然聞こえても、直後に荒野の真っ只中でぶつかり合う寸前の巨大な竜と戦士達の間に突然現れてしまっても、外来診療と同様に「今日はどうしました?」と言ってしまえるのだ。


眼前の竜が僕をここに呼んだこと、そして叫び声の主だということは、直観していた。痛みのあまり暴れる患者。よくある構図だ。通常なら数人で押さえ付けるのだが。

「気温を下げることはできますか。」

「いきなり出てきて何なんだ!」

「できますか。」

「氷の初級魔法だ!馬鹿にするな!"震えず、鎮まれ、冷たく、眠れ"ッ!」

「そのまま、患者が静かになるまで冷やし続けてください。」

「ずっと!?」

「そう、ずっとです。静かになっても、しばらく維持してください。壁の向こうを透かして見るようなことが出来る方はいますか。」

「あ、宝箱の透視とか、壁の向こうを探知するくらいで良いなら出来るぜ。」

「竜が落ち着き次第、竜の体内、腹の辺りを中心に異物を探してください。不自然な肉の塊、流れの無い血溜まり、石のような物体があれば教えてください。」

「よしきた。…つーか、竜って冷やせば大人しくなんのな。勉強になるわー。」

「生物なら、低温では活動が鈍くなります。静まりましたね、お願いします。」

「うっし。どれどれ。あー…やっぱ迷宮の壁とは違うな…いや、よし、こうだな。おー…すげぇな…。」

「どうですか。」

「なんか石みたいなの、あるな。この辺。」

「そうですか。」


……

「離れた場所の石を、崩して砂にすることは、できますか。」

「壁崩しと同じ要領ってことなら、やっぱ俺か。盗賊大活躍だな、っしし。」

「お願いします。」

「あいよ。これを…よし、つかまえた。"解けよ、硬き団結の意志"。これでいいのか?…あれ、あの白い奴どこ行った?」


………

コール音で我に返る。病院だ。電話を取る。

「竜居先生、救急搬送です。激しい腹痛を訴えています。」

「どうぞ、受け入れてください。」

また尿管結石かもしれないし、違うかもしれない。

どちらにしても僕は慌てない。医者だから。

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