第5話 美人の証明

「旭ヶ丘さん、さよなら!」

「あら、ご機嫌よう」

「やっぱ綺麗だなぁ旭ヶ丘 清美!

学園一のマドンナで才色兼備!」

「だけどいっつも一人でいるよなぁ」


「馬鹿!美し過ぎて近付けるかよ!

それに旭ヶ丘さんには人とつるんでる暇も部活なんてやってる暇もねぇの」

学園一の才女にして憧れの的

名を旭ヶ丘 清美。

家は大金持ちの財閥、彼女は令嬢にあたる謂わゆるお嬢様だ。

「お嬢様」「あら、じいや」

「本日もお疲れ様で御座います。」

「ええ、そうね。」

「あれもう帰っちゃうの旭ヶ丘さん?

私達これからお出掛けするんだけど」

「そうなのね..」

ロイヤルエンジェルス

彼女達はそう呼ばれている。

いつも七人程のグループで行動しており皆の注目を集める。


「見ろよあれは!

旭ヶ丘さんとロイヤルエンジェルさん達が集結してるぞ!」

「くぅ〜尊い、尊いぞコレはっ!!」

「ごめんなさい、今日は駄目だわ。

どうしても外せない大事な用事があるのよ。」

「..あらそう、わかったわ。

なら私達だけでいくわね、写真を撮って皆んなに〝発信〟しないとならないのよ」

「大変ね。」

ロイヤルエンジェルのメンバーは皆スタイルが良く、モデル業を行なっている。その為皆が参考にするカリスマ性のある写真を撮りにいかねばならないようだ。

「じいや、車を出してくれる?」

「御意に。」

柔らかなシートにお出迎え、軽やかに要塞へと走る。

「帰ったら直ぐに部屋に戻るけど、絶対に入らないように。入浴は勝手にするわ。御飯は決められた時間に食べるからくれぐれも様子を伺ってこないでね?」

「承知しておりますよ、総て。」

「そ、ならいいけど..」

何度も言ったことを再三繰り返し確認させる。牛や羊を教育するかのように


「到着しました我が家で御座います」

「有難う、それじゃあね。」

車を出て門を開ける。

大きく重たい鉄の門は、力では無く感情で開いた。

玄関を抜け階段を登り部屋へ入る。

扉には、しっかりと鍵をかけた。

「ふうぅぅぅ〜....ウザってぇ..。」

制服は戦闘服などと言うが、あれは外での事。家の中のユニフォームといえばジャージと相場が決まっている。


「モデルもどきのパーティなんて行く訳ねえだろ気持ち悪りぃなぁ。こっちはな、小さい頃から擦り込まれた上品な礼儀とやらをひけらかすので参ってんだよ、その上でスカした事なんてやってられるかよっ!」

座骨の高い椅子の手すりに立て膝を置き、長い黒髪の先端を指でくるくるしながら唾を飛ばす。

「男連中もなんなんだよ?

次から次へと声掛けてきやがって、めんどくせぇんだよ!

いるだろもっと周りにビジュアルガンガンに晒してるみっともねぇ女が!」

例えば七人で行動してモデル風情な事をしている連中とか。


「ああいう奴等は男の指示を求めてんだからよ、なんで無視していつもこっちに来んだよ!

だいたい私の何処がいいんだよ!?

何が可愛いんだこんな女の!!」

常に見ている自分の姿など魅力的には映らないし、そもそも自覚が無いので注目されるワケがわからない。

「...あぁもういいわ!

ブッパなそ、それがいいわ!」

テレビの電源を入れ、据え置きの四角い箱を起動する。

「いよっし..今日もいるねぇ。」

アーミーセレクト

一人称視点で行う銃撃ゲームだ。多くの者が何かを抱えここに集まってくる


「えっ〜とカスタムは...そうだリロードは早くしといて。ダメージ軽減いらないな、だったら威力上げた方がいいし..弾数増加も付けとくか。」

小声で過去の戦いの記憶をうっすらと呼び起こし会議を行う。

「爆破連鎖付与っ..!

あ〜爆破連鎖どうしよ、付けたいけど移動速度落ちるんだよなぁ..でもどうしよ!」

こういうときは大体答えは決まっていて、何かのきっかけで背中を押されるのを待っている。

「あーでもそうか!

銃の固定スキルでそもそも速度上がってるから...いいじゃん。

いいじゃんよっしゃ、やるじゃん!」

結局は臆病なだけなんだ。

素直になれない不器用な生き物だ。


「それじゃ行きますか..」

そこそこ長いローディングの間にある程度喉を潤し、近くのマスコットやおもちゃに意味もなく床を歩かせる。

「よっしゃ始まった。

あーステージあんま良くないな」

開始時に環境が悪いと保険をかけ負けたときの言い訳を作っておく。そうすれば敗北時のストレスが大幅に軽減される。

「エイムが取りにくいだよな此処、ホント嫌いだわ。あ、ヤベッ狙われてるえ、つか挟み撃ち?二体一じゃん!」

専門用語をイキって使ってみるがそこまで上手くは無いので序盤で狙われ撃破される事はしょっちゅうある。

「ちょっ待って待って待って待って!

あっ...ズリィ、やられたぁ。

相手チーターだろ、チーターだな?」

自分の力不足は承知の上で相手の不正を疑ってみる、それがなんかオシャレだと思っている。

「やっぱ威力上げたほうがいいな」

弱いくせにカスタムは誰より入念に行い余念が無い。


裏側は誰にもわからない

皆何かを抱えている。

「ごきげんよう。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

都市伝説の日常 アリエッティ @56513

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ