第4話 忍んで隠れて

「城に潜入?」

「うん、そう。

アイツら守備かてぇから潜入キツいじゃん?

だから中から鍵開けといてくんね?」


「僕がですか?」

「そうだよ、だって忍じゃん!

他に誰が出来るっての。」

突然の無理、待ってくれと言いたいとこだが場は鎮まらず。

「じゃ、そうい事なんで!」

「あぁ......。」

結ったマゲを反り立たせ立ち去る。

城主は是非を問わない自由な御身分で

「何だと思ってんだ俺の事..。

守備されてんのにどうやって中入るんだよ?」

同級生で忍者になるのは少なかった。

みんな見栄をはって侍になると刀を携え「いつかいい女といい酒を呑む」と口を揃えて野望を抱えていた。彼はその時点で周囲が微塵も武士道を持っておらず、心もちがしんどいという事を理解していたので他とは違う忍者になった。

「目立たなくて良いと思ったのになんだよ、唯の情報伝達屋だよって聞いてたのにさ。」

移動距離は長いし、睡眠時間は極端に短い。加えて城に仕える専属忍者の為勝手な他人の都合で動かされる。

「侍のほうが楽だったよなぁ絶対...」

後悔しても今更遅い、語尾にござるを付けたところでそれは忍者の返事。

侍の威厳には達しない

「行くだけいってみるかぁ。」

普段は余りやらないのだが全身黒く、頭巾まで被って忍んでみせた。

「いくでござるよ...」

脚だけは元々速い為それっぽく映る。

瞬足というのか目にも止まらぬ感じに、少し気分が良かった。


「ちょっと休むか」

近くの茶屋で休憩する。喉が乾いたのと同時に〝忍者だって疲れる〟という明確な意思表示だ。

「お疲れ様でござい!

    何に致しま....え?」

「はい?」  「い、いや...。」

茶屋の娘が少し変だ。

しかし理由はわかっていた、目の前のあからさまな男に狼狽しているのだ。

案の定彼女は言った

「本当にそうなんですね」と。

どうせバレてると思い、両の人差指を立てて中心で合わせ「忍!」と言ったが流石に引いていた。

しかしその後も質問はしてきた

「あの建物とかに引っ掛ける縄ついた金具とか持ってるんですか?」とか。

持っていたからより恥ずかしかった。

「結局あんまり休めなかった」

無理も無い、忍者ミーハーに遭遇しては求められるものも多いだろう。

「でもお茶は超美味かった。」

そんな訳ないが、ハーブティーに感じた。そんな訳ないが。


「さて、行きますか..」

気を引き締めて本題へ進む。

相手は敵の城、我が城に勝る大きさで力を誇示している。

「相変わらず警備すごいな〜、外に置く量じゃ無いだろアレ」

入り口は正面、西口、東口、裏口と四つ門となっておりそれら全てに列をなす隊陣が整えられている。

「一応隠れるのは得意だけど..足も速いしね、だけどなぁ。」

問題なのは柔らかなメンタルと、人を見知る性質にある。

「集団とすれ違うの嫌だなぁ、文通でも上手く話せないくらいなのに」

出だしを何度も書き換えて結局初めの文章を使う下手っぷりだ。

「普通は裏口から入るのかね..?」

侵入といったら裏口という定説を利用し、堂々と表から入る寸法ではある。

「難しく考えがちではあるけど

騙くらかすのは結構簡単でしてね?」

近くに落ちてた小石を拾い、投げる。

すると集団は皆同じ方角を向く。


「構えろ!」

「ね、塊って動かしやすいのだよ」

石と顔を合わせている内に施錠を解除

隙間にするりと入り通る。

「戸締り甘っ..!」

一つを開ければ後はお手のもの、残る三つも即座に解錠、走り回って捻るだけ。これで城内は筒抜けだ。

「あとは..屋根裏を伝って外に出る」

天井に付き脚を上げれば穴が開く。

そこから上手い事屋根の上へ。

そう、上手い事屋根の上へ。

「抜き足と差し足と忍び足..あれって書物にも丁寧にやり方書いてあるけど殆ど使わないんだよな。」

持ち前の速さがあれば何とかなる、下手でもドジでも大体の忍者がそうだ。


「さーて帰るか」

『ガシャ..』 「やっべ。」

「上に何かいるぞ!」「うっわ嘘!」

こうしてドジと下手を同時にやらかす奴もいるがそれもまた何とか...。

「追えー!」「来んなよっ!」

なればいいのだが。


我が城殿の間

「踊り狂え蝶々よ〜!!」

「はいな!」「そいな!」「なー!」

昼間からご機嫌のちょんまげ大名は殿の特権を最大限に活用して乱痴気にふけっていた。

「最高!昼間から宴だよ。

殿の生活いと最高!!」


「ただいま。」「あ、忍者じゃん!」

「ヤッバイ」 「なにーどしたー?」

向こうで起きたいきさつを簡単に話し状況を伝える。

「結構やった、忍やっちった。」

「あ、そー。

んじゃあ攻めっか!」

「鍵開いてんしょ?」「..うん。」

「ならいける武士たちー?」


「どうしたでござろう!」

「ちょっと討ち入りいけっかね?」

「えーっと..いけ...るでござるね!」

「じゃあ頼むわー」「御意で候。」

「これでいけっから。」

「あぁ..そうなんだ」

生の武士、本場の〝ござる〟は迫力が違う。

「まぁ気にすんなって、ほら呑め!」

「ああ、どうも。」

いい上司、全然怒らない。

「武力すごっ。」



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