第10話

突然だが、俺はイギリスの魔術使いが嫌いだ。

プロの魔術師を自称しながら魔術を扱う事無く、魔術を観賞用の芸術品か何かと勘違いしている。

魔術とは本来、如何に効率よく効果的に殺すかの技術である。それが時代を経るに連れて世界の根源の探求の手段になった事は否定できない。

だが、決して見世物でも売り物でも無いのだ。所詮魔術師はその身にそぐわぬ願いを願望を抱きながらも諦められぬ者達が人の身から外れようとも叶える為に世界の法則すらもねじ曲げる傲慢者。美しさや芸術などとは無縁の輩。それを許さない魔術師は旧い者ほど多くなる。

近現代の魔術師として生きるもので最も旧い者は誰か。単純な話だ。フランス王国男爵にして元帥に登り聖女の余りにも惨たらしい処刑による死に歪んだ狂者ジル・ド・レ。彼は未だにフランス王家の系譜と英国を恨み続けている。フランスの宿敵たるオーストリアたるハプスブルク家は彼の率いる聖女教団とも盟約を結んでいる。。

怨念と執念によって不死者と化した旧時代の人間たち。救国の聖女、オルレアンの乙女たるジャンヌ・ダルクの指揮下の兵卒の1人に足るまで全ての人間が参加するこの教団は狂者の群れ。それを怨敵イギリスはロンドンに解き放とうと言うのだ。彼らも死ぬ。奴らも死ぬ。そしてそれはまた我々も。


詳細不明、所属不明意図目的一切不明の古めかしい鎧に長剣の集団。それはある朝イギリスの首都ロンドンを混乱の渦に叩き込んだ。


その数時間前に聖公会からの拒否と宣戦布告が届き、国教騎士団がドーバー海峡を渡り、ブルターニュに上陸した。

国教騎士団の兵員数は800。第2派として1000、本国のイギリスには残りの1200が控える。それを後目に俺は空間をねじ曲げ聖女教団、我々銀の星を引き連れロンドンの中心街に現れた。

聖女教団総勢の半数にあたる400名とオルレアンの義勇軍200を残し残りの半数と我々は270名を引き連れロンドンを破壊した。

俺の魔術はビックベンを粉砕し議会を焼き払い、聖女教団の兵はジルの指揮の下ロンドン市民を鏖殺していった。


「戦闘魔術師が修める系統は1つか、2つだと聞いていたのだが。」


「俺の基本はキリスト教系欧州魔術と古式陰陽道に近代儀式魔術でね。1番最初に扱える様になった魔術が思考加速とか脳機能のバフなもんで。」


父親に叩き込まれた唯一の術式とも言える。曰く知恵の神の頭脳に作り替えるとの事だが、父親の自作らしく詳しくは解析の進捗待ちだ。

それが常時起動型パッシヴなもので魔力を食う為、幼少期から異常な程に使っては回復し使っては回復しと繰り返した為に人並外れた魔力量を持つ。


「成程。」


「そうだ、ジル・ド・レ。俺にあの術式を教える気はないか?」


空間に浮遊し俯瞰で眺める俺たちの眼下には金髪の美少女が髪を振り乱し長剣で国教騎士団を切り捨てる。


「何をする気だ。」


「いや、改良して常時召喚可能にしようかと。」


これはジル・ド・レが思い込んでる理想のジャンヌ・ダルクを召喚する術式。

ストーカーここに極まれりといった感じだ。

ジル・ド・レは頷いたが、彼の思う通りにはならない。

ジャンヌ・ダルク擬きから関連付けてジャンヌ・ダルク本来の人格を呼び戻す術式。


「頼む。」


「構わんよ。貴様らから返してもらう。」


「フランス王国男爵ジル・ド・レはショート、貴殿に忠誠を誓おう。」


「結構、ならばジル。斬り伏せろ。」


「Ja, mein Gebieter」


オーストリアの魔術師の俺に合わせたのかドイツ語で同意を示し眼下のロンドン市街地へと向かった。

フランス語とドイツ語が入り交じった物が魔道通信の回線に流れる。


『司令!ウィンザー城及びウェストミンスターより降伏宣言』


「了解した。直ぐに向かう。」


ネットには偽装工作として反王室の過激派として犯行声明を出させる。幻惑の魔術を使えるもの達が英国軍の反抗を受け、撤退ないしは死亡したように見せ、兵を撤収する。

英国軍士官の戦闘服を来ている俺たちは悠々とウェストミンスター寺院の中へと入る。国教騎士団の騎士たちの死体を通り過ぎた途端、若い数名の騎士がハルバードを使い攻撃を加えてくるが、剣を抜き斬り捨てる。


「主教、愉快な歓迎だな。」


「私の命令では無い。独断先行だ。」


「責任者である事は変わるまい」


「…何が希望だ。」


「アイルランドにおけるヴァチカンの優越。大陸の聖公会権益の整理。対魔術師部隊の指揮権をヴァチカンに認めろ。」


「…大主教猊下は認められた。わかった。」

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絶対無敗の現代魔術師 佐々木悠 @Itsuki515

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