不登校の小学五年生の男の子と、漢服姿の謎の少年の交流を描いたお話。
ホラーです。ホラーへの持って行き方というか、この物語をホラーたらしめる要素がすごいです。
この世のものとは思えぬ美しさ、なんて言いますが、まさにそれ。少年の容姿が美麗であること、この一点で恐怖を表現してしまう。
特に中盤、うすうす正体を疑問に思いながらも、でも美しさに惹かれてのめり込んでしまう。このあたりの描写、惹かれてはならない存在に魅せられている感覚が、まさにホラーという感じで(しかもまだ何ひとつ不吉な要素があるわけでもないのに!)最高でした。
呪いやいわくのような噂もなく、また何か事故が起こるといったこともなく。いかにもな怖い要素はまだ何もないのに、でも物語がしっかりホラーの顔をしている。ちゃんとその先が『開けてはいけない扉』だとわかる。
そして、そのまま読み進めた終盤、いよいよその姿を表す明らかな怪異。その恐ろしさが、でも今度はそのまま彼の美しさを補強する材料になる。恐ろしいものに美しさを見出してしまう。この恐怖と美を渾然一体にしてしまう手法の、その手際にうっとりしてしまう作品でした。
言葉選びやリズムの取り方が非常に上手く、サクラという少年が尋常のものではないこと、順一くんにこれから起こるのだろう決して手放しで喜ぶだけにはならないだろう何がしかが、暗示されるような、手触りのいい文章でした。
このですね、文章の雰囲気でジャンルを分からせるという技術は強い。物語が始まって状況が揃っていって、ようやく世界のリアリティラインが定まる、そういう手順をすっ飛ばして、「これからホラーをはじめます」という空気が文字と文字の隙間から滲み出している。それもただ怖いだけのホラーではないというところまで察せられる話運びと合わせて、非常に上手いと思いました。